『蒼櫻』に『髑髏』乱れに乱れる地下坑道!
しばらく歩いていた。入り組んだ謎の坑道のイメージの場所。迷った?
「なあ、ミ」
「しっ! 誰か戦ってる」
「ぐへっ」
なんかついでみたいに腹を殴られた。そりゃ、こうされたら黙らざるを得ないけどさ。
「あれ…『蒼櫻』!?」
「はあ? 盗まれたんじゃなかったのか?」
「あの人が盗んだんじゃない?」
「分からないな」
「ぐわっ!」
男は、隙を突かれたのか攻撃を防ぎきれず倒れた。
「やばい! ミナ加勢するぞ!」
「う、うんっ!」
俺たちはそいつを助けるために出て行った。
「大丈夫か?」
「あ、ああ。ありがたいぜ…ん? クロマか?」
「へ?」
不意に呼ばれて吃驚した。
「お前…キョウ! キョウか!」
「ああ。そうだ」
「積もる話もあるが、まずは目の前の敵だ!」
「私がやるよ」
「…アイノセか?」
「話は後。行くよ『紅櫻』」
一瞬で終わった。竜巻と共に。
「まだ来ないかな。じゃあ、とりあえず久しぶりだね。キョウ」
「そ、そうだな。アイノセ」
「ミナでいいって。で、今まで何してたの?」
「地下で暮らしてた。こいつのお陰だな」
キョウは手元の刀を見る。
「それ、『蒼櫻』?」
「ああ。聖武器の部屋から盗んだんだ」
「だから地下で生活を?」
「そうだ。地下で吸血鬼が何かしてたのは知ってたからな」
「歩きながら話したほうがいいかもな」
「そうだね。キョウ、行こう」
コツコツコツ。足音が響く。
「なんか来るな。奥に強え奴がいる」
「分かるのか?」
「この地下生活で鍛えられた第六感…と言いたいがこの『蒼櫻』の性能だ」
「『蒼櫻』の?」
「探査と狂気だ」
「狂気?」
「なんて言うかな狂気を操るみたいな。溜めたり解放したりできるらしいんだ」
「らしいって…」
「探査はよく使うんだけどな。狂気の使い方がわからねえんだ」
「なら、なんで知ってんだ?」
「今日の朝、本を見つけたんだ。聖武器のな。それで性能って言うか効果って言うか、そんなのが載ってたんだ」
「それどこにあるの!?」
言ったのはミナだった。
「ど、どこって、俺の部屋だけど」
「取ってきて!」
「え、いや、ほら、だから、俺の部屋、もうちょい先だから」
「だからなに?」
「え?」
「はやく取り行かないの?」
「だ、だからっ! 今、行ってる途中なんだって!」
「…? あ! そういうこと!」
馬鹿を露見するんじゃない。
俺は心の中で突っ込んだ。
「狂気の能力は使ってみたのか?」
「ああ。使ってはみたんだが、効果が現れないんだ」
まさか、と俺の脳内である考えが巡った。そうそれは昼のこと。
「狂気の対象は、キョウじゃなくて…ミナだったんじゃあ…?」
「は?」
「ふえ?」
「昼にミナがおかしくなったろ?」
「あ…うん。まさか、それ?」
「…分からねえけどな」
でも、もし違うとしても、『蒼櫻』のせいにしておきたい。
「? なんの話だよ?」
「こっちの話」
「ああそうかよ。どうせ教えねえ口だろ」
「ははっ。そだな」
「あ、そこ左な」
「おっけ」
左に曲がると奥に白い光が見えた。
「あれか?」
「待てよ。電気は消してきたはずだ。仮に消してなかったとしても、もう少しオレンジ色の光のはずだ。あの光はなんだ」
「ミナ。戦闘かもしれないから一応準備しとけよ」
「う、うん」
そっと。足音を立てないように俺らは歩いていく。
「んー。なんなんだろここ。面白い本が沢山あったなあ。よし出よ」
奥から声が聞こえた。女の人の声だった。
「行くぞ」
俺たちは急ぎ足で歩いた。
「おいそこのお前」
「あれ? 君たち誰?」
眼鏡をかけたセミロングの女の人が不安気な顔をしていた。
「人なの? 鬼じゃないよね…?」
「人だ。お前こそなんだ」
「エン。ミドリカワエン。十九代目絶鬼組組長よ」
「…暴走族みたいな肩書きだな。なあミナ」
「…キョウ、そんなこと言っちゃいけないよ」
ミドリカワエンってどっかで聞いたような…。そう思って彼女を見てみると、ちょうど目があった。
俺は驚いて目を逸らした。
「…あ、思い出した。久しぶりだね。クロマ」
一瞬、間が空いてそして俺も思い出す。あの中学時代と共に。
「…エン先輩。お久しぶりです」
「こんなとこで会うなんてね。奇遇かな」
「そうですね。エン先輩生きてたんですね」
「なにその言い方カチンと来る」
「いや、あの時、先輩死亡フラグを建てるだけ建てて回収し損ねてましたから」
「まあ、運だけはいいからさ」
「悪運だけはの間違いじゃないですか?」
「く〜ろ〜ま〜?」
冗談交じりの問い掛けにジト目が返ってきた。
「ははは」
「クロマ! 隠れろ! なんか来るぞ!」
キョウの声で俺は戦闘態勢に入る。
細い路地の向こう、吸血鬼が数匹飛んで行った。
「あ、あれは…」
キョウが、飛んでいた吸血鬼を見て動揺していた。
「…サチ」
「キョウ!」
キョウは武器を落とし、細い路地を駆けていった。
「おいキョウ待てよ!」
しかしキョウは聞いていない。何故か必死に走っていた。
「サチー!」
路地から出ると、キョウはサチと叫んだ。
飛んでいる一匹の吸血鬼が振り向いた。綺麗な女の吸血鬼だった。
「キョ…キョウ…? 嘘…なんで、なんで生きてるの!? 死んだんじゃあ…無かったの…?」
サチと言う吸血鬼が騒ぎ出してそれに気づいた他の吸血鬼が俺らに気づくまでにそんなに時間はかからなかった。
「「「人間ダァァァァァー!」」」
数十匹と言う吸血鬼の軍隊が押し寄せてくる。
「キョウこれ!」
ミナが蒼櫻を片手に応戦に来た。
「ミナ。ありがとう」
「礼はあと! ちょっと多過ぎだよ…起きて『紅櫻』」
突風が吹くが、そんなものじゃ減らない。
「私も戦う」
「エン先輩?」
エン先輩が路地から出てきていた。
「私だって役に立つから!」
エン先輩は背中に掛けてある刀を上手に抜いて構えた。
紫色の綺麗な刀だ。
「熔かせ『髑髏』」
紫の刀身が揺らめきだした。
「『髑髏』…だと?」
「知ってるのか? キョウ」
「三大武器の一つだ。『神』『天狼』に並ぶ武器だ」
三大武器? 神? 天狼? 何一つ知らない単語だが…。
「なら…期待できるってことか?」
できれば強い性能であるように。そう願いながら先輩の方に目をやった。
「…って、あれ? エン先輩は?」
「『髑髏』の性能は盲目と因子。それと…贖罪」
贖罪…?
