地下でも勃発『表裏』対「吸血鬼」
「あ、吸血鬼!」
私達が外に出ると、空から数体の吸血鬼が飛んでいた。防御壁が突破されたのだろう。
「…人間」
一匹の吸血鬼が私を見てニヤリと笑った。
「行くよ『紅櫻』」
"さすがに吸血鬼は喰いきれないからな!" 心に直接『紅櫻』が言ってくる。
「分かってるって! よっと!」
スパン! と音もなしに、空気が切れる。
「遅いよ。もうちょっと、力抜いて、リラックスして切らないと、モーションが相手に、特に吸血鬼だとバレバレだよ」
「親切にありがと!」
「いやいや。どうも。つい癖でね。二年前まで聖武器の先生してたから。シドウ先生と一緒に」
驚きだ。先生? そう言えば見たことあるような顔だ。
「っ!」
「集中しないと、倒せないよ?」
「吼えろ! 『紅櫻』」
私の身体的精神的能力の底上げをする。
「紅櫻? 蒼櫻はどこにやったんだい?」
蒼櫻の名前に私の集中はまた途切れる。
「蒼櫻について何か知ってるんですか?」
「うん。僕がいた頃はまだあの部屋にあったけどね。シドウ先生も紅櫻を使える奴が出てくるまで蒼櫻は使わせんよとか言ってたけど」
「俺を呼んだか?」
その声を聞いて、出所を見ると、建物の入り口に立っていた。ミヤノリシドウは。
「シドウ先生…」
「ああ、久しぶりだな。ヒジカタ」
「そうですね。ところで先生、蒼櫻、どうされました?」
「蒼櫻は知らん。盗まれた」
「はあ!? 盗まれた!?」
「警備が手薄になった所を」
「全部機械でしょうが」
「そうだな。なんのあれか知らないけどな。まあ盗まれたんだ」
「ったく、次来るときまでに見つけといてくださいよ?」
「大丈夫だ。お前に次はない。啼け『滅鬼』」
先生が、大剣を地面に突き刺すと、そこから闇が現れた。
「な、なにこれ…」
「『滅鬼』の性能は感知と陰陽」
「ぐっ。さ、さすがシドウ先生…。格の差って不公平だよな…」
ヒジカタと呼ばれた吸血鬼は息絶えた。心臓を闇に抉られて。
「ふん。元『神』使いが何言ってやがる」
『神』? なんだろうそれは。
ブーブー!
私の考えを遮るようにポケットのスマホが振動した。え? 部屋に置いてきたのに。
「クロマ? どしたの?」
「ミナ、地下だ! 地下からも来てる! 増援してくれ!」
「先生! 地下にも居るそうです!」
「分かった。シノリも行かせるから、ミナちゃん、増援に行ってやってくれ」
よし。急がなきゃ、クロマが死んじゃう!
「…クスクス。『表裏』いいね」
「んだよこいつ…」
一匹。たった一匹にクロマは苦戦を強いられていた。
「『表裏』は私の元愛武器。こんなかっこいい人が使ってるとは思ってなかったけど。あ、自己紹介が遅れたね。名前はハバキリ。ハバキリカズネ。よろしくね」
「…俺の先代か?」
「んー、多分。で? 君の名前は?」
「ミヤノリクロマ」
「ミヤノリってことは、シドウ先生の息子さんかな?」
「そうだ。ミヤノリシドウは俺の父親だ」
「へえ。『表裏』のメンテとか欠かしてない? ちゃんと毎日綺麗?」
「ああ。綺麗だ」
「まったく、緊張しすぎだよ。そんなに怖がらなくても良いのに」
「命賭けて戦ってんだから、緊張ぐらいしとかないとな」
「んー、そうだね。なら、ヒント!『表裏』はね、ツンデレなんだよ」
「ツンデレ? ってか、何のヒント?」
「あ…あ、いや、いいよ。多分、時期が違う。そうだよね? なら『表裏』でひっくり返せばいい。全ての生と死を。人と鬼を」
「できねえよ。何度も試した」
「…あっそ。ならいいよ。もう一度握りたかったんだけどね。『表裏』。今握ると嫌われるから。それは怖い」
「さっさと殺ってやるから」
「もう疲れたからさっさと殺って」
無抵抗のカズネに斬りかかる。
カキン! なるはずのない金属同士が鳴る音が聞こえた。
「…死ぬなカズネ」
「なんで? なんでここに…?」
「…カズネが心配だから」
「て、照れるからや、やめ!」
「誰だお前」
「…ユウ・ボルテージ。元『銀箔』使い。そういうお前こそ誰だ?」
「ミヤノリクロマだ」
「…クロマ? シロマの息子か?」
「母さんを知ってるのか!?」
「…それがお前の母さんならな」
「元気にしてるのか?」
「…ああ、元気だな」
「そうか、ありがとう。なら殺すぜ。『表裏』!」
「…ん? なんだ? 足じゃなくて手が動く?」
「どうだ? 手と足の神経の逆転は?」
「ああ、もう慣れたよ」
「早っ!? くそっ! 喰らえ!」
ユウに斬りかかる。
「…遅え」
「は?」
綺麗に止められた。んで動くんだよ…。
「…終わりか?」
「まだ終わりじゃない!」
乱舞。その言葉が正しいくらいに適当に振り回した。
「あ…痛っ…。あー、足が動いた。下手に嘘なんざつくんじゃねえな」
肩に入った。
「そのまま、死ね」
ぐしゃり。心臓まで真っ二つに斬った。
「ユウもやられちゃった。あ、クロマ君それ貸して。どうせなら、それと話して死にたい。大丈夫でしょ? 聖武器は人に対して殺傷力は無いんだし」
俺は少し躊躇ったが、渡しても大丈夫だと思い渡した。
「痛っ…。『表裏』ただいま。一つだけお願い聞いて。人と鬼を入れ替えて。私のだけ。できる? うん。そっか。なら、私を入れて? できたよね」
そう言ってカズネは、自分の心臓に『表裏』を突き刺した。
「ごめんねユウ。守ってくれたのに自殺なんて。ありがとクロマ君。今後もよろしくね」
「は?」
カズネは消えたと思ったらそのまま、光になって『表裏』の表の方に消えていった。
「よろしくって…?」
"そのまんまの意味だよ? クロマ君。"
「うわっ! カズネ? どっから」
"どこって…『表裏』からかな。"
「あ。今後もってそういうことかよ」
"吸血鬼なんてなりたくなかったし、基本的に聖武器は吸血鬼を殺すんだから、最後に死ぬのは人間としての私。だから、魂だけでも一緒に連れてって?"
「ああ。でも色々教えてくれよ? 『表裏』の事とかさ」
"うん。分かった。じゃあね。寝る。"
「あ、ああ。おやすみ?」
「クロマー!」
「あ、ミナ」
「大丈夫!?」
「ああ、大丈夫だ」
「良かった…。まだ吸血鬼いるの?」
「地下から湧いてきてるんだ。それを止めに行こう」
「うん!」
俺たちはいつの間にか作られていた地下坑道に進んでいった。