二十七話『私が守る!』
無事カイ達と合流することができて、極度の緊張と安堵からすっかり腰が抜けてしまった私は、現在カイに背負われながら山のなかを移動しております。
「重くない?」
「……重くない……」
護衛騎士達に周囲を警戒させながら息を弾ませて獣道を登っていくカイの額には無数の汗が浮かんでは、頬を伝い地面に落ちていく。
何度か他の騎士達から代わりに私を運ぶとカイに進言があったんだけど、決して頷かないのである。
「私のことは気にせず警戒に集中しろ、まだ賊の残党がいるかもしれない、襲撃があった際には守るべき対象はまとまっていた方がいいはずだ」
正論と言えば正論なのかもしれないけど、屁理屈を言ってやせ我慢しているように見えるのは私だけだろうか。
この道なき山を、人ひとり担いで登るのは相当重労働の筈だ。
レイナス王国から借り受けている護衛騎士の一人が持ってきていた縄で、レイナス王国に伝わる幼子を背負ったまま仕事が出来る帯を真似して二人の身体をくくりつけてからは、いくらかカイの両手が使える分楽そうだけど。
「大丈夫? もうだいぶ回復したし私降りても」
「いいからおとなしく乗ってろ」
発言に被せるように、カイが言いつのる。
「……何が王太子だ、国民どころか大切な妻ひとり守れない。 俺は夫すら失格だ……」
ポソリと口からこぼれ落ちたそれはきっと密着していた私にしか聞こえない程に小さな小さな自嘲だった。
王太子と言う重責は本来ならばカイザー殿下の元にくることはなかっただろう。
ルーベンスが国主として即位し、カイザー殿下は臣籍へ下り、ルーベンスの補佐をしながらその人生を全うしたのかもしれない。
それがなんの運命のいたずらか今は王位継承者第一位だし、ルーベンスはもはや王位を継承するつもりなんてこれっぽっちもない。
賊へこの襲撃を指示した高貴なる方々が誰かは捕らえた者達を尋問しなければはっきりはしない。
それでも、私は守られるばかりの弱い妻になんてなるつもりは更々ないのよ。
死の淵をさ迷うカイの側で不安な日々を過ごすなんて一度でたくさん。
カイひとりに重責なんて背負わせたりはしないんだから。
カイもドラタマもお腹の中のこの子も絶対に守って見せる。
崖から落ちたって生きてたし、拉致された時だって生き延びた。
ぎゅっとカイの背中にしがみつく。
心配させてごめんなさい、悟られないように小さく震える身体に、自分の体温を移して大丈夫、無事だよと伝えなきゃ。
少しでも傷ついた彼の心を癒やせたらいいなと思いながら。