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美形王子が苦手な破天荒モブ令嬢は自分らしく生きていきたい!《コミカライズ完結!》  作者: 紅葉ももな
『悪役令嬢ってもしかしてこれのこといってます!?』
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111『王子動く』

 おはようございます。 私は一体いつの間に自分の部屋へ帰ってきたのでしょうか?


 ルーベンスに太った発言をされて頭に血が上り、天誅を食らわせて脱走しレブラン様に襲われかかった事を思い出して悪寒が走りました。


 うん、あれは夢です……すっかりさっぱり忘れましょう。


 部屋の扉を開けて廊下を覗いても人っ子一人見当たらないところを見ると、どうやら早く起きすぎてしまったようです。


 二度寝したら起きる自信がないので、クローゼットを漁ると中から運動用に持ってきた衣類に素早く着替えて部屋を抜け出した。


 鏡に写る自分の姿に何となく丸くなったかなとは思っていたけれど、せっかく新調したドレスが着られなくなるのはマズイ。


 ゾライヤ帝国でゾロさんに鍛えられていた時の記憶を呼び起こしながら、歩けばなぜかすんなりと寮の外に出ることが出来た。


 朝の空気を深呼吸で胸いっぱいに吸い込み、とりあえずゾライヤ帝国の遠征軍でゾロさんのブートキャンプを思い出しながら走り出せばいくらも進まないうちに地面にへたり込むはめになってしまった。


 うむ、こりゃいかん。 自分で思っているよりも身体が鈍ってしまったのか身体が重く感じる。


 朝露に濡れた木々の輝きを堪能しながら 走る速度を落としてどことも無しに走っていく。


 しばらく走った私の耳に飛び込んできたのは、キンキンカンカンという金属を打ちつけ合う音だった。


 どうやらこんな朝早くから起きて剣術の稽古をしている物好きが私の他にも居たのかと感心しながら、物好き……じゃなくて勤勉な生徒の顔を確認しようと好奇心に勝てずに顔をだせば、物好き……アラン様とカイザー様が刃を潰した剣を打ちつけあっていた。


 朝からご苦労なことで。


 これは気がつかれると厄介な事になるような気がして後ずされば、目ざとく私を見付けたアラン様が手合わせをやめてこちらに走ってやってきた。

 

「おはよう、どうした? こんな時間に外にいるなんて珍しいな」


「おはようございますアラン様。 少し朝の散歩をしていただけですわ」


「おはようリシャ。 いくら朝だからといってひとりで出歩くのは感心しないね」


「カイザー様。 おはようございます昨日はありがとうございました」


「……いや、良い。 気にするな」


 私がカイではなくカイザー様と呼んだら眉間に深い皺が寄ったが、とりあえず今は訂正するつもりはないようだった。


「昨日? 何か有ったのか?」


 アラン様が聞いてきたけど、レブラン様に押し倒されたのは吹聴することでも無いので曖昧に笑ってごまかした。


「それで? どうしました、こんな早朝から」


 カイザー様が直ぐ様話題をそらしてくれたので素直に話に乗っかることにした。


「実は少し運動を始めようかと思いまして」


「あぁ、だからワンピースではなくその服なんだな」


 私の格好に得心が言ったと言うように頷くアラン様。


「おかしくは在りませんか?」


 視線を下に向け上衣の裾を少しだけ摘まみ、アラン様とカイザー様を見上げる。


「かわーー」


「可愛いよ。 でもひとりでは不用心だ。 運動なら私がつき合おう」


 顔を真っ赤にしたアラン様が何か言いかけていたが、カイザー様の声に被せられて聞きそびれてしまった。


 しかし、カイザー様は相変わらずお世辞が上手いなぁ。 さすが美形! こなれてる。


「いえ、もう戻りますのでお気になさらずお二人で稽古を続けてください」


 カイザー様に男色の気が有るかは知らないが、アラン様はゾライヤ帝国の遠征軍でも男色だと有名だったし、男同士の愛情の深めかたもあるだろう。


 二人だけの時間を邪魔するほど私は図太くないはずだ。


「ではせめて寮まで送ろう」


 カイザー様が差し出した手が一瞬だけレブラン様の手を思い出し身体が無意識に跳ねのけた。


「じっ、自分で戻ります!」


「あっ! ちょっとまて! そっちは!」


「えっ、うぎゃ!」


 アラン様の制止を振りきり目を瞑って走り出した私は、乙女にあるまじき悲鳴を上げて見事に水を引くために掘られた溝に右足をとられてスッ転んだ。 


 ううぅ、側溝の泥にはまって運動着がドロドロだ。


「大丈夫か!?」


「大丈夫ですか!?」


 心配して駆けつけてくれたのはありがたいが、出来れば見ないでくれたまえ。


 私にも羞恥心はあるのだよ。


「だっ、大丈夫! ……痛ッ!」


 側溝から立ち上がろうと力を込めた右足首に激痛が走り地面に伏せる形で痛みを逃がす。


「もしかして右足を痛めたのか?」


 ドロドロの私を引き上げると痛めた足を確認しようと触れて来るカイザー様。


「リシャ、そのままでは風邪を引く」


「え、うひゃ!?」


 カイザー様からまるでさらうようにして私を抱き上げたアラン様がスタスタと寮が有るだろう方向に向かって歩き出した。


「ちょっと、放して自分で歩くから」


「却下だ。 リシャに歩かせたら寮に着くよりその泥が乾く方が早いからな、それにその足は早く医師に見せた方がいい」


 即座に私の訴えが棄却される。 いくらなんでも服が乾くまでさまよわないよ、ちゃんと道は聞くもの。


 不満顔の私を抱いたままアラン様が顔だけをカイザー様に向ける。


「カイザー殿、すまないが医師とクリスティーナ嬢を呼んできてくれないだろうか? 俺はまだ学院の地理に明るくないから貴方が動いた方が早いだろう。 女子寮に送っていくのもマズイだろうから共同の広間に運ぶ。 クリスティーナ嬢にリシャの着替えを持ってきてくれるように伝えてくれ」


