42『孤児拉致事件』
「よし、大丈夫そうだな」
まだ眠ったままのティーダ君を診ていたお医者様にお礼をして治療費を渡し、ティーダ君達貧民街の子供達は安全のため孤児院に泊まることになった。
元々親……保護者がいない子供も多くて、ティーダ君が親代わりをしていたみたい。
子ども達の話を聞くうちに分かってきたのは、貧民街で子供の拉致が増え始めたのはここ数ヶ月の事らしい。
特に容姿の優れた十歳前後の子供が多く、グラスト閣下も事件解決に動いてはいるけれど未だに犯人の尻尾を掴めないでいるみたい。
子供達は兄貴分であるティーダ君が倒れたことで精神的な負荷が掛かったためか、今はクリスティーナ様が側に寄り添って寝かし付けてくれている。
「んー、どうにか出来ないかな……」
「また何か考え事ですか?」
夜空に浮かんだ惑星と星を見ながら唸っていると、湯気の立ち上がったカップを両手に持ったカイザール様が立っていた。
隣までやってきたカイザール様からカップを受け取り礼を述べる。
「うん……ティーダ君達が拉致されかけた件なんだけど、どうにか出来ないかなと思って」
カップを覗き込むと温められたミルクが入っていた。
「そうですね、気にはなりますが素人では難しいとおもいます」
ふぅふぅとミルクに息を吹きかけて湯気をとばし口をつけると、ミルクのコクと、甘味が口いっぱいに広がった。
「甘い……」
「でしょう? 蜂蜜を少しだけ溶かし込んであるんです。 内緒ですよ?」
口元に立てられた人差し指にもってく姿がわざとらしくてクスクスと笑ってしまった。
「しかし、よく手に入ったね。 蜂蜜高いのに」
ドラクロア辺境伯領には養蜂の文化でもあるのかな?
「いただきものなんですが、しばらく甘味食べてないでしょう? あまり量はありませんからミルクに入れて分けるくらいしかできませんが」
「ありがとう……美味しい」
久しぶりの甘味に顔がニヤける。
「リシャ」
「ん?わっぷ」
口元を真っ白な絹のハンカチで、押さえられて驚いた。
「ふふっ、ミルクで口の端が白くなってますよ」
「おっとありがとうございました」
カイザール様の手からハンカチを借りて拭うとささっと手が伸びてきてハンカチを回収されてしまった。
「貧民街の子供達の事は心配しなくても大丈夫です、今までサボっていた分きっちり働いてくれるそうですからね」
サボっていたって誰が? ドラクロアの兵士さんじゃないよね?
「ちなみに誰かサボっていたの?」
空になったカップを持ち上げて出ていこうとしているカイザール様に声を掛ければ、また人差し指を口に当ててこちらを振り返った。
「内緒です」
それから数日後ドラクロアの街を囲む城壁の外で商人らしき身なりの男が数名殺されているのを発見された。
どうやら何者かによる通報があったらしく駆け付けた警備の兵によって幌馬車の中に載せられた木箱から数名の子供達を発見し無事保護されたらしい。
それ以降ピタリと拉致は無くなったので亡くなった商人っぽい人物が犯人だった模様。
……カイザール様、やってませんよね?