97閑話 『我が主』ソルティスの愛馬アレキサンダー視点
ご感想に馬萌えされていらっしゃる方がいたので書いてみました。
本編とは関係ありませんので興味ないかたは飛ばしてくださいね。
我輩は馬である。 名前をアレキサンダー、吾輩の主の名前をソルティス・ダスティア様と言う。
我輩は何代も前からダスティア家にお仕えしてきた。
ダスティア家の皆さんは元来愛情深く、我等にも惜しみ無い親愛をもって接してくれる。
ダスティアの領地には美しい牝馬も多く、飼い葉もうまい。
そして吾輩の主の妹姫殿は幼き頃より良く主と共に馬屋を訪れては我輩の身体をブラシで撫でてくれたものよ。
時おり主の目を盗み、オレンジ色の甘いニンジンと言う野菜を大量に持ち込んでは、我輩や馬仲間に振る舞ってくれる心優しく気前のよい姫君だ。
馬の我輩に人間の美醜は判断しかねるが、我輩に短い手を懸命に伸ばしてブラッシングしてくれる様子は胸に染みる。
我等はリシャーナ様が大好きだ。
しかし先日リシャーナ様の身に何かあったらしく、我輩は主が望むまま目的地まで休憩も惜しんで駆け抜けた。
途中王都育ちの若い馬達が次々と失速して主の足を引っ張っていたのには、大変憤りを感じた。
軟弱ものどもめ。王都のように地面が整地され、歩きやすいように整備された街中しか歩かないから足腰が弱いのだ。
呑気に飼い葉を食む連中を睨み付ければ、恐縮したように縮こまる。
少しはダスティア家の同僚を見習わんかい!
ダスティア家にはお前達のような軟弱な馬は居ないぞ。
「アレキサンダー、強行軍になってしまいすまない……少しでもはやくリシャの元へ行ってやりたいんだ……」
我輩の首もとに顔を埋めて、苦しげにしている主の髪を食んでやる。
リシャーナ様はそう簡単に潰されるようなお方じゃない。
不安に揺れる主を支えるのも我輩の使命。
騎士である主と共に軍を率いて隣国まで赴き、再会を果たしたリシャーナ様を我が主が吾輩の上へと引き上げる。
感動の再会に水を指すわけには行かない。 きっと姫を溺愛している主の事だから早々にダスティアへ帰る事だろう。
背中で繰り広げられる再会の抱擁を静かに見守りながら思う……我輩は主の伴侶を乗せるときが来るのだろうかと時おり不安になるのだった。