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邪悪なる白き勇者  作者: ゼルマン れる
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第三話 豊かな双璧ネーヤ

第三話 豊かな双璧ネーヤ


「うっ…ん?」


 ソーマは窓から差し込んだ日の眩しさで目を覚ます。そこは見たことのない石造りの一室で、真っ白なシーツの敷かれたベットの上に寝かされていた。

 身体を起こしたソーマは寝ぼけてよく働かない頭を無理矢理働かせて、ここがどこだか思い出そうとするがなかなか思い出せない。


「…あっ」


 しばらくして頭が覚醒してきたのか、ツルペタ少女からの得体の知れない恐怖に押し潰されそうになり、更には何かに腕を潰されそうになったことを思い出す。ソーマは慌てて腕を確認するがそこにはしっかりと自分の腕があった。


「よかった…」


 自分の腕が無事なことに安堵していると、部屋の扉が開かれた。


「お目覚めになられましたか、ソーマ様。私はソーマ様のお世話を任されました、ネーヤでございます」


 突然開かれた扉に身構えるソーマであったが、そこにたっていたのは柔らかな笑顔でお辞儀をしているメイド服を着た緑色の髪の長い女性だった。ソーマはツルペタ少女に痛め付けられた記憶から、かなり綺麗な女性だが油断してはいけないと警戒していたのだが、ネーヤが身体を起こすと一瞬にしてその警戒を解いてしまった。何故なら、そこにはソーマの大好きな豊かな双璧がそびえ立っていたからだ。長い髪でお辞儀しているときは気が付かなかったがこうしてみるとかなり立派なものだった。


「あの~ソーマ様?どうかなさいましたか?」


 ソーマはネーヤの声で我に返り、さっと目をそらす。この時、すこし名残惜しいと思ったのは秘密である。


「いや、なんでもないです。…あの、ネーヤさんでしたっけ?ここはどこなんですか?気がついたらここにいて…」


 すっかり警戒心を解いてしまったソーマはネーヤにたずねた。


「ソーマ様、私はソーマ様に仕えるものです。敬語はお止めください」


 ネーヤはすこし怒ったような表情でソーマを諫めた。しかし、ソーマは何故怒られたのかよくわからなかった。


「そう言われても…」

「あ、ソーマ様はリターニャ様に召喚されてすぐ気を失われたのでしたね。だから、御自身が魔族の頂点に立つものだということも知らないのですね?」


 召喚?魔族?頂点?ソーマは首を傾げながらも、どうもアニメや漫画でみたことあるような気がすると思うと同時に『まさかね』と考えた。しかし、余りにも非現実的過ぎたのでこれを否定する。だが、召喚や魔族、それに自分自身が経験した魔法。これらは自分の考えを肯定するものだった。しかし、まだまだ情報が足りないと考えたソーマはネーヤに詳しく教えてくれるように頼んだ。


「ネーヤさん、もっと詳しいこと聞かせてもらえないですか?」

「ソーマ様、だから敬語は…えーと、詳しいことはリターニャ様が直接お話になられるそうです」


 ソーマはリターニャの名前を聞いて苦い顔をした。死ぬ思いをさせられたあのツルペタ少女に会わなければならないと言われたのだから当然である。誰だって好んでそんな奴になんて会いたいとは思わない。


「出来れば会いたくないから、ネーヤさんに教えてもらいたいんですが」

「申し訳ありません。会いたくないといってもソーマ様を無理矢理お連れしろとリターニャ様に強く言われておりますので…」


 小さい望みにかけて、ネーヤに頼んでみたが簡単に打ち砕かれてしまった。


「それでは御召し物お持ちいたしますので、お待ちください」


 そう言って一礼すると扉へと振り替える。ソーマはそんなネーヤの背中にあるものがあるのを見つけて驚きの声をあげた。


「えっ?」

「どうかなさいましたか?ソーマ様」


 不思議そうに首を傾げながらネーヤはソーマへと振り返った。


「あ…いや…背中に翼が」

「あぁ。私はピピステレーロ族なので」


 ネーヤは微笑みながら答えてくれたがソーマにはまったく聞き覚えがない言葉で何なのかがわからなかった。


「 ぴぴ?」

「ピピステレーロ族です。人間からはコウモリ族やヴァンパイア何て呼ばれかたもしますが」


 ネーヤは説明しながらも憎々しげな表情をしながら、拳を握りしめていた。ソーマはなにか不味いことを聞いたのかと思い、慌てて謝罪する。


「すみません。何か悪いこと聞きましたか?」

「いえ、そういうわけではありません。人間達が私たちのことを軽蔑してそう呼ぶのでつい。申し訳ありません」


 そう言うと深々とネーヤは頭を下げた。ソーマはネーヤの機嫌を損ねた訳じゃなかったと安心した。ただ、半分以上はネーヤというよりも見事な双璧の持ち主に嫌われなかったという気持ちだったことは秘密である。


