第七話『ムゥゥ……』
現在レイナス王家が準備してくれた夜会に参加しております。
もちろんお隣で私をエスコートしてくれているのは旦那様のカイザー・ローズウェル王太子殿下です。
漆黒の艷やかな髪を撫で付けて、ただでさえ無駄に整った容姿をしてるのに、今日は濃紺の夜会服をピシッと着こなし、完璧な王子様仕様。
ちなみに私はカイのサファイアのような瞳の色に合わせて青いドレスを着用中です。
新妻ですのでカイが私をエスコートしてくれるのは良いんです……良いんですけどね。
「わぁ〜、あの方素敵!」
「はぅ、どこのどなたかしら……お近づきになりたい」
「私があと十歳若ければ……」
無駄に整った顔に微笑みを貼り付けて会場の中を歩くたびにレイナス王国の貴婦人やご令嬢をたらし込むのはやめて欲しい。
「あの隣にいる女性、不釣り合いだわ」
「なんであんな絶壁女が隣にいるのかしらしかも王宮の柱みたいな方」
それは胸部とウエストの差がささやかで円柱だと喧嘩を売られているのだろうか。
「変わった女性の好みなのね……あの程度なら私のほうが……」
ほらバシバシ嫉妬やら妬みやらの視線が飛んできてグサグサ心に突き刺さる訳ですよ。
悪かったな絶壁言うなし! こっ……これから大きくなるもんねっ!
カイの軽く曲げられた左腕に手を添えて向かったのは本日の夜会の主催者であるエルナン国王陛下とその他王族が集う場所だ。
「本日はお招きいただきありがとうございます」
そう告げてから王族として相応しい挨拶をしたカイは私を自分の正妃だと紹介をしてくれた。
エルナン陛下は私達にレイナス王家の方々を紹介してくれる。
その中には昨日一緒にお茶を頂いたレオル王太子殿下の姿も見られた。
「レオルとはもう会っていますね、そしてこちらが」
「レイナス王国王女ガブリエラ・レイナスですわ、お会い出来て光栄です」
エルナン陛下の説明をぶった切り自分から名乗り出たのは赤毛を夜会巻きに結い上げて、豊満な胸部をこれでもかと主張する身体の線がわかりやすいタイトなドレスを身に纏った妖艶な美女だった。
歳は多分私より二つか三つ上かな。
勝ち気な印象の瞳は髪と同色のまつげに彩られ、翠色の瞳は少しだけレオル殿下よりも色が濃い。
左側の目尻にある泣きぼくろと、ぽってりとした紅い紅をさした唇が色っぽく蠱惑的とでも言ったらいいのか。
とにかく、けしからん胸部装甲をしたムフフン美女だ。
別に自分のささやかバストと比べて傷ついたりするもんか!
胸部装甲の差にいちいち落ち込んだりしないもん。
クリスティーナやシャノンで免疫がついたもんね。
それはそうと、陛下の話をぶった切るのはいくら実子だとしても不敬じゃなかろうか、現に私の隣ではカイの腕に力が入り強張っているし、レオル殿下も怒りに笑顔がじゃっかん引きつっている。
「お初にお目にかかりますガブリエラ王女殿下ローズウェル王国王太子カイザー・ローズウェルです以後お見知りおきを」
カイは視線でエルナン陛下に許可を求めて了承を得るとガブリエラ王女に他愛無い挨拶を交わした。
そしてさり気なく私の腰に手を回し、半歩前に押し出す。
「こちらは我が妃のリシャーナ・ローズウェルです。 どうやら歳もあまりかわらないようですので滞在中ガブリエラ姫と懇意にしていただければ幸いです」
「お初にお目にかかりますリシャーナ・ローズウェルです」
カイの紹介に続き淑女の礼で挨拶をすると、ガブリエラ姫はジロジロと不躾な視線で私を見た。
「えぇ、カイザー殿下の願いですものもちろん」
そう微笑むと、なんとガブリエラ姫は素早くカイの隣に移動するとちゃっかり自分の腕をカイの腕に回して巨大な胸をムニッと押し付けた。
あっと言う間にカイから引き剥がされる。
「ささっ、カイザー殿下あちらで両国の友好を深めるためにローズウェル王国のお話を聞かせてくださいませ」
カイは、私に視線を寄越してくるもののガブリエラ姫は意に返した様子がない。
「大丈夫ですわ、妃殿下はローズウェル王国の王太子妃殿下を務められる方ですもの、他国の姫と殿下が話したくらいで文句などおっしゃるような狭量ではいらっしゃらないですわよ……ねぇ?」
ニヤニヤと嫌味な視線をくれるガブリエラ姫に苛立ちが募る。
「そうですわね、カイザー殿下。 私はレオル殿下と歓談させていただいておりますのでごゆっくり」
引きつる顔を笑顔を貼り付けてそう言うとニヤリとガブリエラ姫が勝ち誇った笑顔を向けてきた。
くそ〜、なんか凄く腹が立つんですけど!
「ささっ、カイザー殿下。 妃殿下の許可も頂きましたしあちらへ参りましょう? レイナス王国の高位貴族をご紹介いたしますわ。 ねっ?」
なおも心配そうな視線をくれるカイに行ってこいと言う視線を向けて促すと、カイは小さなため息とともにガブリエラ姫と一緒に歩き出した。
「リシャーナ妃殿下、うちの王女が申し訳無い」
「申し訳ありません、姉が失礼を」
陛下に謝られ、更にしょぼんとしてしまったレオル殿下に、なぜか罪悪感を感じてしまい慌てて否定する。
「お気になさらないでください陛下、レオル殿下。 ガブリエラ姫の仰るように両国の友好を図るのは素晴らしいことです。 レオル殿下、私にレイナス王国の事をもっと教えてくださいますか?」
「はい!」
ムシャクシャした気持ちを押し隠してそう声を掛けるとレオル殿下は元気に私をエスコートしてくれた。