93『あれから二か月』
ソルティス兄様との感動の再会から二月あまり経過した本日、私リシャーナはお隣の国フレアルージュ王国で、第三王子ロキシアン・フレアルージュ殿下の即位式に参列している。
列席者でごった返す大きなホールでは現在ロキシアン様が即位の祝詞と代々国王陛下に受け継がれる王冠を授かっている最中だ。
この二ヶ月間にローズウェル、フレアルージュ、ゾライヤの三国は戦後処理やら戴冠式やら何やらで揉めに揉めた。
まぁ、ソルティス兄様と再会したその足で私はダスティア公爵家に高飛びしたので実際の戦後処理は見ていない訳ですが、簡単にこの二ヶ月間に有ったことをお話したいと思います。
まず、戦後処理の見届け人としてディオンを人身御供に置いてきました。
ディオンの報告ではアルファド殿下と再会を果たしたアラン様は敬愛してやまない異母兄君の生存に、涙して喜んだそう。
そりゃそうか、死んだと思っていたわけだし。 しかし、感動の再会はアルファド殿下から知らされた背景のお陰で崩れ去ったみたい。
アルファド殿下の話だと、ゾライヤ帝国の皇帝フランドル陛下の悪政に不満があり、第二皇子イーサンを次期皇帝にと望んでいた一派の動きを知りつつも放置していたそうだ。
雲行きが怪しくなってきたため、アルファド殿下の母君アーニャ様は早々に宰相家に待避。
宰相子飼いの暗殺者をイーサン派閥に潜り込ませていたらしい。
暗殺者が探りだした情報は自分と皇帝を殺害し、その罪をアラン様へ転嫁して処刑し、イーサンを皇帝につけると言う計画だった。
イーサンのご母堂イゼリア様の実家が推し進めるフレアルージュ王国侵攻の遠征に反対せず、動き出した所を見計らい皇太子死亡の偽情報を流し、逆賊を炙り出し一網打尽にしたそうだ。
また計画は全てアランに伝えられず秘密裏に行われていた様で、なぜ自分に知らせずに危険な不穏分子の炙り出しをしたのかと憤慨するアラン様。
「良く言うだろう? 敵を欺くにはまず味方からと」
アラン様の頭頂部を撫でながら当たり前のように言ったそうです。
そんなわけで、ゾライヤ帝国はアルファド殿下が皇帝に即位され、即位式にはフレアルージュ王国に居たルーベンス殿下がローズウェル国王セオドア陛下の名代で参列されたそう。
お目付け役のソレイユ兄様の話ではきちんとお役目を全うされたそうなので離れている間にもきちんと再教育は続いたみたい。
続いてフレアルージュ王国で行われたのが、ローズウェル国王とフレアルージュ王国、ゾライヤ帝国との間で新しく結ばれた不可侵条約だ。
基本的にはお互いに攻め込まないこと。条約を破り攻め込んだ場合は残り二国で迎え撃つ事。
その他にも通商条約やら何やら色々盛り込んだらしい。
いやぁー、皆さん働き者ね。 頑張って!
そして条約締結後の本日行われているのが新国王ロキシアン・フレアルージュ陛下の即位式だ。
そして会場の隅には、カイザール・クラリアス伯爵子息改め、第二王子カイザー・ローズウェル殿下と、ローズウェル王国まで迎えに来たロキシアン様と共にフレアルージュ王国入りを果たしたマリアンヌ・カルハレス元準男爵令嬢が、涙を流しながら愛しいロキシアン様の勇姿を見ている。
幼い命の宿った腹部は産み月が近いためはち切れんばかりだが、ロキシアン様はマリアンヌ様がローズウェル王国で起こした過ちをセオドア陛下に謝罪し、賠償やら何やらを払った上でマリアンヌ様をひきとられた。
既にロキシアン様の子供を宿しているため、時期をみてマリアンヌ様は一度フレアルージュ王国の高位貴族へ養子に入られた後、ロキシアン様へ側室として入られるそうだ。
流石に他国に迷惑をかけた女性を正妃には出来なかったらしいが、それでもマリアンヌ様は再びロキシアン様の側に居られることが幸せだと話していた。
まぁ、それは良い。 良くないのは私の隣……王族の礼服をきっちりと着こなし、堂々とドレスを着た私をエスコートするローズウェル国王“代理”第二王子カイザー・ローズウェル殿下だ。
あっ、ちなみにバッサリ切り落とした髪はアラン様の持ち物に仕舞ってあった地毛をソルティス兄様が回収してくれたので、それを使用して鬘を作った。
髪が延びるまでは鬘を使用することになるだろう。
それは置いといて、カイザール様、第二王子ってどう言うこと? 私聞いてないんですけど!
睨み付けてやれば満面の笑顔で返された。
解せぬ……
何事もなく過ぎた式典に引き続き行われた披露宴も大変和やかに幕を上げた。
披露宴で何故かカイザール……カイザー様にエスコートされながら挨拶回りに強制連行されている訳ですが、目の前には笑顔で猛吹雪のような寒々しい雰囲気を吹かせているアラン様と、これまた不機嫌丸出しなカイザー様……
前門の虎と後門の狼……だ、誰か助けて!