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美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!《コミカライズ完結!》  作者: 紅葉ももな
『悪役令嬢ってもしかしてこれのこといってます!?』
54/195

54『厄介な陰謀』前半ロベルト視点、後半……

 ローズウェル王国の中枢、王が住む城の一室にある宰相の部屋に一羽の鳥が飛んできて窓ガラスをつついた。


 部屋の主であるロベルト・ダスティア宰相が窓枠を開けると鳥はひらりと止まり木に向かうと自分の両足に巻き付けられた物をつついてはずすように促してきた。


 空を飛ぶ鳥はあまり重さのある羊皮紙の長文を運ぶのには向かないが、どこから離してもきちんと城へ戻ってくる賢い鳥だ。


 本来なら布のリボンに伝言を書いて、鳥の足に巻き付けるのだが、今日戻ってきた鳥は両足に丁寧に折り畳まれた紙が巻かれていた。


「二通? お前、重くなかったのか?」


 言葉を解するとは思っていないが、運んできた鳥にえさとなる魚をすり身にして蒸した団子を摘まんで口へ入れてやる。


 ガサガサと音を立てて外したそれは布や羊皮紙とは比べ物にならないほど軽い。


 これならば確かに両足に巻き付けられたとしてもなんなく飛べるだろう。


 折り畳まれた紙を広げると、愛娘の丸い可愛い字が、小さくびっしりと書き付けてあった。


 読み進めるうちに痛みだした頭を振り払い、はずしておいたもう一枚も読み進める。


 等間隔にぎっしりと並べられた筆記は読みやすいが、所々に癖が出ている。


「はぁ、なんだってこう次から次へと……」 

 

 期待でこちらに顔を向ける鳥に追加で団子を与えて、小間使いに世話を任せて部屋を出た。


 途中で捕まえた侍女にセオドア陛下への先触れに走らせ謁見をお願いしておく。


 王の執務室は城の上階に設えられていた。 元は比較的階下に有ったのだが、先代国王が何かにつけて政務から脱走を企てるまだ王太子だったセオドア陛下の脱走防止のために上階へ移行したらしい。


 おもてむきには執務による運動不足の解消を目的にしているらしいが、はっきりいって宰相執務室からこんなにも離す必要はなかったと思わずには居れない。


「失礼いたします」


「おう、入れ」


 数度扉を叩いたあと外から声をかければ今日もいつもの返事が返って来る。


 うず高く積まれた羊皮紙に埋もれるようにして職務を続ける陛下のそばまでよれば背後で扉が閉じられる。


「ドラクロアから鳥がきた。 どうやら厄介事が発生したらしい」


 ドラクロアの地名を出した途端に視線をあげて寄越す。


「ルーベンスか? それともフレアルージュ王国? またなにかやったか?」


「両方だなぁ、時間とれるか?」


 セオドアとは幼少期からの付き合いだ。 若い時分には良く二人で色々と無茶をしたが、彼が国王となった後も回りに他者が居ない時は友人として陛下ではなく只のセオドアとして接するようにと頼まれている。


「あぁ、この間学院で実施した学力試験の結果が届いたのでね。 それに目を通していたが、あまりの酷さに頭痛がしてくるね」


「そんなにか?」


 確かに優秀なカイザー殿下でも七十二点だ。 同じ問題を自分でもやってみたが七十点が精々だった。


「あぁ、四十を割る生徒が大半だな。 主に高位貴族の出ほど低くなる有り様だ。 泣けてくるよ」


 ぴらりと渡された紙には順位と名前と家名、点数が記載されているようだった。

 

 リシャの示した進学の最低ラインは四十点、それ以下は問答無用で留年、六十点以下は補習。 それ以上が進級目安だと、言っていたが上位から数えて六十点を超えたのはわずかに十一名だった。


 カイザー殿下を入れても二百を超える学生のうち国が作成した試験を無事に通過した者は僅か十二名のみとは……


 報告では結果を認めようとせず、教員に大金を握らせて実子を通過させようとする者もいたが、不正を警戒していたセオドア陛下の側近によって数名が捕縛されている。


 事前に通達してあった以上、不正を犯した親は既に一年間の領地謹慎処分。 子供は問答無用で留年が確定している。


 賄賂を受け取った教師は解雇し、現在新たに教師を選定している最中だ。


 紙にかかれた名前はカイザー殿下ともう一名を除いて全てが下級貴族なのだから情けない。


「これはまた、想像以上だな。 リシャの言う通りだ」


「酷いだろう? それからなぁマリアンヌ嬢が失踪した、捜させてはいるが難航している」


「あぁ、それなら問題ない、ほら」


 セオドア陛下に鳥が運んできた紙を渡すと、陛下はさっと目を通すなり眉間に寄った皺をもみこんだ。


「これはまた厄介な……」


「えぇ、厄介ですね。 この報告が本当なら下手に彼女を罰することはフレアルージュ王国との同盟を結ぶどころか敵に回すことになりかねません」


「だが、そのままにもしては措けないだろう。 彼女は国内の調和を乱した、ゾライヤ帝国の脅威は刻々と迫っている。 我が国は戦火から離れて久しい、一国の戦力ではゾライヤには勝てない」


