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邪悪なる白き勇者  作者: ゼルマン れる
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第二話 怠け者で残虐?魔王女リターニャ

第二話 怠け者で残虐?魔王女リターニャ


 少女は苛立っていた。

 少女は超がつくほどの怠け者である。そんな少女は今日の成人の儀を迎えるために色々と面倒なことをこなしてきたのだ。例えば、成人の儀についての講義に魔方陣の製作、少女が『治める国』の各地域の部族長や幹部への通達をかねた食事会に成人の儀の後の祝賀パーティーの準備等々、怠け者の少女とは思えないほどよく働いたのだ。なお、この陰にはセバスの涙ぐましい努力(監視、捕縛、説教)があったことを記しておく。

 そんな面倒なことも漸く終盤を迎え、残すは成人の儀と祝賀パーティーのみ。これらさえ終われば、真面目に働く代わりにセバスから勝ち取った数日間のバカンスが待っている…はずだった。

 だが、実際はどうだろう。術式は暴走し、魔力は空っぽ。おまけに突然『人間』が全裸で現れた。それだけでもう頭が痛いのに、更には言葉が通じないと言う特典つき。正直、数日間のバカンスでは割りに合わないと思った。一ヶ月はだらだらと過ごしたい。

 少女がそんなことを考えている間に、セバスが魔力で人間に直接語りかけていた。

 これは魔力で直接相手の魔力に干渉することにより、こちらの伝えたいことを相手が理解できるように正確に伝えることができる。また、一対一だけではなく、今のセバスのように周りの人物に無作為に干渉し、一対多の伝達も可能である。これは言葉を持たない種族や知能の高い魔物がよく使い、この世界の生き物なら誰でも使えるものだった。

 にもかかわらず、人間は尚もどこの言葉ともわからないもので話しかけてくる。この事が少女を更にイライラさせた。


『貴方はバカなのかしら?言葉が通じないからこうして直接話しかけてるんでしょ?あなたも同じようにしなさいよ』


 少女の言葉を聞き、人間は今度は難しい表情をしながらなにやら念じ始めた。少女は漸く話す気になったかと思ったが、そうではないのはすぐにわかった。何故なら、難しい顔で念じている割りには自分達に向かって魔力が伸びてくるどころか人間の纏う魔力がピクリとも動かなかったからだ。

 これをみて少女は疑問に思った。いくら、魔力が弱かったり、自身が纏う魔力の制御がうまくても、生き物が纏う魔力は必ず揺らぐものなのだ。ただ、例外はある。それは『魔法を使ったことのない生まれたての赤子』だ。だが、目の前の人間は赤子にはみえない。つまり、


『貴方…まさか魔法が使えないのかしら…?』


 少女の言葉に人間は頷いた。少女は驚きのあまり、イライラを通り越してもうどうにでもなれと投げたしていた。セバスも少女を庇いながら驚いていた。少女はそんなセバスをみて、普段ほとんど表情や声に起伏のないセバスが今日は驚いてばかりだなぁとどうでもいいことを考えていた。


「…まさか、魔法が使えないとは…御嬢様、いかがいたしましょうか?」


人間への警戒をときセバスが少女へと振り替える。警戒を解かれた人間は、セバスからの圧から解放され、ほっと息をはいていた。


「そうね…めんどくさいけど話ができないことにはどうしようもないしね…『ラ・プレゼンタ・ズィオーネ』」


 少女は何かを唱えると、魔力を練り相手へと伸ばした。それは彼女本来の魔力の色『紫』から人間に近づくにつれて『白』へと『偽装』していく。魔力が近づくにつれ人間は逃げようとするがさっきまでのセバスの圧力が効いてるのか動けないでいる。そしている間に人間の魔力へと触れ一体化する。


『ほら、これでお互いに会話出できるようになったはずだわ。なにか念じてみなさい』


 人間がまた難しい顔をして念じ始めた。


『あ~あ~、マイクのテスト中~マイクテスト中~』

『マイクってなんなのかしら?』

『うおっ!?ほんとに通じたよ!これで俺も超能力者かな?』


 なにか訳のわからないことをいっているなと思いながらも漸く会話ができたことに少女は安堵した。


「セバス、人間と会話できたわ。私が仲介するから魔力を繋ぐわね」


 そういうと少女はセバスにも魔力を繋いだ。


『さてと、会話もできるようになったことだし貴方が何者なのか聞かせてもらおうかしら?』


 そうすると人間はなにやらまた難しい顔をして念じ始めた。少女は、そんなに強く念じなくても伝わるのになと思いながらも、面白い顔だったので放置することにした。


『えーと、初めまして。富野 颯天といいます』

『ほう、苗字持ちですか。しかし、トノと言う苗字は聞いたことありませんが』


 セバスは感心しながらも首を傾げた。


『そう、ソーマと言うの。では、私も名乗ろうかしら?私はこの国、マーレーニョの王女、マーレ・プリンチペッサ・リターニャよ。貴方たち人間の間では魔王女リターニャのほうが分かりやすいかしら?そしてこっちが執事長のセバスよ』


