十五話『自分の心』
レイナス王国の竜祭りはとても懐かしくなるような物が沢山あった。
夫婦椀や夫婦箸、深紅の甲冑、その全てが、この国に前世の世界を同じくする転生者が存在していたことを物語っている。
転生したのだと自覚してから、周りに振り回されながら気がつけば当たり前のようにカイの隣に立って彼を支えている自分の変化にびっくりだ。
たったひとりで、例え原作ゲームを知っていてもこの世界は見知らぬ異世界だった筈なのに、カイと手を繋いで歩くこの大地が私の生きる世界なのだと実感できるようになった。
空が次第に赤く染まっていく頃には、いたるところに設置された篝火や店先に吊るされたランプに火が入れられて、暖かな光が暗くなった大通りを斑に照らしていく。
「あー楽しかったぁ! うわぁ綺麗!」
執務屋に籠り、王太子妃として日々政務の書類と貴族相手の社交にと格闘ばかりしているせいか、運動不足の両足が疲労を訴えてきているけれど、心はレイナス王国の満天の星空のように晴れ渡っていた。
夜になっても賑わいが衰えない大通りの様子を肩を寄せ会うようにして、その景色を眺めればこうして二人で過ごせる幸せにつつまれる。
レイナス王国に来てから、カイに馴れ馴れしく接するガブリエラ王女にイライラして悩んでいた。
社交の一貫だとわかっているのに、カイに触れるガブリエラ王女の手を振り払い、私の夫に触れないで! 言ってしまいそうな自分の衝動を押さえつける。
レイナス王国に来て自分がこれほど嫉妬深いのだと初めて思い知った。
「そうだな、ローズウェル王国とは違って星が近い気がするな」
そう言って隣で楽しそうに微笑むの頬になんとなく唇を寄せると、カイが驚いたように目を見開いた。
まぁ驚くよね、私からあまりこういうことはしないから。
「リシャ……覚えてろよ?」
ニヤリと笑ったカイに身の危険を感じつつ、私達は城へと戻った。