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第五十二話『因縁の決戦』カイザー視点

一応グロ注意


 立ち塞がる敵側に付いた騎士を斬り伏せながら玉座の置かれた謁見用の大広間へと続く通路を進んでいく。


 噎せ返るような血臭はこのあたりがドラタマの風穴の無い区画のせいだろうか、数日前に反逆者達が開いたであろう血路はまだ掃除がされておらず、腐敗し始めた騎士の遺体が無造作に重ねて放置されているのも原因だろう。


 全てが終わったら敵味方問わず埋葬することを心に誓って今は目の前の問題に集中する。


 大広間と通路を隔てる装飾の施された扉を守っていた三人の騎士は確か昔第二王子だと知った上で嫌がらせをしてきた高位貴族の三男だった気がする。


 そして他の騎士も王立学院でルーベンスがクリスティーナへ婚約破棄を申し出た際にマリアンヌの周りに居た者達だ。


「うわぁぁ!」 


 血塗れの俺に向かって恐怖のためか大振りに振り下ろされた大剣を最低限の動きで回避し、こちらの長剣で斬り伏せる。


 得意な武器は人それぞれだが、体格も鍛錬も大剣を扱うには不足があるようで、剣に振り回されてしまっている。


 本来ならばすんなり開くはずの扉は血で蝶番が固まり、悲鳴を上げながら自ら敵である俺に背中を晒して中へと逃げた騎士を斬り捨てる。


 踏み込んだ玉座のある大広間には恐怖に顔を強張らせる貴族達が集まっていた。


 ここにいるのは今回の叛逆に加わった逆賊達だろう。


 誰が叛逆に加わっているのか調べる手間が減ったな、おかげで処分するのが簡単でありがたい。


「うわぁぁあ!」


 恐慌状態で斬り掛かってきた者が居たのでバッサリと斬り伏せれば、恐怖にあちらこちらから悲鳴が上がった。


 既にここまで一緒に来た騎士たちは大広間内に散り、叛逆に加担した貴族達にその刃を向けている。


「全て捕えよ! 一人も逃がすな! 抵抗するものは殺して構わない!」


 大声で指示を出すと、大広間は逃げ惑う叛乱に加担した貴族達とそれを捕縛に掛かるこちら側の騎士たちで混戦とかした。


 そんな貴族達から視線をそらして入り口の正面……最奥の上座に設えられた玉座に座る男を睨みつける。


「……レブラン……」 


「ようこそカイザー殿下」


 まるで目の前で繰り広げられている貴族達の阿鼻叫喚などなかったかのように振る舞うレブランの姿に怒りを感じると同時に頭が冷えると言う不思議な感覚に陥る。


「あー本当に邪魔ですね貴方は、いつもいつも計画の邪魔ばかり」


 そう言いながらくすくすと楽しそうに笑うレブランの隣には先程ソレイユとフォルファーが二人で戦っていた戦士によく似た青年が立っている。


 容姿だけでなく先程の戦士に負けず劣らずの逞しい体躯は相当の修練を積まなければ身に付かないだろう程に引き締まっている。


 この男を相手にするのははっきり言って骨が折れそうだ。


「あぁ、それじゃぁ降りてきて自分でその邪魔者を消したらどうだ?」


「なぜ私がわざわざそのような事をする必要があると言うのか理解に苦しみますね」

  

 レブランを守るためなのか玉座の周りを軍閥貴族の令息たちがこちらに向けて長剣をかまえている。

 

「もともとこの地はグランテ王家が治める国、真の簒奪者はローズウェル家だと言うことを忘れてもらっては困りますな」


「そうだそうだ!」


「真の王はヴァージル殿下です!」


 次々と威勢がいい声を上げるが、こちらが視線を送ればタジタジと挙動不審になる。


「そっ、そもそもなんで生きている! 谷底に落ちたはずだろう!?」


 そう発言したのは、どこの貴族の令息だったか、まぁいい……まさかレイナス王国からの帰り道での襲撃の黒幕がこんなに簡単に自供するとは思わなかった。


「そうか、あのときの襲撃者はお前の差し金かか……」

 

 この迂闊さから考えて、服毒自殺を図った玄人ではないもう片方の襲撃者だろう。


 今でも時折、リシャを乗せた馬車が逆走していくあのレイナス王国の山道と馬車を思い出してはリシャを失う恐怖に襲われ目が覚めては隣で寝ているリシャを捜して安堵する。 

 

