支配された世界 抗う人間達
「ふぁー!」
午前の部はよく寝て、そして昼飯前に起きる事が俺の日課になっていた。
俺はミヤノリクロマ。大学二年生。大学と言っても、戦闘専門の大学。そんじょそこらの大学じゃない。
剣、刀、槍などの近距離武器はもちろんのこと、弓やボウガン、拳銃などの遠距離も習うことができる。
俺が習っているのは、対吸血鬼用の聖武器。なんでも天使が作り出したとかなんとかで、選ばれた人しか使えないらしい。
今出て来たが、吸血鬼。血の味を覚えた鬼だと言われているが、そんなのデタラメでしかない。俺の弟は吸血鬼だし、母さんだって吸血鬼だ。だから二人の顔は随分見ていない。
人を襲い、血を喰らった吸血鬼の気分次第で、吸血鬼になったりならなかったり。
十年も前の話。一匹の吸血鬼がこの人間社会に舞い降りた。その吸血鬼から、ねずみ算でもするように爆発的に吸血鬼は増えたとされている。今じゃもう人間の方が少ない。
「はあ…」
ため息が出てしまった。やれやれって感じがする。
「腹減ったな…」
父さんが作った弁当を食べようとバッグに手を伸ばす。……あれ?
「はあ……」
バッグは誰かに盗られていた。
そこから俺は席を立ち、ある女子の席の前で止まり「返せよ。俺のバッグ」と言った。
「ふふふ。ばれちゃったかあ…」
こいつはアイノセミナ。
愛のセミナーではない。アイノセ、ミナだ。
「いいから返せよ」
「私の紹介が足りない!」
「だりい…」
「なんか言ったー?」
「いえ何も」
ミナは俺の幼馴染で、現在、選択武器は未定。なぜ未定かと言うと、少し前まで剣だったのだが、なんと、対吸血鬼用の聖武器に申請を出して、そっちの授業を受けるという事。
「にしても、よく受かったな」
聖武器の授業を受けるには筆記テストと実技をクリアしないといけない。しかもS〜Cの評価まで下される。
「えへへ。天才だからね!」
「俺には勝ってないだろ?」
ヒラヒラと筆記と実技のところにSがついている紙をポケットから出してミナの目の前で揺らした。
「うっ、うるさい! 私だって筆記はSだったの!」
「実技は?」
「A取ってる!」
なんと。これは驚きだ。俺の幼馴染は結構いい成績を修めていた。
「すげえな。ま、お前なりには頑張ったんじゃねえの?」
「で、でしょ!? もっと褒めて?」
「褒めてやるから、俺のバッグを返せ」
それがないと、午後からの聖武器の演習で死んでしまう。
「ほ、ほんと!? はい!返す!」
「おう。んならこれで…」
「私を褒めるって約束!」
すぐに立ち去らせてはくれなかった。
この辺りは女子が多いから、あんまり食いたくねえ。
そんな感じの事を思っていると
「なら、クロマの席で褒めてよ?」
と返した。さすがは俺の幼馴染。分かってくれている。
俺とミナは、席へと急いだ。
「よし、食べるか」
弁当箱を開ける。そこには黄金に輝く食材たちが居た。いやまあ比喩だけど。
「いつ食べても、クロマのお父さんは料理が上手だよね」
「ああ、そうだな。っておい! なに人の弁当食ってんだ」
俺の飯が三分の一ぐらい食べられていた。
「ダメだった?」
ミナの唇にはマヨネーズが付いていて、なんて言うか、可愛らしかった。
「いや、ダメじゃねえけど…」
「けど? けどなにかな?」
前言撤回。こいつ可愛くねえ。
「だからな、一言いってから食えっての」
「あ、うん。なら、食べるね?」
「まだ食うのかよ!」
「あ、クロマの弁当、無くなっちゃった…」
「もう、食ったのかよ…」
どうやら、俺のツッコミが炸裂しているのを傍目に弁当を食い続けたらしい。
「昼から聖武器の演習なのによ…」
「いいなあ…早く私もやってみたいなあ…」
天井を見上げながらそう言うミナ。
「あれ? 今日からだろ?」
「え? そなの?」
本当に知らない感じだった。
「通知いつ来た?」
「通知?」
「その紙」
「あ、これ? これは昨日来たよ」
「んじゃあ、今日からだな」
「昼からだよね?」
「ああ、基本的には昼からある」
「先生ってどんな人?」
「ミナの知ってる人だな」
「本当?」
「ああ。知ってる人だ」
「へえ…」
ミナは考え込むような仕草をしながら、俺の弁当箱を直してくれていた。
「ミナ、食堂行って飯食ってから、聖武器のほうに行こうぜ」
「あ、クロマお昼食べてないんだったね」
「どっかの誰かさんのせいでな」
「ふうーん」
自分じゃないな。とでも言いたげなその顔は、なぜか、とても、無性に、腹が立つものだった。
しかし、そんな事思っても意味が無いのは重々承知の上だ。だから、俺は立ち上がった。
「行くぞミナ」
「はあーい」
いかにも気怠いです! って感じを醸し出しながらミナは応えた。