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第四十四話『地下牢』


 戦況はなかなかに厳しいらしく、既に廊下には怪我をした騎士や反乱軍と思わしき遺体が廊下の隅に寄せられて転がされている。


 同じ制服を纏っているものの、ソレイユ兄様が先んじて味方の左腕に赤い布を結びつけているため見分けはつく。


 カイの後ろに付き従う形で城内を進んでいた所、適度に換気用の風穴を開けてきて満足したらしいドラタマが、足元へと戻ってきた。


「あっ、おかえりなさい。お仕事お疲れ様でした」

  

 労うように声をかければドラタマは嬉しそうに左右に揺れてみせる。


「しかし陛下はどこに居るんだろう」


「そうですね、執務室ではないとおもいます。 あの部屋は監禁には向きませんからっ!」


 曲がり角で遭遇した敵兵をフォルファーが腹部に膝蹴りを決めて後頭部に手刀を叩きつけて素早く意識を刈り取り床へと沈める。


 私達の会話を聞いていたのか、せっかく戻ってきたドラタマが、フォルファーを抜いて速度を上げると進行方向で戦闘していた何名かの足をまとめて轢いたらしい。 


 しかしどうやら先行した理由は敵を倒す事ではないようでそのまま壁を破り道なき場所に瓦礫の道を作りながら進んでいく。  


 破損した壁の瓦礫に足を取られて転び掛けてはカイに助け起こされることしばし……


 あまりに転びかけるからなのかドラタマが瓦礫の粉砕を始めてしまったのには笑った。


 人ひとり通れるくらいの幅を取って敵兵がいればそちらへ散弾銃のごとく大きい瓦礫は弾き飛ばしているし、居ないときには邪魔にならなそうな方向へ弾き出している。


 回転数を上げているのか瓦礫が削られて粉塵が立たない程度で砂利位の大きさになっている。


「ドラタマ様はダスティア子息達なみに過保護ですね」


 フォルファーの言うとおり過保護だと私も思う。


「これだけ想定外の行動が多ければ過保護にもなるよな……」


 ボソリと呟くルーベンスを睨めば、少し焦ったあとカイザーの真似をして薄ら寒い笑顔で取り繕う。 


「囚人を監禁するのに適している場所となると四隅にある搭か牢獄でしょうか?」


 フォルファーの問いかけにカイが頷く。


「そうだな、逃げられては監禁する意味がないから開閉できる窓がある場所は除外して構わないだろう」


「塔もでしょうか?」


「あぁ」


「前にルーベンス殿下とフォルファーが入れられた牢屋は?」


「げっ、あそこか?」


 私の言葉にどうやら短期間とは実際に数日間を牢屋で過ごしたルーベンスが嫌そうに顔を顰める。


 父様、どうやらルーベンス殿下の感情を表に出さない鉄仮面教育まだまだ足りないみたいです。


「いや……入れるなら一般囚人用の方だと思う」


「なぜ?」


「……勘?」


「勘なんかい!」

 

 カイとそんなやり取りを繰り返すうちに、地下牢へ続く階段のある部屋の前へと辿り着いた。


 既にソレイユ兄様率いる騎士達が数名突入したあとなのか部屋への入り口を守っている敵兵は見当たらない。


「静かすぎるな……」


 長剣を何時でも引き抜けるようにしていたが、とりあえず部屋へと入ろうとしたところでそれまで大人しかったドラタマが急に速度を上げて部屋の扉へと突入していく。


「ゲホッゲホッちょっとドラタマどうしたの?」


 土埃を上げて部屋の壁やら窓やらをぶち破り漏れ出た甘い香りにドラタマが暴走した理由を理解した。


 捕虜を無力化するために聖香を焚きしめていたの?


 煙は性質上上に溜まる事が多いと知識ではわかっているけれど、脳裏に浮かぶのは私を優しく微笑みながら抱きしめてくれる父様の姿、そして牢屋の中で倒れる父様の姿……


「父様!」


 走り出そうとした私の腕をカイが引き止めそのまま背中から抱き締められる。


「大丈夫だ、あのロベルト義父上様がそう簡単に倒れるはずがないだろ?」


「私が先導して確認してまいります、安全が確認できるまで御三方は動かれませんよう!」


「はぁ、とりあえずリシャは落ち着け、カイザー兄上が申した通りあのロベルト宰相だぞ、殺しても死なんから安心しろ」


 どこから自信の根拠が来るのか謎だけれど、ルーベンスが自信満々に断言するのが可笑しくて、本当に大丈夫のような気がしてくるのが不思議だ。


「だからところ構わずイチャイチャしてないで現在の状況に集中してくれ頼むから」


 ん?イチャイチャ……いちゃいちゃ!?