 そぅ、こいつがリシャを俺から永遠に奪おうとした犯人か……


 自然と口角が上がっていたらしい。


「ひぃぃい!」  


「この状況で笑えるとか狂ってやがる」


「やはりこの国はヴァージル殿下に即位いただかねばならないのだ、こんな狂人が即位などしたらこの国は終わりだ!」


 好き勝手に喚き散らす姿を視界の端に写しながらも、レブランとその隣の青年から視線を外すことはしない。


 この国の終わり? 今まさに終わらせようとしている者達が何をほざいているのだろう……寝言は寝てから言いやがれ。


 もともと玉座も王子の地位も望んじゃいない、俺からすれば玉座など面倒なだけ、王太子の地位はリシャを得るための代償に過ぎないのだから。


「いくら魔王じみていても所詮は人! 多数相手に立ち回るなど出来ようはずがない、一斉に掛かれば勝機はある! 死ねぇぇえ!」


「うぉぉー!」


 鬨の声を上げながら元マリアンヌの取り巻き子息達がこちらへ剣を振り上げて一斉に駆けてくる。


「カイザー殿下をお守りしろ!」


「うぉおお!」


 それまで俺の背後にいた味方の騎士達が俺の横をすり抜けて迎撃に走る。   


 時折騎士達の猛攻をすり抜けてきた者を斬り伏せながら、身体の重心を下げてレブランのいる玉座へ駆け抜ければ、やはり隣りにいた戦士が間に身体を滑り込ませて邪魔をしてくる。

  

 俺の長剣を、器用に円環状の武器で受け流し弾いていく。


「へぇ、パキトの乾坤圏けんこんけんにも対応してみせるとか、本当に厄介だよねカイザー殿下は……」 

 

 この円環状の武器は、どうやらケンコンケンと言う名前らしい。


 さすが異国の武器とでも言うべきか、なんとも舌を噛みそうな名前だ。


 この戦士……パキトのケンコンケンはまるで色々な国々を旅する踊り子がこの国を訪れた際に、招かれた王城で舞っていたコセンブ(胡旋舞)なる踊りのように太刀筋が自在に変化するからやりにくい。


 二度三度と刃を交えれば交えるほどに速度を上げるパキト相手に、御行儀のいい王国剣術などに拘っていてはこちらがやられる。


 無理に距離を詰めたせいで避けそこねたのか頰の薄皮一枚に刃が掠る。


 タイミングを見計らって剣を下段からすくい上げるようにして切り上げればそれを避けようと上体をそらしたパキトの隙をついて、しゃがみ込む。


 回転するパキトの足元、軸の邪魔するように足首へと後ろ向きに踵で回し蹴りを入れるが、不安定な体勢をバク宙で避けられた。 


「チッ、ちょこまかと大人しくくらったらどうだ?」  


「ヴァージル殿下の最側近として無様な姿をお見せするわけにはまいりません!」


 一進一退の攻防を繰り広げながらも、前回俺を背中から刺した実績があるレブランからは視界を外さない。


「随分舐められたものですね、他を気にする余裕があるとはっ!」 


 勢いよく振り下ろされたケンコンケンを床を横回転することで避ける。


 地面にめり込んだ刃の威力に冷や汗が流れる。


「ちっ、ちょこまかと大人しくくらったらいかがです?」


 こちらの言葉を言い返してニヤリと挑発的に笑うパキトにこちらも笑って見せる。


「無理だな、生憎だが妻を失望させるようなことがあっては姑と小姑に殺されかねん」 

 

「何なら私がこの場で殺してあげますからご安心ください」


「遠慮してっ、おくよっ!」


 攻防は激しさを増していき、軽口を叩きながらの戦闘は息が切れる。


 額を流れる汗すら拭う余裕すらない。


「カイザー殿下っ! 後ろ!」


 声に反応して視線を上げれば、いつの間にか追いついてきたらしいフォルファーが手を伸ばしてこちらへ駆けてくると俺の腕を掴み自らの身体と入れ替えるようにしてパキトとの間に割り込んだ。


 いつの間にか俺は玉座に背中を向ける形でパキトに誘導されていたらしい。


 瞬時に体勢を入れ替えたパキトに、フォルファーは組み手でもするようにケンコンケンを無視してパキトの身体に取り組みそのまま助走の勢いでレブランの居る玉座の方へ押し返す。


「うぉおおおお!」


 反撃に出ようともがくパキトが床に足を取られてそのまま背中から床へと倒れ込んでいく。


 体勢を崩した俺の目に映ったのは、パキトの体躯の背面側で単弓を放つレブランの姿と、俺を庇うように両手を広げて立ち上がったフォルファーの姿……


「フォルファー!」


 咄嗟に伸ばした手はフォルファーに届かずに空を切る。


 放たれた弓矢はフォルファーの身体に当たりこちらへと来ることはなかった。


 フォルファーに駆け寄り直ぐにでも安否を確かめたい……!


