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美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!《コミカライズ完結!》  作者: 紅葉ももな
『悪役令嬢ってもしかしてこれのこといってます!?』
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18『紙って何から作るんだっけ?』

 地下牢から地上へ戻りながら、私はごそごそと懐からハリセン一号を取り出して父様に手渡した。


「ん、これはなんだい?」


「バカ矯正用に作ったハリセンですわ」


 緑色のハリセンを撫でたり嗅いでみたりしている父様。


「これは何で出来てるんだい?羊皮紙とは違うようだが」


「これは紙と言って雑草を煮詰めて細かくほぐしたものを乾かした物ですわ。 本当は木屑なんかを使うみたいなんですけど、羊皮紙がわりにどうかと思ってもって参りましたの」


「へぇ、雑草ねぇ」


「はい雑草です。 どのように使うかは父様次第ですけど」

 

 雑草を刈るのも煮込むのもたたきつぶすのもやってみると案外重労働なんだよね。


 ミキサーがある訳じゃないし、私に専門的な知識なんてあるはずもなく、こんな材料でこんな感じの物だった位の曖昧なものだし。


 紙すきなんて小学生の図工で牛乳パックを溶かしてハガキを作った知識だけ。


「たぶん他に適した植物があるはずなんです、国には沢山の知恵者がいますもの、父様ならきっと素晴らしい紙ができますわ、宜しければ活用して下さいませ」


 にっこりと微笑むのが大切です。 父様は宰相、使えると成れば製紙にも乗り出してくれるはず!


 そうすれば使い放題なんですから。


「わかったよ、今羊皮紙を持ってくるから製法を書いてもらえるかい?」


 御安い御用ですよっと、でもわざわざ高い羊皮紙を使うなんてもったいないです。


「父様、ハリセンを貸してください」


「あぁ、どうぞ」


 父様から手元へ戻ってきたハリセンの可愛いリボンを素早く解く。


「これに書きますから大丈夫です、万年筆貸してください」


「これを」


 そう言って懐から取り出した万年筆を貸してくれた。 黒檀の持ち手は使い込まれているせいが所々磨り減り、父様の指の跡が残っていた。


「この万年筆って」


「あぁ、五年前にリシャーナとアリーシャに貰ったプレゼントだな」


 五年間も大切に使ってくれていたと言う父様の言葉にキュンキュンです。 ちなみにアリーシャはお隣のドラグーン王国へお嫁に行った私のお姉様です。


 公爵ともなれば万年筆などいくらでも良い品が手にはいるのに、プレゼントしたがわとしては嬉しい限りです。


 ハリセンから紙に戻った物に万年筆で大雑把な作り方を記入してみましたが、すりつぶしが足りないせいで表面の凹凸が万年筆の先端部に引っ掛かり素晴らしく書きづらい。


「父様、頑張って改良してくださいね? スッゴく書きづらいです」


 まぁ、色々試していくうちに改良されてくるでしょう。


「まぁ今までに存在していない物だからな。 実用化するまでしばらくかかるたろうが、素晴らしい発明だと思うぞ? うちのリシャーナは天才だなぁ」


「えへへ、ありがとうございます」


 にこにこしながら頭を撫で撫でされました。 誉められて伸びる子なんですよわたしは、おだてられれば多分木にも登ります。


「そうだ、忘れるところだった! 父様にお願いが!」


「どうしたんだいきなり、リシャーナがおねだりとは珍しいな」


 国の官僚が役に立っていないのはこの目でしっかり確認させて貰ったことですし、ここはお父様に一肌脱いで貰いましょう。


「学院の教育方針の転換をご検討いただきたいんです!」


「教育方針の転換?」


 そう脱ゆとり教育ですよ!


 貴族の家に生まれたからにはかならず通うことが義務付けられた王立学院、正直に言わせていただきましょう!


 通うだけ無駄です無駄!


 ここが乙女ゲームの世界だと気が付く前は、今の学院の教育方針になんの疑問も感じなかったけど、あれはヤバイ。


 真面目にヤバイんですよ。


 授業はあります、仮にも教育を施す場ですからね。 でもきちんと教師の話を聞いている生徒は数人だけなんです。


 学院に入る前に最低限は各自、屋敷に家庭教師を雇い教育を施されるのだけれど、集団で一定の時間真面目に授業を受けることが出来ないのよ。


 もちろん座っていることはできますよ。 でも席が決まっていないため、仲が良い者同士で集まるんですよね。


 只でさえ学院に通う少年少女は多感なお年頃、仲が良い者が集まれば色んな話に花が咲く!


 真面目に授業を聞こうにも、周囲の笑い声や授業と言う名の恋人達のデートが繰り広げられるのだ。


 ハッキリいって集中出来ないし、いきなり目の前で濃厚なキスシーンを始められて真面目に授業を受けてられるかい!


「本来学院はあらゆる知識を吸収し、成人後に国に尽くす術を学ぶ場、正直今の学院は結婚相談所です!」


 老獪な教師の教鞭よりも素敵な異性との出逢いを、同性との切磋琢磨よりもいかに家にとって利となり自分好みの縁談相手を見付けるかに情熱を燃やす。


 そんな学院の卒業生が官僚を務めているんだから、まともな治世が望めるわけがないのよ。


 自己顕示に血道を上げることにしか興味を示さず、自身の欲望を満たすことを優先するそんな大人になる前に、柔軟な思考を持って、自分を律することが出来る人材を育てることが今出来る先行投資。


「一定の成績を修めていない者の留年制度の設立と国の官僚に相応しい人材を育成、抜粋するために! 学力テストの導入を提案いたします!」


「りゅうねんせいど? がくりょくてすと?」


 父様、小首を傾げないで、これ大事なんだから!


