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第四十三話『入り口がないなら作ればいいんじゃない?』  

 新たに同行者となったリラとクリスティーナ様とルーベンス殿下を引き連れてカイ達がいる筈の対策本部となっている煉瓦造りの建物へと戻ってきた。


 やはり固く閉ざされた正門付近は警戒態勢も厳しく突破することは難しいらしい。


 また裏門にも敵兵が詰めているため攻めきれずにいるようだった。


 ああでもないこうでもないと論議ばかりで全く進まない軍議にカイとソレイユ兄様が笑顔で沈黙を貫いているのが怖い。


 めちゃくちゃ怖いよふたりとも! 


 暫く様子を見ていたけれど、足元に転がるドラタマがズドンッズドンッと卵ではありえない音を出して飛び跳ね始めたせいで議論が止まり音の原因であるドラタマに視線が集まる。


 自ずとこちらにも視線が集まるわけでして、あっ、ソレイユ兄様と目があった。


「王太子妃殿下、何か解決策はございますか?」


 ソレイユ兄様に敬語を使われるのは今だにくすぐったい。


 うーん解決策ねぇ、私は軍事とかゾライヤ帝国軍で雑用していた時にちょっと齧っただけのド素人なんだけど……


「正門が開かないならドラタマに横から穴でも開けてもらったら良いのではないでしょうか?」


 思いつきで口走った言葉にリラがんだんだと同意する。


「わざわざ警戒してくれてるんだから人の少ないところから城壁登るとか秘密の通路とかないんだべか」


「秘密の通路ですか? ルーベンス殿下は王族の隠し通路とかご存知なのでは?」


 その言葉を引き継ぐようにクリスティーナ様がルーベンス殿下に微笑みかけた。


「偶然見つけた隠し通路の何個かには心当たりはあるが、全て城内のみに通じるものだけだな」

  

 たぶんそのうちの一つが昔ルーベンス殿下を追いかけてフォルファーが誰かと密会していたあの隠し通路だろう。


「そう言えば、フォルファーと初めてあったのも隠し通路でしたね、フォルファーが話していた相手は、一体誰だったのですか?」


「今は時間がないからな、後で教えよう。 しかしドラタマか……やってくれるのか?」


「どうだろう?」


 まるで返事でもするように飛び跳ねた。 


 そんな巨大卵の奇行に顔を引き攣らせている騎士諸君とルーベンスとは反対にイイ笑顔のカイとソレイユ兄様。


 よっぽどストレスが溜まってたのかしら。


「あるかないかわからない隠し通路を探すのは良いとして、壁に穴をあけるってこの卵がか? いくらなんでも無理だろう? 卵だぞ?」


 そう言ったルーベンスの言葉に腹でも立てたのか、そのまま急回転をかけると摩擦で煙を上げながらルーベンスのすぐ脇を通って対策本部の壁へ突っ込み風穴を開けて出て行くと、また違う壁に穴を開けて戻ってきた。


「出来るってさ、まぁお城はあっちこっちボロくなってる所もあるから、城の防御力を見直すついでに直せば新たな雇用確保にもなるよ?」


 にっこりと笑って答えれば、ルーベンスと騎士諸君が首振り人形と化している。


「占拠されている現状の改善は、もはや敵国の城攻めと同義です、歴史あると言えば価値があるように聞こえますが、リシャの言うとおり壊れたら新しく建て直せば良いのです」


 にっこりとこちらへ微笑みかけるカイの表情から言って私の提案はお気に召したらしい。


「カイザー殿下に賛成です、旧王家の城を再利用しましたが、ルーベンス殿下がご存知の隠し通路の他にも我々が把握していない物が護衛対象の周りに張り巡らされているのは良くありませんからね」


 フォルファーと出くわした様な隠し通路が他にもあって、そこが寝室とかプライベートルームだった場合、暗殺者入り放題では安心して眠れないじゃないですか。


「えっ、私ダスティア公爵家に帰っても良いですか?」 


「何を考えてその発言になったのかわからないけれど、これから安心して暮らせるように新しく築城するから城に住もうな?」


「はぁ……」


 まぁ暗殺の危険が減るならまぁいっか。


「よし、とにかく許可がでたね」


 そうと決まればさっさとお父様を助けなくちゃ!


 拳を握りしめてフンスと気合を入れれば、そんな私の様子にルーベンスが嫌そうに口を開いた。


「せめて無差別に風穴をあけるのはやめようか、城を崩すにしても避難させてからにして欲しい。まだ城内にたくさん人質がいるし、敵ならしかたないが知り合いが卵に轢き殺されるのも崩れた城の下敷きになるのも見たくないぞ俺は!」