「カイザー殿下……あとはお願いします……」


 こちらを振り返りニヤリとと意地悪そうにフォルファーが笑うから……


「あぁ、任せておけっ!」


 長剣を持って俺はレブランへ向かって一直線に駆け出した。


「くっ、ヴァージル殿下!」


 そんな俺を阻止しようとこちらへと向かうパキトへと一撃が襲う。


「行かせねぇよっ!」


 どうやら追い付いたらしいソレイユ殿がパキトを止める。


「ちっ、羽虫が次々と……バトラのやつ何やってんだ!?」


「へー、彼はバトラと言う名前なのか!」


 背後から嬉しそうに聞こえてくるやり取りを聞きながらパキトを足止めしてくれているソレイユに感謝し目の前のレブランに集中する。


 レブランから放たれた第二射が傾げた俺の頬をかすり風切り音を残して後ろへ飛んでいく。


 痛みと生暖かい血が頬を伝うけれど、拭いもせずにレブランへ肉薄する。


 振り下ろした長剣を単弓の弓で退けるレブランへ攻撃を繰り返すうちに長剣に絡め取られた単弓が手を離れて弧を描くように飛んでいく。


「終わりだ!」


「ヴァージル殿下!」


 俺が繰り出した突きの前にソレイユの追撃を振り切ったパキトがレブランへ覆いかぶさるようにその身を滑り込ませた。


 突き出した長剣がパキトの背中から胸元へと柄だけを残して深々と突き刺さる。


「パキト? パキト!?」


「ヴァージル殿下、ご無事ですか?」


 この傷ではパキトが助かる見込みはない。


「バカ野郎……なんで庇うんだ……お前らの腕があればどこでも生きていけるのに!」


 急速に力を無くしていくパキトの身体を抱きしめながら叱責するレブランの頬へとパキトが震える手を伸ばすのを見て柄から手を離した。


 戦場で自ら武器を手放すのは愚か者のすることだろう、だが長剣を引き抜けば失血でパキトは即死するだろう……


 負傷したフォルファーの元へと向かうべく背中を向ける。


「よくもパキトをっ! うわぁぁあ!」    

 

 死んだパキトの遺体から抜いたであろう俺の剣を振り上げたレブランの剣先が咄嗟に瞑った左目のまぶたを切り裂いた。


「死を持って忠誠を示した忠臣に情けを掛けた俺が馬鹿だったな……」 


「本当ですね」


 レブランの背後に回っていたらしいソレイユ殿がその首を跳ね飛ばす。


 ゴロンと無情に転がった頭部がパキトのところへと転がっていった。


「あーあー、せっかくの美形が台無しではないですか……これは跡が残りますよ?」


「そうだな」


 まさかこの傷でリシャに怯えられやしないかと内心不安を感じながらも、フォルファーのところへと移動する。


「フォルファー無事か?」


 仲間の騎士によって床に寝かされたフォルファーは意識を失って居るようで、その隣に座り込む。


「はい、矢が脇腹に刺さってはいますが、内臓は貫通していないため、毒矢で無ければ適切な治療でなんとかなりそうです」


 手当に当たっていた騎士の言葉にホッとする。


「そうか、負傷した者達をよろしく頼む……」


 さてと、まだまだ残党は残っているだろうしやらなければならない事は多い。


 ゆっくりと立ち上がると、流血の影響かクラリとした立ちくらみに襲われる。


「カイザー殿下も手当を」


「ぎゃー!なんなのその怪我は!?」


 騎士の言葉に大絶叫が被さった。


 声がした方へと視線を向ければ、両頬に手を当てたリシャが居た。


 どうやらロベルト宰相と一緒に来たようで、他にも沢山の人々を引き連れているようだった。


 ズンズンと威圧感を纏ってこちらへと迫ってくるリシャの迫力に、タジタジとしてしまう。


「カイ! 座って!」 


「いや、リシャこれは……」


「いいから座って」


「はい……」


 リシャが見上げ無ければならないほどに身長差があるから視線を合わせようと思えば俺が座ってリシャが膝立ちにならなければ無理だ。


 俺の顔を覗き込んでまるで自分が怪我でもしたのかと思うほどに痛そうに顔をしかめる。


「あ~あ~あ~、こんなに怪我して! 誰が手当てするための道具を持ってきて!」


「度数が高いお酒があれば消毒出来るんだけど、とりあえず止血しなきゃ!」


 ゴソゴソとワンピースのスカートをあさり綺麗に畳まれた白いハンカチを取り出すなり俺の左目に押し当てて力を掛ける。


「うっ……ぐっ!」


 布越しとはいえ傷口を直接圧迫されて、それまで戦闘で高揚して忘れていた痛みを思い出したらしい。


「これ、眼球まで行ってるの?」


「いや……瞼だけだ」


「良かった……」 


 ホッとしてみせたリシャ身体を両腕で絡め取りその小さな肩に頭を乗せて抱きしめる。


 あぁ、俺の血でワンピースが汚れてしまったけれど、リシャはそんなこと気にも留めていないようで、俺の頭を撫でつけてくる。


「お疲れ様でした」


 あぁ愛おしい…… 


「盛り上がっているところ申し訳ありませんが、我々は先にルーイ殿下を救出するために塔へと向かいます、リシャはカイザー殿下と相談して来るかどうか決めなさい」


「はい!」


 すっかりいつものリシャに戻ってしまったけれど、甲斐甲斐しく手当をしてくれるリシャの姿に癒やされながら、去っていく国王陛下一行を見送った。  


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