「ギ、ギャァァァァァ!」
突如として吸血鬼達が叫び始め、バタバタと倒れていく。
「な、なんだ!?」
不可思議な光景をただ見ているだけの俺だった。そして最後の一匹がなす術もなく死に倒れた。
「ゲホッ! ゲホッゲホッ!」
目の前にいきなり現れたエン先輩はその場に屈んで吐血した。
「先輩!?」
「ゲホッ! ハァハァ…キョウ君だっけ? 行ってあげなよ…ゲホッ!」
みると蹲って手で顔を覆う吸血鬼の姿がそこにあった。
「サチ」
「キョウごめんね…。こっち側に落ちちゃって」
「やられたのか?」
「キョウが居なくなった後、私達は『天狼』を取りに行こうとしたんだ。それさえあればまたキョウに会えると思ったから」
『天狼』? さっきも出てきた単語だが、聞けるような雰囲気でもねえしな…。
「勝手に俺を殺すな」
「そしたら、『天狼』の間に居たんだよ」
「…なにが?」
「アーサーが」
「アーサー…?」
「『聖剣』使い。チート武器だよ…」
『聖剣』使い。その名前は聞いたことがある。
「現時点での人類最強…か」
「そ。だから、みんなやられていった。お前らじゃないって言われて…それで起きたらこの姿に…吸血鬼に…嫌だよね? こんな…こんな彼女じゃ…」
「関係ない! 俺は…サチが生きてさえいればいいんだ」
「キョウ…」
「サチ…っ! なっ…」
よく見ると、キョウは噛まれていた。サチという女の吸血鬼に。
「キョウも落ちよ…。そしたら二人で一緒に…」
「バカ…やろう…。俺が落ちるワケ…落ちれるワケねえだろ」
「え?」
「機を待たずして力に手を染めた犯罪者だから。もう逃げれねえんだよ」
キョウがそう言った瞬間だった。腰にかけた蒼櫻が光り始めた。
「うっ…!」
「がっ!」
蒼櫻は独りでに動き背中からキョウを刺した。それはキョウを貫いてサチと言う吸血鬼にも刺さっていた。
「オートで発動するようにしている。ゲーム感覚だな。鬼になった時に自動で俺を殺すようにしている。なる時はお前にだろうなって思ってたからな」
「…死にたくないよ。キョウ助けて」
「…はっ。何があろうとそこの二人を敵には回したくねえよ。だから一緒に死のうぜ」
「やだよ。死にたくないよ!」
「自分勝手だな。昔っからそうだ。だとするとあの約束も忘れてんだろうな…」
「約束…? あ…あ、ああ…! ごめん…キョウ…私酷いこと言った…。綺麗さっぱり忘れてた…」
「やっぱりな。ぐふっ! ゲホッゲホッ!」
咄嗟に口を押さえた手が鮮血で赤く染まっていた。
「キョウ!」
「ああ。やべえ。もうそろそろだな。意識も薄くなってきた…先に待ってるわ。くそ…強すぎんだろ…この武器……はは…『飴玉が降ってやがる』」
その言葉を残して、キョウは死んで灰になった。
「…うん。そだね。飴玉…降ってるね…! ヒック…キョウ…なんで? なんでキョウが先に死んでん…っ!?」
急にサチの言葉が動作が全てが止まった。
あれ? エン先輩は?
「早くキョウ君のところに行ってあげないと…」
性能を使っていたのかサチを見下ろすような感じで先輩はいた。
「ゲホッ! でもだからって…っ! 貴女あの時の」
「早く送ってあげる」
先輩は心臓を一突きにした瞬間にサチは溶けて灰になった。
「ふうん。これが『蒼櫻』か」
「先輩! 大丈夫ですか?」
「うん。平気。それにしても、刀って変な形よね…」
そう言って、エン先輩は腰にかけていた剣を抜いた。光を反射して銀色に輝いている。
「…ごめんね。二人とも」
唐突に先輩はそう言った。
「え?」
シュン。と音が聞こえ、腹部に痛みが走った。その痛みに耐え切れず俺は静かに目を閉じた。