119『小石の被害者』
あ、朝が来た。 清々しい澄んだ空気と、愛らしい小鳥の囀りを聞きながら、寝不足でシバシバする瞼を擦る。
とりあえずベッドから抜け出して簡素なクリーム色のワンピースに着替えた。
まるでセーラー服のような幅広の襟と胸元に縫い付けられた大きめの赤いリボンがアクセントになっていて可愛いのでお気に入りだったりします。
赤や白等の膨張色の服を着るようになったのはつい最近だったりする。
今日は休養日とは言え、仮に足がほぼ完治していたとしても安静にしていなければならない。
でも考えてみて欲しい、この学院寮に居たらいつカイザー様やアラン様が来るんじゃないかと戦々恐々としていなければならないじゃないですか。
とてもじゃないけど休めません。
主に精神面で安静になんて出来る訳がないじゃないですか。
時計が存在しないので正確な時間はわからないけれど、腹時計の感覚から割り出して、大体前世で言う朝の六時位から夜二十一時までに概ね三時間毎に鳴らされている。
今日は時告げの鐘がまだ鳴っていないので六時前かな?
ちなみに一日の最後の鐘は夜の九時位でその次は朝の時告げまで鳴らされることはない。
王都中に響き渡らせる為に鳴らされる鐘の音はとても大きい為、鐘がある双太陽神教の教会に近い住宅は深夜に鐘を鳴らされると煩くて眠れないらしい。
夜中に鳴らされるときは火事が起きた時……そして何者かが王都を攻めてきた時だ。
あまり大きくない簡素なポシェットに白いハンカチと花模様が可愛い刺繍の巾着型のお財布を入れて肩から斜めがけすると、なるべく音を立てないように静かに扉を開けて私室の外に出て鍵を掛けた。
静まり返った寮内を地上に向けて歩き、迷いつつもなんとか外に出る。
事前に連絡を入れれば、公爵家の馬車か学院の生徒がよく利用する貸し馬車を手配出来ただろうけど、今日は連絡を入れていないため、馬車の轍に沿ってまっすぐに通用門に向けて歩いていく。
いくらなんでも轍に沿って歩けば学院の外まで迷わないで行けるだろうと意気揚々進んで居たのですけれど……ここどこですか?
結構な距離を歩いたにも関わらず通用門にたどり着かない。
今私の目の前には途切れた轍と発酵で湯気が上る馬糞の小山が……誰だ通用門を隠したのは……
ため息を吐いて改めて回りを見渡せば整えられた樹木から庭園の一角へ迷い込んだような気もする。
なぜだろう、こんなはずでは無かったのに、部屋を出た当初の予定なら今頃は王都内を回る辻馬車を捕まえてダスティア公爵家の屋敷についてまったりしているはずだったのだ。
「はぁ、諦めて戻ろうかな」
果たしてきちんと寮に戻ることができるだろうか、足元にあった小石に八つ当たりもかねて蹴り上げれば、小石は綺麗な放物線を描いて私の目線より高い生け垣の向こうへ飛んでいった。
「痛ってえ!」
「大丈夫!?」
誰も居ないと思った生け垣の向こうから聞こえてきた声は男女二人分。
どうやら人が居たらしく蹴りあげた小石が被害を出してしまったらしい。
「あー、すみませんでした!」
私は加害者なので生け垣の途切れている所から被害を被ったと思われる人物に素早く頭を下げた。