118『うわぁぁあ、恥ずかしい』
「俺の家族になってくれないか?」
カイザー様からの突然の告白に心臓が痛いほどに脈打つ速度をあげているのがわかる。
大きな音で高鳴っているのは私の鼓動かはたまたカイザー様のものなのか……
「ふぇ、ぶぇっくしょい!」
甘酸っぱいような気持ちは、突如襲ってきたおやじ臭いくしゃみにかききえた……
なんだぶぇっくしょいって、うわぁー。 恥ずかしい!
背中から伝わるカイザー様が耐えるように小刻みに震えている。
「カイザー様、笑うなら一思いに笑ってください」
「す、すまない。 うっく、ぷっアハハハ!」
「ふっアハハハ」
二人でひとしきり笑いあった。
「はぁ、こんなに沢山笑ったのは久しぶりだ。 やっぱり俺はリシャと一緒に人生を過ごしたい。 いい返事を期待しているよ」
そう告げると額にチュッとキスをくれた。
「なっ!?」
「だいぶ身体が冷えてしまったね……部屋にお戻り。 それからこの窓は俺以外には開けちゃ駄目だよ?」
「あっ、開けません!」
開け放ったままの窓から私を室内に戻し、釘を指すと、抜群運動神経を発揮して枝と枝の間を器用に飛び移ると、あっという間に地面へと降りてしまった。
「お休み、俺の姫」
呆然と去っていったカイザー様の後ろ姿を見送って暫し。
「おっ、俺の姫って!」
うわぁー、うわぁー、うわぁぁぁー!?
くそぅ、これだから美形は! なんだよ俺の姫ってぇ!?
フラフラとベッドに潜り込み羽毛がたっぷりと入ったお気に入りの枕に顔を埋めて悶絶絶叫した私は悪くない。
やっぱり美形は侮れない、あれは立派な公害だ!
心臓に悪いったら、なんで真顔であんな恥ずかしい台詞とか言えちゃうかな?
恋愛小説やアニメーションの声優さんの美声が囁くセリフを聞いただけでも悶絶ものなのに、リアル美形に見詰められて生の激甘セリフを言われるとか拷問ですか!?
なんなんだこの間のアラン様から始まってのこの心臓に悪い展開のラッシュは、美形に関わるとろくなことがないのは身をもって痛感したはずでしょう。
しっかりするんだリシャーナ!
そうだ、寝よう! 寝れば、寝れば落ち着くはずだ!
うわぁぁぁー、眠れないー!
なんで、どうして! どんな時でもどんな場所でも寝付きの良いのは私の特技でしょうが、今こそその特技を遺憾無く発揮するときでしょうが!?
カイザー様の声が、私より少し高い体温が、たくましい腕がまざまざと蘇る。
眠りにつこうと無駄な足掻きを繰り返すうちに朝日はのぼり、翌日呆然と晴れ渡った空を見上げて、視界に映る昨夜の木を見るたびに思い出してはアワアワと挙動不審に陥る。
ちくしょう、カイザー様めぇ。 あの木が見えるたびに思い出していたら落ち着かないじゃないの!
カイザー様がやって来る前に見たものはすっかり忘却の彼方に葬り去られたのでした。
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