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邪悪なる白き勇者  作者: ゼルマン れる
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プロローグ

プロローグ


 とある暗闇の中。

 うっすらと輝く蝋燭の火に照らされ、かろうじてここが室内だと言うことがわかる。室内の床や壁一面には何か文字や模様のようなものがところ狭しと書き込まれている。

 そんな中に二つの影が揺れていた。


「とうとう、この日がやって参りました。御嬢様」


 年老いた男のあまり抑揚のない声が響き渡る。


「このセバス、この日を迎えられたことを至高の喜びと感じます」


 声に抑揚は感じられないが、嬉々としたものが滲み出ていた。


「御嬢様、準備はよろしいですか?」


 しかし、年老いた男の呼び掛けにもう一つの影は答えない。


「御嬢様?」


 もう一度呼び掛けられ、漸く影はどこか物悲しそうに、幼さの残る少女の声で呟いた。


「…出来れば御父様にも見て頂きたかった…」

「御嬢様…」


 老人は『主』の言葉に胸をつまらせた。『主』を守れなかったあの日を思い出して。

 暫しの沈黙が訪れる。しかし、そんな重苦しい空気を破るかのように少女が囁いた。


「でも、私をここまで育ててくれたセバスに『成人の儀』を見せれてとっても嬉しいわ」

「勿体なき御言葉です」


 セバスと呼ばれた年老いた男は主の言葉が自分を気遣っての言葉だと感じながらも、それがまた本心であることもわかっていた。幼い頃から今まで『千何百年』も付き従ってきたのだから、主の想いを汲み取れて当然である。


「御嬢様、準備はよろしいですか?」


 セバスは、気を取り直してもう一度主に確認をとった 。


「ええ、大丈夫よ。でも、うまくいくかしら…」

「御嬢様ほどの魔力があれば、何事もなく終わるかと」

「そう。そうだといいのだけれど…」


 未だに不安げな少女は床にある模様の中の一つの上に立ち、呼吸を整えると前へと左手をつき出した。


「このままこの術式に魔力を注げばいいのよね?」

「はい。御嬢様の総魔力の半分で術式が一杯になるはずでございます」


 少女はセバスの言葉を聞き、顔をしかめた。


「半分も使うだなんて怠いわね。せめて、三分の一にでも…」

「御嬢様」

「わかってるわよ!もう、セバスはいつも厳しいわね」


 少女は拗ねたように頬を膨らませながらセバスの方へ振り返る。そんな主の姿を見て、セバスはやれやれと肩を竦めた。


「このセバスが厳しくしなければ、すぐ怠けようとなさいますから。第一、歴代の方々でもほぼ全ての魔力を消費しても術式は一杯にはならなかったのです。それが、御嬢様では半分で一杯に出来るのですから怠けないでください。」


 少女はムスっとした表情で前を向き直し、先程と同じ様に手を掲げる。


「セバス、始めるわよ」

「はい、御嬢様」


 セバスが言い終わる頃には、拗ねたような年頃の表情からスッと表情を引き締めた。その表情はどこか大人びていて、主と呼ばれるに相応しい表情をしている。


「はぁぁぁっ!」


 少女の声と共に周囲には風が巻き起こり、室内を照らしていた蝋燭が消える。しかし、少女から放たれる『黒い光』が辺りを照らし、蝋燭が灯っていた時よりも明るく、室内がよく見えるようになっていた。

 やがて、少女から放たれていた『黒い光』が掲げた掌に集まり球体を作る。そこからはまるで雲の狭間から降り注ぐ太陽の如く帯状の光が床に落ちる。その瞬間に少女の立っていた魔方陣は紫色に輝きだし、どこか禍々しい雰囲気を纏いながら周囲の魔方陣へと光を拡げていく。

 床や壁の魔方陣を染め上げた光の先には小さな祭壇のようなものがあり、その中心に描かれた魔方陣へと注がれる。

 そんな様子を見ながら、セバスはほっと息を吐いた。歴代の『主』と同じ。いや、それ以上の輝きを魔方陣は見せている。まずは成功といって間違いないだろう。そもそも、今まで誰も失敗したことのない魔法である。心配すること自体が杞憂なのだろうが、つい心配してしまうのだ。子供のいないセバスは、親心とはこのようなものなのだろうかと考えていると怠そうな様子で少女が叫んだ。