 ルーベンス殿下の言葉に、先程のドラタマの威力を実際に見せられた騎士達が何度も同意するように首を縦に振っている。


「そうだね、正直自分を冷遇していた者達に配慮する必要はあまり感じないけど、ロベルトには世話になったし、リシャの父上だからな」 


 私の頭を撫でてから何かを考えるように歩きだし本部を出るとカイは城壁に沿って歩き出した。


「そうだなここなら良いだろう。 このあたりに穴をあけてくれるかな? 確かここなら使用人区画にある中庭のはずだから多少の勢いが良くても多分被害者は出ないと思うよ」


「なんでこのあたりが使用人区画の中庭だってわかるんだ?」


「ん? まぁ食事はよく使用人区画まで通っていたからね、城内の隠し通路も含めて多少は把握しているかな」


「ちゃっかり隠し通路使ってた奴が他にもいたのか」


「あるものは使わなければ損だろう?」


 にっこりと黒い笑顔って微笑むカイにひぃぃ!と飛び退きたくなる衝動に駆られる。


「それもそうだな、俺も逃走用に活用していたからそれに関しては同意する」


 すっかりお兄ちゃん子と化したルーベンスがうんうんと大きく頷いている。


 本当に我が国の王子様どもは……


 そんな私達の後ろからぞろぞろ後に続く騎士達はソレイユ兄様の指示で突入準備が着々と準備が整って行く。


「いいか! ドラタマが城壁を破り次第我々は城内に突入する!」 

  

 緊張感に張り詰める後続にはわるいけど、もーいーかーい?

 

 足元でゴロゴロと転がるどらたまを持ち上げる。


 本当にこの竜卵だけは前世の知識と今世の物理的常識からぽっかり外れているのよね。


 自在に自らの重さを変化させられて、意思があるように動く謎の卵。


 しかも基本的には私以外には触らせない。 


 自分から足の甲に乗り上げて地味に嫌がらせしてくるものの、私が手渡したとき以外で誰かが抱き上げようとしても逃げるし、渡せたとしてもすぐに重さを増して逃げる卵なのよね。


 ドラタマをまじまじと見つめているうちにソレイユ兄様達の準備が整ったようなので、静かにドラタマを地面へと戻す。


「よしっ、リシャやってくれ!」


「はーい! ドラタマごー!」


 カイの言葉にドラタマへ発射指示を入れる。 


 発射で良いよね、それとも出発? なんにしてもその場で、2回ほど飛び跳ねて了承を伝えると、その場で凄い勢いで回りだした。


 土煙を上げたせいでむせれば、カイが私を外套で庇う。


 そのまま一度王城を囲う外壁に進んだものの、急回転で戻ってきたかと思えばそのまま王城と逆方向へ移動していく。


「ドラタマどこ行くの!?」


「大丈夫だ、戻ってきた」


 どうやら助走距離が足りないと判断したらしい。先程とは比較にならない速度で転がる卵に人々が逃げ惑っている。


 うちのドラタマがすみません……その子猪より猪突猛進な所があるんですよね……


 回転速度が上がり過ぎているのか火花まで散っているドラタマはそのまま外壁に飛び込んだ。


 うん、すこし右にずれてるけどまぁ……大丈夫でしょ?


 ドガァーンとまるで大砲でも撃ち込んだような轟音と地鳴りに人々が恐怖に悲鳴を上げながら双太陽神に祈りを捧げて蹲る。


 そう言えばこの世界で大砲や銃を見ていない。


 地震もあまりないようだし、そのせいか石や煉瓦造りの建物が多く、大地が揺れると建付けが悪い物件は崩れたりするのだ。


 きっとのちのちには双太陽神の怒りが落ちたとか言われるのだろう。


 一度目のドラタマの激突音のあとでも何度かズガン、ズガガーンと音が続いているので、多分勢いを付けすぎて止まれなかったのかもしれない。


「突入! 陛下を救出せよ!」


 ソレイユ兄様の号令で武器を携えた兵士や騎士たちが次々と突入していく。


 聖香対策だろうか、彼等の鼻から口元は布で覆われている。


「さて私達も行きますか!」

 

「んだね、ルーイ様を助けねばなんねぇ!」


 穴にリラが駆け込んでいったので、それに続こうと歩き出したが、カイが半歩前に出て左手を伸ばしてきた。


「とめても行くからね!」  


「わかってるよ、だから……」


 私の前に差し出されたカイの掌とカイの顔を見比べる。


「オレの許可が出るまでこの手を放すな、いいな?」


「もちろんよ!」


 バシン!とカイの左の掌に右掌を当てれば指同士を絡めるように恋人繋できっちりと握られる。


 その間にも右手側には長剣を構えたフォルファーが私達を先導するように城壁を越えていく。


「すまん、クリスティーナ。この状況で俺はお前を守り切る自信がない、すまないがどこか休めそうな場所の確保と兵士達の食事の采配を頼みたい」


「えぇ私が付いていくのは無理なのはわかっていますから大丈夫ですわ! ですからルーベンス様はリシャーナ様にケガをさせずに連れ帰ってくださいませ!」 

 

「よろしく頼む」 


 後ろでそんなやり取りをクリスティーナ様とルーベンス殿下が交わしており、ルーベンスがこちらへ来たところで一緒に城壁を越えた。


 既に突入したソレイユ兄様の姿はなく、ドラタマが開けたらしい風穴から城内へと侵入したのか剣戟や怒声が上がっている。


 どうやらドラタマは城壁に穴を開けたあと、聖香で汚染された城内に換気用の風穴を開けているらしく煙が外へと逃げているようです。

  

「とりあえず、隔離されている可能性が高いところから制圧する手筈になっている!いくぞ!」


「はい!」


 カイの背中を追いかけて、歩き始めた。 


 足手まといなのは自覚してるけど、仕方ないよね、だって走れないもん!


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