 名前を呼ばれたセバスは、綺麗なお辞儀を見せた。


『マーレーニョ?魔王女?いったいどういう…』

『あら、私のこと知らないの?貴方、バカなのかよほど世間知らずなのね。苗字持ちのようだしどこかの貴族のボンボンかしら?』


 リターニャはこの世界で名前を知らないものはいないというほど有名人。しかも『人類の敵』である彼女のことを知らないものなど人間にはほぼいないのだ。なのに知らないなんて。なんでこんな世間知らずのバカの相手をしなければならないのだ、早く帰って寝たいと思いながらもリターニャは質問を続けた。


『どこからここへ侵入してきたの?そしてその理由は?まぁ、理由は貴族がバカな息子を使って名でもあげようとしたってところかしら。でも、ここへの侵入方法がわからないわ。幾重もの結界を抜け、この城を守る兵士にも私の親衛隊にも見つからず、更にはセバスですら突破できなかった『マーレ・ナシタ』の結界すら突破して祭壇に現れた。いったいどんな手品を使ったのかしら?…教えてくれるわよね?』


 背筋の凍るような笑みと同時にリターニャから強烈な殺気が放たれた。それは、セバスがソーマに向けていたものよりもはるかに強いもだった。それでもリターニャにとっては、あくまで『脅し』レベルである。その殺気を浴びせられたソーマは血の気が引き顔が真っ青になっていく。


『あら、言いたくないのかしら?そう…なら、腕の一つでも潰してあげようかしら。面倒事を持ち込んだもの。当然の報いよね?』


 ソーマは言いたくないのではなく、恐怖でただ考えが纏まらないだけなのだが、それはリターニャを更にイラつかせた。もはや脅しどころか、半ば面倒事を持ち込んだソーマに八つ当たりぎみに殺気をぶつける。ぶつけられたソーマは本能的に感じ取った余りの恐怖にがくがくと震え、息が上がりなにも考えられなくなる。


『…頑固なのね貴方。なら話したくなるように潰してあげる♪』


 そういうと笑顔で魔力を込めた手をソーマに向かって掲げる。するとソーマの腕は何かに骨がきしむほど力強く掴まれ激痛が走る。ソーマは逃げようとするのだが恐怖のあまり身体が言うことをきかない。今にも腕が潰れようかというときにセバスがリターニャを諫めた。


『御嬢様、それ以上なさいますと、彼が死んでしまう可能性があります。お止めください』


 諫められたリターニャは不機嫌な顔でセバスを睨んだ。



「セバス、こいつを庇う気?」


 セバスはこれを横に首降ることで否定する。

 

「そうではありません。今、彼を殺してしまいますと、ここへ侵入した手段も誰の仕業かもわからなくなります。そうなると御嬢様の嫌いな仕事や面倒事が増えます。当然、その分お休みも減ります」


 休みが減るという言葉に反応し、リターニャはこれ以上ないくらいの渋い顔をした。


「セ、セバスが調べれば問題ないじゃない」

「確かに私が調べれば、多少時間はかかるかも知れませんが問題なくことを運べるかもしれません。しかし、相手はここに侵入できる術を待つもの。できるだけ短期間で正確に調べあげなければなりません。そうなると私が直接赴いて調べることになります。その間、御嬢様の世話や御嬢様がサボった仕事は誰がするのですか?もしや、御嬢様自身が全てなさってくれるのですか?それなら、彼を殺しても構いません」


 セバスのマシンガントークを聞き、リターニャは拗ねたように頬を膨らます。その表情は背筋の凍るような笑顔から、年頃の少女へと変わっていた。


「もう!わかったわよ!」


 そう言うと、ソーマへ放っていた殺気をおさめ、かざしていた手から魔力を消した。殺気と腕の激痛から解放されたソーマは、命の危険から解放されたことにより安堵したのか気を失う。


「まったく…だらしないわね」

「御嬢様の殺気を放たれ、発狂しない人間と言うだけでも大したものだと思いますが」


 確かに、普通の人間ならリターニャの殺気で気がふれていてもおかしくなかったのだ。意外とソーマは強者なのかもしれないと思ったが、リターニャはそこで思考をやめる。


「セバス、あとは任したわ。私は休むから」

「わかりました。御嬢様。彼は地下牢にでも運んでおきます」


 そう言うとセバスは、ソーマへと近づいていく。それを確認したリターニャは、この儀式の間から出ようとするのだが、セバスに呼び止められた。


「お、御嬢様!これを!」


 セバスは、ソーマを担ぎながらリターニャに近づき、ソーマのうなじ部分をみせる。


「!?」


 リターニャはソーマのうなじにあった『それ』みて絶句する。


「どうやら、侵入者でもただの人間でもないようですね。やはりこのソーマには詳しく話を聞く必要があります」


 セバスは淡々と考えをリターニャに述べるが、リターニャは今の状況に頭がついていかないでいた。


「なんで…そいつにそれが!?」


 狼狽えるリターニャの視線の先にはソーマの首筋に描かれた『魔王の紋章』があった。

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