126『なんですとぉお!!』
「はぁ、初めて引き合わされたころから危ない男だと思っていたが、男の俺から見ても鳥肌が立つぞ、いつもあぁなのかこの男は?」
「大抵こんな感じですね、もう鬼畜と言うか人でなしと言うか……敵だけでなく味方の精神までゴリゴリ削っていくんですよ」
「やはりそうか、陰険な性格が顔まで出ているのだな、見てみろあの顔」
なぜだろう、目の前にいる変態レブランよりも彼の後ろで、ヒソヒソ悪口を言っているイザークとイーサンが凄く気になる。
そして一つ言いたい、イーサンがそれを言う!?
ゾライヤ帝国の遠征軍での自分の行いを棚に上げて忘れたとか言うつもりか。
わざわざ人を自分の寝室の真横に張った天幕で私とアラン様に仕事をさせて、自分は四六時中妾と享楽にふけっていた露出狂の変態がそれを言う!?
「聞こえてますよ二人共……」
ゆらりと幽鬼のように立ち上がったレブランが側から離れて行く。
レブランとの間に距離が出来ると、無意識に強張り張り詰めていた呼吸が緩む。
このまま出ていけ変態ども、でも拘束は解いていけー。
「レブラン様」
閉じられた扉の外から聞こえた声に可能なかぎり耳を澄ませる。
こうなったら少しでも情報を集めてここから脱出できる可能性を上げてやる。
「どうした?」
「王城の騎士団が動き出しました」
「ほう……随分と早かったですね、もう少し時間を稼げると思っていたのだけど、やっぱり密告者が居たのかな?」
気を失ったままのシャノン様を見下ろす、レブランの視線の冷たさに震えが走った。
正直になろう……怖っ!
しかし、王城の騎士団が動いていると言うことは、現在進行形で拘束されている私にとっては何よりの吉報だ。
「いかがなさいますか?」
扉の向こうにいる人の問に、レブランはイーサンの意見を求めるように視線を向けた。
「俺はこの国の事には詳しくないのでね、貴方に任せるよ」
「わかりました……引き続き監視を続けよ。 王城に火の手が上がり次第攻め込むので関係各所に伝令を走らせろ」
「御意!」
今レブランはなんと言った?
王城に火の手って何? 攻め込むって!
「んー!?(どういうこと!?)」
詰め寄ろうにも拘束された身体は近寄るどころか捻るくらいしか出来ない。
「さて、何を言っているかは検討がつくが、一応大事な人質ですからね、精々おとなしくしていて貰いましょうか……」
睨みつけるしか出来ない現状は腹立たしいけれど、レブランはイザークとイーサンを連れて部屋を出て行き、扉が閉まると同時にガタンと音がした。
見張りらしい男に引き続き監視を続けるように言い付けて軍靴の音が石床を踏みしめて次第に遠ざかって行った。
扉からガチャンと言う金属音が聞こえたなら鍵が要る、しかし実際に聞こえてきた音はガタンと言う重い閂の音……
扉の前の声からするに男が一人か二人といったところか。
レブランはおとなしくしていろと言って居たけれど、こちとら前世の記憶の一部を思い出す前からおとなしくしていた事なんて無いのよ。
目には目を、刃には刃を、善意には善意を持って、悪意には二乗にしてやり返すのがダスティア公爵家の家訓。
きっちりお返しするためにも、ここから脱出しなくちゃね。
ありがたいことに、レブランは拘束せずにシャノン様を置いていってくれた。
「んー! んんんー!」
シャノン様の怪我の具合いも気になるし、頭を打っていれば危ないかもしれない。
処置をしたくてもシャノン様にこの悪趣味な拘束と猿ぐつわを外して貰わなければ何もできないに等しいじゃない。
なるべくシャノン様の頭を揺らさないように気を付けながら、不自由な身体をシャノン様の手元や身体に擦り付けて意識を戻そうと揺らしてみる。
お願いします! シャノン様気が付いて……
根気よく続け、室内が更に暗くなった頃小さなうめき声を発してシャノン様の瞳が薄く開かれた。