第四十六話『海神の子』カイザー視点
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ロベルトにリシャを、ルーベンスに陛下と他の戦えない使用人たちとそれを守る数名の騎士を託して地下牢から地上へ続く階段を駆け上がっていく。
「カイザー殿下、私が先導いたします」
「あぁ頼む、今武器を所持しているのは私とお前だけだ、残りの騎士達は負傷して動けない者から武器を奪え。 負傷者の救助はルーベンスや陛下が行ってくれる、ソレイユ・ダスティア公爵令息が反乱軍討伐に動いている! 腕に赤い布を巻いている者は攻撃するな!」
私の号令に騎士達が大きな声で鬨の声をあげる。
武器は私とフォルファーしか所持していないが、幸いにも助け出した騎士達の士気は高い。
地上へ出ても敵兵は見当たらず、そのまま城内を進んでいく。
怪我で動けない敵兵から剣を奪い、赤い布を腕に巻いた仲間の騎士から剣を借り受け、城内の武器を管理している建物を目指す。
少しずつ武器を持つ騎士達が増え、比例するように増える遺体と負傷者の数が戦闘の激しさを物語っているようだった。
「うわぁぁあ」
ひときわ大きな叫びが聞こえたのは、玉座の置かれた大広間へと続く通路に差し掛かった時だった。
茶色い肌と黒髪の屈強な戦士が、まるで舞でも踊るように二本の見慣れない武器を手に何人もの騎士を相手に戦っている。
戦士が舞うたびに黄金の瞳の虹彩が線を引くように鋭い光を描き出している。
ローズウェル王国で一般的な両刃の直刀長剣とは全く異なる異様な武器は円環状の武器を使用しており、斬りつけるだけではなく、手元から遠方の敵へと投擲したかと思えば、持ち主の手元に戻り距離を詰めた騎士が斬り伏せられていく。
そんな中、流血しながらも一人だけ善戦しているソレイユを見付けた。
リシャを妻に貰う際にダスティア公爵家の兄二人から婿の試練と称して戦った経験がある私としてはダスティア公爵家の令息達の力量は嫌と言うほど理解しているつもりだった。
それと同時に、そんなソレイユが複数人で挑んで善戦しか出来ていない程の実力者があの戦士なのだ。
よくよく見れば騎士服ではない黒装束のものまでいる。
ダスティア公爵家でソレイユの護衛に付いている影の者まで参戦している現実が信じられない。
そんな中ふらついたのかバランスを崩したソレイユに、戦士がその円環状の武器を振り下ろし襲いかかる。
「ソレイユ殿!」
フォルファーが投げつけた短剣がすぐさま身を翻す動作と共に正確に弾かれる。
追撃する様にフォルファーが放った数本の短剣も軽やかに回避しながらソレイユから離れたすきにソレイユへと駆け寄り助け起こす。
「ここでまたお前の相手をすることになるとはな」
不規則な動きの戦士に合わせる様にフォルファーが斬りかかる。
「またお前か、ヴァージル様の邪魔をするな」
「それはこっちの台詞だねっ!」
戦士が薙ぎ払った円環状の武器を長剣で滑らせるフォルファーの動きに合わせてくるりと回転しながら反対に持った武器を叩き込んでくる。
決まった型をひたすら身体に馴染ませてきたけれど、戦士の螺旋を描く様な戦い方は初見の者にとって驚異以外の何物でもないのだから。
ソレイユを起こしたあとフォルファーの援護に向かおうとした私を引き止めて、ソレイユがギラギラとした楽しそうな視線を戦士に向けている。
「殿下、あれは私の獲物ですから手出し無用です、先へとお進みください」
そう言ってまた戦士への距離を詰める。
「カイザー殿下、ソレイユ殿の言うとおり、ここは私とソレイユ殿が引き受けます! 殿下は先へとお進みください!」
ソレイユと攻守を入れ替えたフォルファーがこちらへニコリと笑って見せる。
「あぁ、わかった。 だが決して無理だけはするなよ!」
ソレイユとフォルファーに背を向けて、他の騎士達を連れて先へ進もうとしてところで、こちらに投げつけられた半月の短剣を長剣で叩き伏せる。
「だれもヴァージル様へ近づくことは許さない」
あのソレイユとフォルファーを相手にしながらこちらへの警戒を怠ることがない強靭な肉体と精神に敬意とともに、畏怖を感じる。
そしてこれほどの厚い忠誠を受けるヴァージルが羨ましくもある、だが素晴らしい仲間がいるのはなにもお前だけじゃないんだよ
「先に行く、必ず合流せよ」
「仰せのままに」
二人の返事を背中に受け、この先に待ち構えているだろう相手を必ず倒すと心に誓いながら大広間へと進みだした。