 セオドア陛下の言と私の意見は同じだった。 もしマリアンヌ嬢が学院で問題を起こしていなくても、ゾライヤ帝国は大軍を率いてこの国を蹂躙していくだろう。


 それほどまでにかの国の力は強い。


「……フレアルージュ王国に使者を出す。 不安はあるがルーベンスをフレアルージュ王国へ大使として行かせる」


 戦時中の国へ王子を派遣するのはあまりに危険を伴う。


「しかし、フレアルージュ王国は……」


「もし、ルーベンスが同盟を組めなければどのみちこの国に先はない。 しかし保険は掛ける、カイザーとマリアンヌを城へ呼び戻す」


「カイザー殿下を?」


 マリアンヌは大事な交渉の駒だ。 しかしカイザーを呼び戻すと言うことはルーベンスよりもカイザーの安全を優先すると言うこと。


「あぁ、ルーベンスはどのみち一度王都を追われた身だ。 なにか功績を上げねば戻ることは難しい、いくら正妃の庇護があってもな。 しかし、カイザーまでフレアルージュ王国へ出してしまえば、有事の際に我が国の世継ぎがいなくなる。 それだけはなんとしても避けねばならん」


「御意、ルーベンス殿下の補助と護衛にソレイユとフォルファーを付けます」


「すまない……」


「いいえ、では」


 臣下の礼をして退室するとその足で騎士の詰め所へと向かった。


******


 その頃、学院の一室で二人の人影が人目を避けるように集まっていた。


「なぁ、この間の学力試験とやらの結果はどうだったんだよ?」


 長い足を組みながらテーブルの上に用意されたチーズをつまみ上げて口へ入れながら一人の男が口を開いた。


「ふん、どうもしませんよ? 我が家は軍閥に家系ですから、そもそも学などあまり必要性を感じませんね」


 ゆらゆらと蝋燭の灯りに向かい合うようにソファーに深く腰をおろして葡萄酒の入ったグラスを回しながら、水面の揺らめきを楽しんでいる男が答えた。


「まぁなぁ、うちも軍閥だからさぁ。 戦争でもなきゃ功績もろくに立てらんないんだよなぁ」


「そうですねぇ、平和は飽きました」


「まあな、確かに退屈だよ。 只でさえ平和ボケした国王のせいで軍備も軍閥貴族への下賜金も減額されてるってのにこれ以上減らされたら俺達が爵位を継ぐときには殆どに残らないからなぁ。 ゾライヤさまさまだぜ」


「えぇ、何のために第三王子の側に侍っていたとおもっているんですか? まぁ、ルーベンス殿下の連れて来たあの娘は面白かったですねぇ。 暇潰しにからかうのにはちょうど良かった」

 

「あぁ、ちょっと口説けば露骨に狼狽えたからなぁ。 しかしあの女も馬鹿だよな」


「そうですねぇ。 彼女は思った以上に頑張ってくれましたからねぇ」


 クスクスと愉快そうに笑うとワインを煽る。


「最初こそフレアルージュ王国と同盟をなんて騒いでいたが、ちょっと奇襲を匂わせただけであっさり黙りやがった。 そうそう、クリスティーナの猫殺ったのお前だろ?」


「さぁ、なんのことかなぁ?」


「知らばくれてもわかるぞ? あの他人に興味を示さないのクリスティーナや、馬鹿女にあんな絶妙な時間にルーベンスの耳に入るように嫌がらせ出来る奴をお前しか知らないんだがなぁ?」


「ふふふ。お誉めの言葉として頂いておきましょうか。 本当ならクリスティーナは今頃放逐されて修道女、マリアンヌはルーベンスと身分違いの恋から駆け落ちして永久に行方不明の予定だったんだよね。 あとは姿を表さない第二王子さえ消えてくれれば完璧だったんだけどさぁ。 邪魔が入っちゃった」


「おっ、おい。 何もそこまで……」


 この国存続さえ危うくなる危険な発言に青ざめる男を嘲笑う。


「どうしたの? イザーク、君は同士だ、もう舞台の上だよ。 途中で降板は許さない」


「……あっ、ああ」


「ふふふっ、私達の未来に乾杯」


 目の前で狼狽えるイザークを消す日も近いかな? そう思いながら男は赤い赤い血のような葡萄酒を飲み干した。

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