二十五話『迷子になったなら自分で捜しに行きましょう!』
ヅキンという痛みで目が覚めた。
涼やかな川の流れる音と虫や鳥の声聞きながら寝ぼけた頭を左右に振って眠気を祓う。
「はっ、ぶぁっくしょい! って痛ったーい」
盛大なくしゃみに、落下の際にあちらこちら打ち付けた場所に痛みが走る。
「うわー、昨日は暗かったからわからなかったけどあちこち見事に紫色のドット柄になってる」
色が変わった左腕を右手のひとさしゆびでツンツンとつつき身体に走った痛みに悶えながら生きている事実を実感する。
「しかし、崖から落ちたのによく生きてたなわたし」
我ながら生への執着具合に苦笑いをしつつ抱いて寝た筈の卵を探す。
両手両足を動かして骨が折れていない事を確認してゆっくりと立ち上がりる。
「服乾いてると良いんだけど」
手で絞って枝に引っ掛けて干しただけだしまだ濡れているかもとは思っていたけれど、ワンピースデザインの寝間着はかろうじて着用に耐えられる程度に乾いていたため身に纏う。
ずいぶんとあちらこちら破けて前衛的なデザインの寝間着になってしまったけど、命があっただけで御の字だよね。
「しかし、ここどこよ?」
周囲を見回しても川と木と草ばかりで人も動物も見当たらない。
そして卵も見当たらない。
「うーん、ここにずっといても仕方がないしカイ達を探してみる?」
暗くてよくわからなかったがこの川をどんぶらこと流されてきたわけだし、なら川を遡ったらカイ達がいた場所まで戻れるんじゃなかろうか。
「うん、いい考えかも!」
とりあえず川沿いを歩いてみようとノロノロと移動をはじめようとした時背後でガサガサと音が聞こえて振り返ると薄紅色の卵が勢いよく転がってきて私の行く手を阻むように左右に転がり移動した。
「ちょっと卵ちゃん! 私そっちに行きたいんだけど!」
右足を出せば右に転がり左足を出せば左に転がる卵にため息をついた。
「あ~も~、こっちは駄目なの?」
地面にしゃがみこみ卵に声を掛ける。
我ながら卵に話しかけるなんてちょっとどうなんだろうとは思う。
思うけどなにかに話しかけているだけで精神的に救われるのだから仕方ない。
私の言葉を肯定するように竜の卵が二回跳ねる。
はい、でいいんだよね?
「川上へ行くのは?」
そう問い掛けると一回跳ねて見せる。
うむ、この竜の卵なかなか頭がいいようです。
「ならあっちは?」
川下へ指差すと卵が一回跳ねる。
一回ってことは『いいえ』かな?
「ならどっちに行けばいいかわかる?」
イエス、ノーは跳ねる回数で答えるこの卵はそれ以外の質問にどう答えるか気になって聞いてみる。
ゴロゴロと不規則に地面を転がって卵が選んだのは森だった。
「わかった、行ってみるか!」
二回跳ねると卵は森へ向かって転がって行く。
卵に先導されながら私が移動した数時間後、私がいたあの川辺に男達が集まっていた。
「おい、居たか!?」
「いくら川があったといっても崖から落ちたんですぜ、普通のご令嬢ならひとたまりもありませんぜ」
「それでもだ! 生死なんざ関係ねぇ死んだなら死んだで証拠がいるんだ、死体で構わないから捜せ!」
「へーい……」
そんな会話も知らず、卵に先導されながら樹木をかき分け獣道を進み続けた。