 アラン様が伝えると渋々といった様子でアラン様の使っていた剣を回収してきた。


「……わかった、リシャを頼む。 レブランを近付けるな」


 低い声でそう告げると瞬く間にどこかへ走り去った。


 足が長いと走るのも早いなぁ。

 

「レブラン……」


 噛み締めるように呟くとアラン様は私を肩に担ぎなおして歩きだした。


 一つ言いたい! お姫様抱っこも恥ずかしいけど、荷物みたいに持たれるのも納得がいかない。


「おっと、暴れんなよ? 落ちるぞ」


「うわっ!?」


 突然ぐらりとアラン様のバランスが崩れてずり落ちそうになり、振り落とされまいと必死にアラン様の背中にしがみつく。


「あはははっ」


「アラン様のばぁーか、ばぁーか」


 慌てる私の様子に盛大に笑いやがったので背中をポカスカ叩けばまた振り落とされかけてしがみついた。


「しかし、なんでいきなり散歩する気になったんだ?」


「……ったじゃん」


「ん? なんて言ったんだ?」


 ボソリと告げれば聞き取れなかったのか聞き返してきた。


「だから、アラン様が肥ったって言うから……少し運動しようかなーと、思ってみたり?」


 こんどは少し大きな声で言う。 これでも聞き取れないとか言ったらもう絶対に教えない。


「ふっ、なんで疑問系なんだよ。 そっか、減量するなら付き合うから言えよ? それから肥ったって元のリシャ戻るだけだろう。 太かろうが細かろうがリシャはリシャなんだとクリスティーナ嬢をみてると思うんだよな」

 

 うっ、まぁその通りなんですがね。 クリスティーナ様は痩せてから初めて会ったときもあんまり反応変わらなかったもんね。


「まぁ、確かに痩せてた方が可愛いけどな」

 

「か、可愛い?」


「おう。 嫁に貰いたいくらい可愛いと思ってるぞ俺は」


 聞き間違いか? 可愛いとか、嫁とか本気か? イヤイヤイヤ、ないないない。


 アラン様レベルの美形が求婚とかあり得ない。


「リシャ?」


 絶賛大混乱中で返事をしない私を肩から降ろして両手で臀部を支えながら向かい合わせになるように抱き直された。


 普段は私より高いはずの視線が、真っ直ぐに見詰めてくる。


 誠意と熱意を宿したアラン様の瞳には顔をして真っ赤にした私の姿が写っていた。

 

「リシャ? 俺のお嫁さんになって一緒にゾライヤ帝国に来てくれないか?」


「えっ、いや、だって、えっ!?」


 狼狽える私の様子に苦笑しながら頭部に片手を添えられて抵抗するまもなくアラン様に唇を奪われる。


 軽く触れるだけの羽毛のような柔らかく優しい口付けはほんの一瞬で離れていった。


「すぐに俺を恋愛対象には見れないかも知れないし、どうせリシャの事だから俺の気持ちになんて気が付いてなかったんだろ? 返事は直ぐじゃなくていい、俺との結婚を、将来を共に歩む者として考えてくれないか?」

 

 突然のプロポーズに声が出ない。 よりにもよって側溝に落ちたせいであっちこっちドロドロで、こんなみっともない姿のときにそんな告白するなんて!


 混乱した頭でどう返事をすれば良いのかわからなくて、アラン様の肩に額を押し付けて小さくコクリと頷いた。


「さて、言いたいことは伝えたし、そろそろ戻ろうか」


 止めていた足を動かして先ほどの不安定な足取りが嘘のように危なげなく私を抱いたまま歩いていく。


「なんでキスしたのよ」


 ボソリと告げればクスクスと笑いながら私の頭を優しく撫でてくる。


「人生最大の告白の返事をおとなしく待つんだ。 これくらいのご褒美はあっても良いだろう?」


 にっこりと笑ったアラン様のキラキラ王子様オーラが倍増している気がするのは気のせいでしょうか?


 もしかして私、まだ寝てるんじゃなかろうか。


 実はこれは夢の中の出来事だとか? 私は自分の両頬を両手で摘まむと捻りあげた。


「うっ、いひゃい」


「ブッ! なんて顔をしてしてんだよ」


 ヒリヒリと痛みを訴える両頬が夢ではなく現実だと訴えてくる。 まぁ、頬を引っ張らなくても先ほど挫いた足が痛みを訴えてきているので現実だわかっていたけれど。


 改めてしがみついた服からはアラン様の香りがした……


とうとう動いた~!

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