「何か悪いことしたのかと思いましたよ。でも、違うのならよかったです。だから頭をあげてください。」


 ソーマに促されて頭をあげたネーヤだがすこし不服そうな顔をソーマをみていた。


「あの~…ネーヤさん?」

「ソーマ様、だから敬語はお止めください」

「あー…次から気を付けま…気を付けるよ」


 知り合ってまだ数分しか経ってない相手でよく知らないのに敬語以外で話すことに抵抗を感じながらもなんとか返事を返した。


「はぁ…。ソーマ様、『即位の儀』までにはなんとか慣れてください。それでは御召し物をお持ちします」


 ネーヤはソーマのぎこちない話し方にため息をつきながらも、ソーマの着替えをとりに部屋を出ていった。

 また、わからない単語が出てきたなと思いながら、ソーマはまた考え始めた。ネーヤの翼に あえて『人間』と言っていたこと。やはり自分の仮定は間違ってなかったんじゃないかと考えた。


「…異世界、か」


 異世界。それがソーマのたてた仮説だった。突然、コンビニ帰りに光に包まれ、気がつくと見知らぬ場所にいたこと。不思議な力に魔法、背中に翼の生えた種族。まるで漫画やアニメでしか聞かないような言葉。これら全てがここが自分の知っている世界ではないと訴えていた。もしかしたら夢かもしれない、全てに仕掛けがありドッキリかもしれないとも考えた。でも、これは現実なのだろう。何故だかわからないがそう感じるのだ。いや、自分の中にある『何か』が訴えているという方が正しいだろうか。とにかく現実だと直感していた。


「はぁ…こんな直感ハズレてればいいのに…あの巨乳だけが心のオアシスだよ…」


 独り虚しく呟きながらネーヤが帰ってくるのを待つのだった。








「はぁ。疲れたわ…」

 ここはリターニャ専用の執務室で来客用の高級な机や椅子、壁には有名な画家が書いた絵や棚には高価な装飾品が飾られてあり、他の幹部達の執務室よりも数段階上のもので揃えられていた。そんな場所でリターニャは自分の机の上に突っ伏していた。そんな隣でお茶淹れながらセバスが声をかけた。


「お疲れ様です。御嬢様」

「労いの言葉なんていらないから2ヶ月間の休みをちょうだい…」


 相当疲れているのか、リターニャの声にはまったく覇気がなく突っ伏したままで動こうとしない。笑顔でソーマの腕を潰そうとした人物と同一だとは思えないほどだった。


「それは無理でございます。これから延期した祝賀パーティーに即位の儀、更には婚姻の儀に国民への御披露目とこの先数ヵ月間は忙しいのです。御嬢様には休んでる暇などありません。ましてやソーマ様のこともありますし…どうぞ」


 そう言うと淹れていたお茶を突っ伏していたリターニャの前へと置いた。リターニャは力なく身体を起こし、セバスが淹れたお茶を啜る。


「…おいしい」

「ありがとうございます」


 セバスの淹れるお茶いつも美味しく、飲むと疲れが抜けていくような気がする。リターニャはセバスの淹れ方が上手いからだと思っているが、実はそれだけではなくリターニャの体調や気分に合わせて茶葉の配合を変えている。だから、いつでも美味しいのだ。余談だが、茶葉を変えるため毎回味が微妙に違うのだがリターニャはまったく気がついていない。実は本人以外は皆知っているのだがリターニャはかなりの味音痴である。


「ありがとう、セバス」


 お茶を飲み終えたリターニャはセバスにお礼をいってカップを机の上に置く。セバスは軽くお辞儀をするとさっとカップをとり片付けにいく。

 そんなセバスを見ながら背もたれへともたれかかり目をつぶる。


「…なにもかも全てソーマのせいだわ…あいつが来なければ今頃はバカンスだったのに」


 そもそも何故リターニャがここまで疲労しているのか。それは、ほぼソーマのせいといっても過言ではなかった。本来なら、成人の儀が無事に終わり各部族の長や部下たちと祝賀パーティーをした後に、成人の儀で召喚した『婿』と数日間のバカンスの予定だった。しかし、実際はソーマが召喚されてしまい、なによりソーマは人間だったのだ。集まった各部族の長や部下の中には人間に迫害されたり、憎しみを持つものが多い。そんな中に『婿』だと人間を連れていけるわけがない。それこそ暴動が起きかねない。そのため、祝賀パーティーを中止したのだが、各部族の長や部下への説明、各日程の調節に国民への説明など。最も説明とはいっても、召喚したものが人間でしたと言ったわけではなく、体調不良だと虚偽の説明をしたのだが。他にもソーマの正体を隠すために色々造ったりしたことが余計にリターニャを疲れさせていた。

 思い出しただけでもどっと疲れたリターニャはこのまま寝てしまおうかと考えていると部屋の扉がトントンとノックされた。


「ネーヤです。ソーマ様をお連れいたしました」


 ソーマの名前を聞いただけで、もうイライラしてしまうリターニャはネーヤの呼び掛けを無視しようとしたがカップを片付け終え、横で待機していたセバスの視線に気づく。


「…もう、わかってるわよ。入りなさい」


 これからのことを思い、頭が痛くなりながらもソーマを部屋へ迎えるのだった。

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