37『ジャグラーファミリー』
「あっ! リシャ姉いた! ルーベンス兄! カイ兄! 大変なんだっ、クリス姉があいつらに連れてかれちまった!」
ギルド会館へ飛び込んできたアロに一番始めに反応を示したのは意外にもルーベンスだった。
「アロ、一体何があったんだ? とりあえずここに座れ」
どこからか引き摺って来たらしい椅子にアロを座らせると、目線を合わせるようにしてしゃがみこんだ。
「リシャ姉が初めて教会に来たときに会った連中が居ただろう? あいつらジャグラーファミリーっていってここら辺の裏を仕切ってるんだ」
アロを投げ飛ばしたムキムキな筋肉の塊のような男と、蛇のようなあの男達はジャグラーファミリーと言う団体の人らしい。
「この辺りの浮浪児やスラムの連中も牛耳っていて奴等には逆らえないんだ。この前来た奴等もジャグラーファミリーのしたっぱなんだけど集金方法に段々遠慮が無くなってきててさ、今日は大金を持ってたリシャ姉をさらって身代金を姉ちゃんの生家に要求するつもりだったみたい。クリス姉を助けたかったらリシャ姉を連れてこいって言って、だ! ごっ、ごべんなざい(ごめんなさい)、おで(おれ)、クリズね、姉をばぼれながった(守れなかった)!」
強がっていたのか説明していたアロの瞳からは大粒の涙が頬を伝う。
「そうか良く頑張ったな。偉いぞ? 後は俺たちに任せろ。必ずクリスを連れ戻してやるからな」
ルーベンスが抱き締めるとアロは緊張の糸が切れたのか堰を切ったように大きな声をあげて泣き出した。
「うん、クリス姉~」
アロを宥める姿に、クリスティーナ様の危機だと言うのに頬が弛んでしまったのをこちらに顔をあげたルーベンスに見つかり睨まれた。
「なんだその顔は?」
「えっ、感心しただけですよ? まさかルーベンスがクリスを心配する姿が拝める日が来るなんて思ってませんでしたから」
「そうか、まぁ学院で断罪や婚約破棄を言い渡した俺が言うのもなんだが、自分の婚約者の人柄を把握していなかったのだと言うことは教会で一緒に暮らすようになってから痛感させられたしな。あれは無防備すぎる、そしてクリスはリシャ以外の者に対して頓着しない。あの調子なら自分の婚約者である俺がマリアンヌと居ても気にかけたことすらないんじゃないか?」
マリアンヌ様への嫌がらせ等が本人の自演によるものなのか、第三者によって引き起こされた物なのかは解らない、しかし私もクリスと寝食を共にするようになってから同じ感想を抱いている。
ルーベンスはいまだにマリアンヌ様を想われているようだけど、学院から離れたことで少し視野が広がったのも事実。
最近では子供たちとばかり話しているせいか、相手の伝えたいことを正しく汲み取る為に自分の思い込みではなく、相手の話に耳を傾けるようになってきていた。
ふむ、彼にとってドラクロアに出されたことは良かったのかもしれない。
「ルーベンスがまともなことを言ってる! カイ、嫌な予感がします! はやく救出に行かなきゃ!」
「おいっ、それは一体どういう意味だ!
一度俺に対するお前の評価を聞いておかねばならんようだなぁ」
「えー、そんなオソレオオイ! 私は別にバカだとか駄犬だとか色ボケだなんてこれっぽっちも思っておりませんよ」
「そうかそうか、お前の考えは良くわかった。 俺自ら始末してやろう!」
「ほほほっ、今晩の晩御飯はピーマンの炒めものと人参のグラッセにしましょうかねぇ」
「うっ、卑怯だぞ!」
涙目ですねそんなに嫌ですか、そうですかそうですか。
一緒に暮らすようをなり、判明したのですがルーベンスはピーマンと人参が苦手です。
「はぁ、ルーベンスもリシャも今はクリスの救出が先決です。アロ、クリスが連れていかれた先に心当たりはありますか?」
「うん! 多分、ジャグラーファミリーのねぐらだと思う。案内できる」
カイザール様の問いかけにアロはごしごしと服の袖で涙を拭うと、力強く頷いた。
「さて、じゃれている二人は放っておいて救出に行きましょうか」
「いやいや、俺も行くぞ!?」
「アロ! 行きましょう!」
アロの手をつかみ立たせてギルド会館を出ようとしたらルーベンスとカイの二人に片方ずつ両肩を掴まれて止められた。
「ちょっと待って下さい! リシャは後ろから着いてきてください」
「えー、なんでよ!」
「カイの言うとおり後ろから来い。お前を先頭に立たせると、ろくなことにならないからな」
ちょっとぉ、人をトラブルメーカー見たいに言わないで欲しいんですが!
ここでごねても救出が遅れてしまうから我慢しますけど、覚えてろよ!