「セバス!」

「なんでございましょう。御嬢様」


 未だに風が巻き起こっているので、セバスは少し大きめの声で返した。


「術式は私の魔力の半分で一杯になるのよね!?」

「はい。そのはずですが…いかがなさいました?」


 今更の確認にどうしたのかと首を傾げるセバス。


「どうしたもこうしたもないわよ!とっくに半分以上魔力を供給してるのに一杯にならないのよ!」


 怠いわなどと、少女はブツブツ文句をいっている。セバスはそんな少女を無視しながら、この短時間で半分以上もの魔力を注ぎ込むとは、いつの間にこれ程まで魔力操作が上手くなられたのかと感心していた。


「やはり、やれば出来るのですね…。御嬢様、魔力量の予想に多少のミスがあったのかもしれません。しかし、順調に進んでいますので大丈夫だと思われますが」


 普段では絶対にあり得ないミスを犯したことを疑問に思いながらも、自分もこの日に浮かれていたのではという結論に至る。致命的なミスではなかったから良かったものの明日から気を引き締めなければと自らを戒めた。


「えっ?」


 突然、少女の声と共に身体から強烈な光と風が放たれた。

 セバスはあまりの眩しさに手で目を庇う。それと同時に今まで感じたことのない圧迫感で胸がつまった。胸の圧迫感に耐えながらも、セバスは主に呼び掛けた。


「くっ…御嬢様!」


 少女は呼び掛けに力なく答えた。


「あぅ…な、なんなのよ…勝手に、くっ。術式に魔力を…」


「なんですと!?」


 今までにないくらいの大きな声でセバスは叫んだ。普段は感情の起伏があまりないその顔は驚愕に染められていた。

 それもそのはずである。術式に魔力を『強制的』に吸い上げられる。それはすなわち、術式の『暴走』もしくは『失敗』を意味するからだ。


「御嬢様!早くその魔方陣から離れてください!」

「だめ…身体が…動かない…」


 少女が膝をつきながら答える。その姿から急速に魔力が吸い上げられていることがわかる。

 セバスは急いで主を助け出そうと駆け出すが、魔方陣から溢れ出す紫の光によって弾き飛ばされる。何故ならこの魔方陣には、術者以外が魔方陣内部に入り干渉できないように結界を張る術式が組み込まれていたのだ。

 セバスは苦々しく顔を歪めながらも、他の策を考える。

 そんなとき、小さな祭壇に描かれていた魔方陣が強く輝きだした。その光は黒く輝きながらも白い輝きを放っていた。


「白き魔力ですと!?何故!?」


 セバスが混乱したように叫んだ。しかし、それを無視するかのように白が黒を飲み込み真っ白に染め上げる。その瞬間、とてつもない光と風が巻き起こり、セバスを壁へと吹き飛ばした。

 壁への激突の衝撃で息がつまりながらも、光で眩んだ目を凝らし主の姿を探す。だが、辺りは先ほどまでの光と風が嘘のように消え、暗く静まり返っていてよく見えない。セバスは掌に『黒い炎』を灯し前を照らすと、魔方陣の中で膝をついたままの主を見つけた。


「御嬢様!ご無事ですか!?」


 慌ててセバスは主に向かって駆け出した。

 先ほどとは違い、結界に弾かれることもなく主のもとにたどり着く。


「ええ、大丈夫よ。セバス。魔力がほぼ空で物凄く怠いけどね」


 少女は『一点を見つめながら』弱々しくもいつもの調子で答えた。それを聞きセバスは、大事には至ってないとほっと胸を撫で下ろした。


「それよりもセバス。あれ…」


 主が指差した先を見ると、小さな祭壇の上に人影がうつ伏せに倒れながらもこちらを見ていた。セバスは『成人の儀』が成功したのかと思ったが、そうではなかった。よくみるとその人影は、ここにいるはずのない『人間』だったからだ。

 セバスは慌てて主を庇うように『人間』との間に入った。何故ここに『人間』現れたのか。どこからに侵入したのか、その目的はなんなのかと疑問はつきなかったが、神経を研ぎ澄まし『人間』を最大限に警戒した。

 どれ程の間睨みあっていただろうか。長い沈黙に痺れを切らしたのか『人間』がとうとうセバス達に話しかけた。



「えー…あー…その初めまして。富野 颯天です」

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