悪役令嬢と転生ヒロイン(元電波)の苦悩
『五爵と恋しよ!』
これは大人気の乙女ゲームである。
名前の通り、同年代の公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵の跡継ぎをメインの攻略キャラとしており、サブに豪商と平民とも恋に恋に落ちれる。
そして、一番の魅力は、腹黒公爵でも、厳格侯爵でも、俺様伯爵でも、差別子爵でも、電波男爵でも、人懐っこい豪商でも、爽やかな平民でもなく、全ルートを攻略し、全てのスチルを集めた者だけに許される、王族ルートである!!
全てのルートを攻略し、全てのスチルを集めた後、7人の友情度を最大まで上げると本来終わるその先に王族ルートが現れる。
優秀だが癖の強い攻略キャラのストッパー的存在として王族に認識され、穏やかで優しい王族ルートの道が開かれる。
さて、ヒロインはといえば、平民でありながら魔力を多く持っており、貴族と魔力持ちや優秀な平民が通える学園へと入学した。
13歳から18歳までが通う学園に16歳になる年に編入したヒロインは、3年間、勉強に恋に友情にと忙しない日々を送る。
魔法や体術、作法や美容などを怠ればバットエンド。攻略キャラの実家に認められずに引き裂かれる。
友情度を上げて恋情度を上回れば、友情エンド。親友認定され、学園を卒業後も仕事の相棒となる。
恋情度が満タンなど高く友情度を上回り、なおかつヒロインのスペックが満たされていれば、ハッピーエンド。公私共にパートナーとなり、周りに祝福されながら晴れて結婚できる。
難易度は身分で分けられており、侯爵辺りから自力はキツいと言われており、王族ルートは攻略サイトさんが四苦八苦していた、まさに鬼畜ルート。
そして、私はそんな世界に転生した腹黒公爵の婚約者で、恋敵の悪役令嬢のメアリー・エルジャベート。
作成スタッフ曰く、名前の元になった人物は『血濡れ』と『血を浴びた』で出てくるような方々でだそうだ。
もちろん、R―18Gじゃないから普通に高飛車で傲慢で我儘な嫉妬深い被害妄想の激しい、頭の弱いお嬢様であるので安心してください。
もちろん、同じ公爵家だから婚約者になっただけで、腹黒公爵にベッタリな悪役令嬢を尻目に、腹黒公爵は頭の弱い悪役令嬢を疎ましがって居る。
それを思い出したのは、つい先日、腹黒公爵との初の顔合わせをした日の夢であり、翌日とも言える。
そして、7歳の私は、急いでヒロインを探した。
電波な転生ヒロインなら厄介この上ない。
取りあえず、ヒロインと話してみよう。
そう思った私、グッジョブ!
電波な転生ヒロインでした。
「だから、相手を一人に絞れば手伝うって」
「はあー!どうせなら逆ハー狙うでしょ!てか、そんなこと言って、私からイケメンを掠め取る気なんでしょ!」
このループ何回やるのかなー。
いい加減、止めたい。
「いや、要らないから。腹黒王子も厳格クールも俺様ヘタレも差別ツンデレもマイペース電波も二次元だから許されるの!確かに会った腹黒公爵は可愛かったよ!でも、あんな擦れた面倒臭い子供は嫌!あれがもっと面倒臭い性格になると思うと今から憂鬱過ぎる!大切な事だからもう一度言おう、ただし二次元に限る!!現実には要らん!」
私の勢いに圧されたのか、ヒロインが黙る。
そして、此方をうかがうように呟く。
「面倒臭い…?」
ああ、極度の面倒臭がりの私にはあいつらの相手は無理である。
隣に立つ努力も。
「そう!腹黒公爵の値踏みするような目に晒され、厳格侯爵に細かい指摘をされ、俺様伯爵に命令され、差別子爵に蔑まれ、電波男爵は会話が噛み合わない!そんな生活をしたいの!彼等がぶれないのは、貴女だってよくわかってるでしょ!!」
多少軟化するキャラもいるが、軟化であり、それも多少する程度で、キャラがぶれないことに定評があるなんて言われていたくらい、変わらない。
「それは…。お、王子様狙うわ!」
「そのためには、あの面倒臭い連中を止められるようにならないといけないんだよ!よく考えて!面倒臭い者にわざわざ関わる必要なんてないんだよ!」
目線をさ迷わせたヒロインが小さく頷いたのを見て、私は満足した。
「私は、メアリー・エルジャベート。貴女は?」
「私は、テレサ・フローレンス。メアリーって呼んでいい?」
「もちろん!テレサ」
* * *
私とテレサに友情が芽生え、早10年。
なぜ、こうなった?
私は、婚約者と愛を育んでいる。
努力はしてないが、怒られないように真面目に受けてたら、メアリーってば、スペック高すぎて婚約者に認められるレベルに育ってた。
そして、テレサは…。
「テレサ、この前の成績下がっていたようだね」
「デューク(腹黒公爵)様がムリヤリ生徒会に入れるせいでしょ!?」
「テレサ、自分の努力不足を他人に押し付けるのは良くないぞ」
「マークイス(厳格侯爵)様、無茶ブリやめて下さい!」
「はっ!この程度もできねーのかよ」
「時間の有り余ってる貴方とは違うんですよ、アース(俺様伯爵)様!」
「だから、愚民にはムリだって言ったんだよ」
「なら、最後まで反対押しきって下さいよ、ヴァイカウント(差別子爵)様!」
「もぐもぐもぐ」
「バロン(電波男爵)様!生徒会室は飲食厳禁だといいましたよね!?」
「テレサ大変だねー♪」
「ウェルシー(人懐っこい豪商)!?生徒会室は関係者以外立ち入り禁止ですよ!」
「はははっ!楽しいな!」
「コモナー(爽やか平民)!何、無関係な顔しているの!アンタもよ!」
全力で恋愛フラグと友情フラグを折る傍ら、友情フラグを乱立させ、立派なストッパーとなった。
現実を現実として受け止めた彼女は、唯一の理解者である私と離れたくないと努力し、強く気高く美しい女性へ成長した。
まあ、乙女ゲームやる女子が本物の男好きなリア充とかはなく、いわゆる三軍の消極的で優しい子で、理由は違っても浮いている5人を放置出来ず、なついてくれる人を無下に出来ず、ストッパーという地位に付き、着実に王族ルートへ近付いて来ている。
本人は日々の忙しさに忘れ、流されつつ友情を上げ、私の為に自分を磨き過ごしており、それでもこれ以上の苦労は勘弁だと言っているが、多分王族ルートに入っている。
学園でも平民だと馬鹿にするには周りがきらびやかで、その上、攻略キャラの尻拭いやフォローに奔走する姿を多々目撃される今日では、嫉妬よりも同情と尊敬を集めている。
ついでに、先日国王殿下からテレサの事を聞かれた。
すでに秒読み、とりあえずテレサが少しでも苦労しないようにテレサに王妃として必要な知識を教えておこう。
「テレサ、今日は周辺国の特産物について勉強しましょう」
「分かったわ、メアリー!」
貴女が私の幸せを願ってくれたように私も貴女の幸せを願っているわ。
お人好しな私の親友。貴女のためなら王族だって敵にまわすわ。
貴女が私のためなら公爵家を敵にまわせると宣言した日に私も決意したの。
メアリーを泣かす奴は、誰だって赦さないってね!
物語にないその先までずっと笑ってましょうね。