「学院での次世代の育成は解るんだが、そのりゅ?」


「留年制度です父様!」


「そうそう、留年制度とがく?」


「学力テストです」


「そう、それは一体どんな制度なんだい?」


 とりあえず話は聞いてもらえそうでよかった、さぁプレゼンだぁ。


「今学院は個々の修学度に関係なく、決められた期間を学院で過ごせば卒業できますよね? それを修学度の低い者は定められた修学度に達するまで学院に通い続けなければいけない教育制度ですわ。 そして学力テストは個々の修学度を図るための試験です」


 今思えば必死こいて勉強した気がします。 あくまで気がするだけですけどね? 前世の自分を覚えてないし。


「春夏秋冬の年に四度筆記や実技の試験を行い、合格となる試験の点数に届かない者は補習、もう一度教育を受けてもらいます。 再教育後にはもう一度試験を受けさせ、それでも届かない者には宿題……じゃなくて課題を渡してそれをこなすことで救済します」


「ほう、それを年間に四度行う訳だな」


「はい、そして年の瀬に一年間学んだ集大成の試験を受けて修学度が一定の条件を満たしていれば進級、足りなければ留年、もう一度一年間同じ授業を受けてもらいます」


「それが留年制度?」


「はい」


 はじめのうちは皆あまり気にしないだろうけど、この留年制度はじわじわ本人の首を真綿で絞めていく。


「貴族の令息、令嬢は学院を卒業するまで婚姻できない決まりになっていますよね。 しかも令嬢は年齢を重ねれば重ねるほど婚期は遠ざかります」


「男性の留年は『いつまでも学院を卒業することが出来ない落ちこぼれ』と呼ばれ、最短で卒業する優秀な成績の者が目に見える形で現れます。 そうなれば留年は自分の価値の急落に直結しますもの」


 誰かに言われてからようやく動く者と、現状を楽観し先を見ない者達は、自分の意志を持ち常に最善を求めて進む者に劣る。


「父様には、貴賤を問わず優秀な官僚を得るためにも先程提案させていただいた教育制度の施行と、餌やりを御願いします!」


 なんの見返りもなく努力できる立派な人は極めて少ない、もはや絶滅危惧種。


 でも、目標があれば人はなんど挫けても進んでいける。


「わかった、皆がやる気になるように上手い餌をたんとばら蒔こう」


 ニヤリと二人で笑いあった。


 ルーベンス殿下一行が学院を去ってから半月後、国王陛下の名で学院の教育方針改革が王国中に向けて発表された。


 はじめは自分の子供達なら何ら問題はないと高を括っていた貴族の親達はさらに半月後、事前に試験の内容と範囲を指定されていた試験の結果に愕然とするより他なかった。


 二百を超える学生のうち国が作成した試験を無事に通過した者は僅か十二名のみ。


 中には結果を認めようとせず、教員に大金を握らせて実子を通過させようとする者もいたが、不正を警戒していた国王陛下の側近によって捕縛され、親は一年間の領地謹慎処分。子供は問答無用で留年が確定した。


 賄賂を受け取った教師は解雇となり、新たに二人の教師が学院で教鞭をとることとなるがそれはまた別の話。


 国王は試験を通過した十二名を城へ招き入れ、それぞれに王家の印が刻印された指輪を手渡しこう宣言したらしい。


「次代を導く若者よ、このまま励み国の助けとなる器量を身に付けよ。 学院で己を磨きその指輪を持って再びわが前に立った時、今の身分に捕らわれずそれに相応しい地位を約束しよう。 己の実力で権威をつかみとれ」


 国王より下賜されたのは指輪と、下級貴族では望むことすら難しかったエリート出世コースの確約だった。


 王の前に並んだ者達のうち十名が下級貴族の家の者たちだったのだ。


 国王陛下が成績が特に優秀だった五名に学院の権威の一部を委譲し、生徒による自治会、生徒会を設立したことで、学院においての高位貴族を筆頭にした権力図は崩壊。


 学院での玉の輿物件であった生徒は不出来の烙印を受けて陥落。それまで人知れずに努力を積み重ねてきた実力者による下剋上となったらしい。





「そうだ、リシャーナ実は――」


「閣下! リシャーナをドラクロアにやるなど本当ですか!?」


「あぁ、来たな」


 父様の声を遮って掛けられた声に振り向くと、一人の青年が騎士の詰め所からこちらに向かって凄い速度で走ってきた。


「ソレイユ兄様~!」


 青年こと兄様に大きく手を振るとソレイユ兄様はいつもきちんと撫で付けられた父親譲りの光加減で金茶色に見える茶色の髪を振り乱して、大きな腕を開いて走り寄るなり正面から私を抱き込んだ。


「リシャーナ元気だったかい?」

 

 力強くぎゅうぎゅうと抱き上げるソレイユ兄様の綺麗なエメラルドの瞳と視線が絡むと、兄様の高スペックな顔が満面の笑みで微笑んだ。



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