75『異世界転生は忍者ですか!?』ディオン視点
ディオン目線でお送りいたします。
「あーぁ、王子様案外呆気なく捕まっちゃってまぁ。 信用してお嬢を預けたんだけど期待はずれだったなぁ」
近場で待機していた同僚に、ダスティア公爵家のお歴々へのリシャーナの所在の報告を押し付けて、俺、ディオンはゾライヤ帝国の遠征軍内に潜入し直していた。
今ではかなり鍛えられたお陰でこうして公爵家なんて大貴族の影をしているが、我ながらよくもまぁ環境に適応できたものだと感心する。
まさか俺が影、忍者をすると誰が思うよ。
転生と言う言葉を使うのは不本意だが、間違いなく俺の仲間連中に話せば「お前が忍びとかマジウケる」と爆笑されただろう。
古くなったトンネルを補修する土木工事の仕事をしている最中に土砂崩れに巻き込まれて、気が付けば俺は僅か三歳の子供になっていた。
はっきりいって俺はファンタジーなんて夢物語に興味はなかった。
二次元に夢をみるような連中は鼻で笑って見下したし、生まれ変わりだの異世界だのと騒ぐやつは、現実すら受け入れられない頭のおめでたい奴等だと嘲笑った事もある。
誰が信じるんだよ。そんな寝物語。自分の身に降りかかった今でさえ俺は自分が狂ったんじゃないかとおもってる。
酒と煙草、あと給料が入ればギャンブルに走る潤いのない生活に未練はないが、少なくとも今居る世界が俺が暮らしていた日本とは遠く離れた場所であることだけは理解した。
違うな、理解させられただ。
俺が俺であると認識した時には既に周りにまともな大人なんていなかった。
こう言う環境をスラムと言うのだろうか、親の無い子供が集まり窃盗や物乞いをしてゴミを漁り、鼠や虫を潰して食いつないだ。
それでも次々と大人は当たり前のように産まれて間もない赤子をスラムへ棄てていった。
目の前で赤子が冷たくなり死んでいく現実に俺は憤りを覚えた。
俺やスラムの餓鬼が鼠や虫を食ってるのに、大通りを走る馬車に乗った連中はボロボロの布を体に巻き付けた俺らをお上品な姿からは考えられないような汚い言葉で罵った。
食べ物を獲るためにスラムの餓鬼で徒党を組み、身なりの良さそうなギラギラと着飾ったオヤジを襲った、どうやら相手が悪かったらしい。
襲ったオヤジはこの一体の地主のバカ息子だったのだ。
そのせいでスラムの仲間に迷惑がかかっちまった。
地主の息がかかった衛士達に、取り調べと言う名前の集団暴行を受けて遺棄された俺は偶然通りかかったダスティア公爵家の末の姫リシャーナ・ダスティアによって拾われ命を救われた。
あれよあれよと言う間に、気が付けばお嬢の遊び相手兼見習いの影にされたわけだが、このお嬢がまた厄介だった。
我が道を行くを地でやってのけるわけだが、とにかく昔からトラブルを拾ってくるのだ。
その上お人好しだから始末が悪い。
一体誰が国境を超えた迷子になると予想できる?
行方不明で日に日に苛立ちを募らせるダスティア家の皆様の心配による八つ当たりに耐え抜き、あちらこちらを駆け回りやっと本人を見つけ出せば快適な捕虜? 生活を満喫されていて殺意がわいた。
しかもコロコロしたデ、ふくよかな身体は引き締まり良い感じの美少女になってたら直ぐにお嬢だって判るか!
金茶色の緩くカールした長い髪はうなじが見えるほどに短くなり細く白い首筋が覗いている、肉に埋もれてぱつんぱつんだった顔は痩せたことで目鼻立ちがスッキリと整って美形なダスティア家の面々に似ている。
無表情なら傲慢な悪役令嬢にも見えそうだが、感情のままにくるくると忙しなく表情が変わるから可愛く見えるのだ。
エメラルドグリーンの瞳がキラキラとしていて吸い込まれそうになる。
額にするキスも、見た目が違うだけでこれほど破壊力が違うとは……
とまぁ、俺の昔話は置いといて、アラン殿下が第二王子に負けた以上、この軍は近いうちに瓦解する。
しかもお嬢はアラン殿下の配下として扱われる筈だ。
まだ混乱で猶予があるが第二王子は直ぐにでもアラン殿下の配下を排除にかかるだろう。
そんな危険な所にいつまでもお嬢を置いておく必要はないわけで、俺は混乱する軍内に溶け込むとお嬢を迎えにアラン殿下が居た筈のお嬢の天幕へ忍び込んだ。
「ダーナ様、迎えに来ましたよ! お嬢!」
いくら捜しても天幕内に返事はない。
「だぁーもう! 一体どこに行ったんだ!?」
グシャグシャと自分の短い髪をかき混ぜると、問題児を捜すために俺はしばらく軍の中を駆けずり回るはめに陥った。
ディオン!お主は転生者だったんかい!