 カイの腕の中から急いで逃げ出すとカイがルーベンスを睨めつけた。


「カイザー殿下、地下へ続く階段まで安全の確認が取れました」


 戻ってきたフォルファーに導かれて部屋に入れば既にドラタマの姿はない。


「行くぞ」


 そのまま四人で階段を降りていけばどんどんと暗くなり視界が遮られていく。


 本来ならば明り取りに焚かれている筈の松明が全て消えている。


 じっとりと湿った空気と牢屋に染み付いた悪臭に鼻と口元を隠しながらゆっくりと降りていけば、四方を岩盤で囲われた地下牢へ付いた。


 人が5人は並べそうな通路を挟むようにして通路の両側に金属製の格子が嵌った牢屋が何室も並んでいる。

 

 明り取りと換気のためか牢屋の天井付近の壁には人が通り抜けるには不可能な幅の換気口があり、そちらにも格子が嵌っている。


 牢屋の中には沢山の人々がすし詰め状態で押し込まれており、みな疲れ切った顔をしている。


「敵兵は」


「目視できる範囲にはいません」


 コソコソと通路を覗き見していたとき、私が見付けたのは通路の最奥にある牢の中で、ひときわ元気な姿の父様の姿だった。


「良かった」


 潤み掛けた瞳を袖口で拭い取る。


 淑女としてはハンカチを出してお淑やかに目元が赤くならないように押さえるようにして拭くのが正しいんだろうけど、今この状況で咎めるような人員はいないのである。

   

 ……クラリーサにバレなければ大丈夫……だよね?


「とりあえずみんなを助け出しましょう! 幸い換気口のお陰でここのみんなは聖香の影響が少そうだし!」


「そうだな、しかし鍵はどこにあるんだ?」


 本来ならば牢屋の鍵は看守が管理しているはずなのだけれど、それらしき人物も所持していそうな敵兵も残念ながら見当たらない。


「殿下方はこちらでお待ち下さい、敵兵が潜伏している可能性もありますのでロベルト宰相閣下がいらっしゃる牢屋まで行って確認してまいります」


 そうこうしているうちに牢屋の中にいる何人かが私達に気が付いたようで、ざわざわとし始めた。


「もう見つかっちゃったし、みんなで行きましょう?」


「そうだな」


 カイが頷いてくれたので、立ち上がり通路へ姿を表すとあちらこちらの牢屋の中から歓声が上がる。


「みんな今騎士達が叛逆者を討伐している。なるべく早く皆を開放するので待っていてほしい」


 この一連の騒動で皆不安だったのだろう、カイの言葉にお互い抱き合いながら涙ぐむ者たちもいる。  


 そのまま最奥の牢屋へ向かえば、父様と国王陛下が待ち構えていた。


「陛下只今、帰国いたしました。有事にも関わらず遅参となり申し訳ございません」


 格子越しに陛下の前で頭をたれたカイに合わせて私も慣例通りのお辞儀をする。


 檻の中にいる陛下の前で帰還の挨拶というのも違和感が凄いけど、そんな私達から目をそらしてぷるぷる震えながら笑いをこらえる父様の姿に、帰ってきたなあと安心するのだからまだまだ親離れ出来そうにない。


「いや、よく無事に戻ってきてくれた。 残念ながら鍵が無くて脱出できずどうしたものかと皆で思案していたところだ」


 牢屋を破壊しようにも元々危険な人物に逃げられない様に設計施工されているし、脱走に使えそうな道具など牢屋へ入れられる前に没収されている状態で出来ることは少ない。


 そして悲しい事に牢破りの即戦力となるはずのドラタマの姿が見えないのだ。


「陛下、少しだけ格子から下がっていただけますか?」  


 そう告げてルーベンスは自らの長剣に手を掛けて大振りに錠前に叩き付ける。 


 甲高い金属音が響き渡り、格子に阻まれた斬撃は振るった本人へとそのダメージを反射したようです。


「くっ、右手がうずく……」


 中二病かっ!?


 違うのは知ってるけどそのセリフは……ぐふっ。


 やばいツボった、キラキラ王子な外見で中二病発言を連発するルーベンスを想像して静かに笑いの発作に耐えていたものの、とりあえずドラタマが居なくなってしまった今何とかこの格子を壊さなければいけない。


 当たりをぐるりと見渡して私の目についたのは……



 

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