83『えー私が悪いの?』
男性器に対して若干不適切な表現がふくまれます。
男性の読者様、うちの子がすいません。
エッサ! ホイサッ! ドッコイサ!
陽動はうまくいっているようで、私達は見付かることなく調理場の天幕へと逃げ込めた。
「ゾロさん、ボケッとしてないで綺麗なお湯を貰って来て! あと清水も汲んできて! ノアさん! 消毒に使えそうなお酒残ってる?」
「えぇ、旦那が隠し持っている筈だから取ってくるわ。」
次々と指示を出せば慌ただしく二人が出ていった。
上手く袖が上がらないアバヤに四苦八苦しながら部屋の中から荒縄を引っ張り出して襷掛けに纏める。
今は目の前に横たわる眠り姫の手当てが先決だ。
「おい、お湯を貰ってきたぞ!」
「ありがとう! そこに置いて! あと雑兵の服でいいから貰って来て!」
「おう!」
ゾロさんは桶に貰ってきた白湯を私の足元に置くと、止めるまもなく出ていった。
清水を取りにいったのかも知れない。
白湯に浸した布を固く絞り、血液や泥で汚れた露出している部分を拭く。
しまった失敗した。 アバヤを脱がせるのを手伝って貰えば良かった。
きちんと身体を鍛えているため、細身にみえてもアラン様は筋肉質で重いのよね。
まぁ、過ぎたことは今さら悔やんでも仕方ない。かなり重労働だけど一人で剥くか。
服を脱がせなきゃ患部の確認も出来ないしね。
私にはきちんとした医学の知識はないけど、傷口の消毒くらいならなんとかなる。
「アラン様、ちょっと服を脱がせますからねっ!」
一応断りを入れてから袖から両腕を抜き、足元の裾を捲りあげるようにして脱がせていく。
上半身は身体を転がして背中を浮かせて左右から半身ずつ脱がせる。
首もとまで脱がせると白いシャツと黒いスラックスがアバヤの下から現れた。
シャツの上に着込んでいたアラン様の紋章が刺繍された上着は、身代わりの兵士に着せて来たけれど、先程チラリと確認したシャツは所々血液で赤く染まり痛々しい。
なるべく衝撃を与えないように注意しながらアバヤを一気に剥い……やばっ、顎が引っ掛かった。
流石に目が覚めるかと身構えたが、よしよし。 意識が戻った様子はない。
若干先程より顔色が悪い気がするが、きっと気のせいよね……うん。
胸元を閉じていたボタンをプチプチと外していくと、鍛えあげられた胸板が見事な青アザに彩られている。
身体中に軽度の裂傷多数発見、良く見れば脇腹も……
自分の方に顔を向けて身体を傾けると背中にもビッシリ傷跡が。
うわっ、痛そう。
とりあえず血がこびり付いた傷口を白湯で拭き取りながら、清拭していく。
ノアさんが消毒用のアルコールを持ってくるまでの我慢だろう。
この様子だと今晩辺り熱が出るかもしれない……そう言えば下半身の怪我は大丈夫だろうか。
足首にも打撲痕が残っている、ハッ! もしかして下半身も悲惨な事態になっているのでは!?
スラックスに伸ばした手は目的地にたどり着く前に拘束された。
「ちょっと待った! お嬢! 一体何してんの!?」
いつの間に戻ってきたのかディオンは私を背中から抱き付くようにして手首を掴んでいた。
「あっ、ディオンお帰り。 お疲れ様、遅かったわね。 どうだった?」
「どうもこうもえらい目に遭いましたよ! お嬢、なんつう作戦を考えるんですか! もしかして全て折り込み済みじゃありませんよね!?」
「ん? あんまり音は聴こえなかったけど、もしかして粉塵爆発起きたの!? どうだった!?」
知識としては知っていたけど、あれって故意に起こせるものなのね。
「……」
「ディオン? どうしたの急に黙り込んで」
「結論から言わせて頂くと、爆発どころか鎮火しました」
「えっ! 本当に? それなら一体どうやって騒ぎを起こしてきたのよ」
ちょっとやそっとの騒ぎでは、ここまで蜂の巣を突いたような騒動にはならないと思うんだけど?
現に今も天幕の外からは混乱を収めようと各隊長格の怒号がバンバン聞こえているようだし、宴どころか一気にパニック状態だ。
「……それはともかく! お嬢駄目じゃないですか! 未婚の娘が成人男性の服を脱がせるなんて!」
「え! だってそれは……」
「だってじゃありません! 嫁入り前にとんでもないモノをお嬢の視界に入れたとなったら、旦那様や御兄様方に俺が殺されます!」
「むぅ、充填前なんてみんな似たり寄ったりでしょ。 それにここは戦場だよ? んなもん見飽きたわ」
何度水汲みのために行った泉で、水浴びの兵士さんが真っ裸で目の前を走っていったと思ってるのよ。
風に揺られてるモノなんてとうの昔に見慣れたわ。
「見飽きたってナニを!? 似たり寄ったり言うな! 男の子は繊細なんだ! はぁ、あとは俺がやりますから、お嬢は今のうちに飯でも食べてきてください!」
なぜか涙ぐみながら私をグイグイと天幕の外へと押し出すディオンの勢いに負けて、私はノアさんのところへと向かった。