オンボロ刀のメガネ女-【仮】
――山風と沢の水の心地よさを肌に感じながら、
メガネをかけた女は刀を素振りする。
何度と無く振り、留められるその刀は綺麗と言うには余りにも古びていて、
刀身も荒れて錆も出ているくらいの消耗具合だ。
刀とは違い、女の眼はとても鋭く磨がれているかのようで。
素振りをし続け、女の肌や服に汗が強く滲んだ頃、
女は動く事をやめて息をついた。
女は自身の姿が汗だくになっている事に気づくと、
メガネを外し、白いシャツと短パンを大胆にもその場で脱いで、
汗にまみれた素肌のまま、
沢の中へと歩を進めて水浴びを始める。
沢の水はとても冷たく、女の疲れをじわじわと癒していく。
心地が良いのだろうその沢の水はとても澄んでいて、
女が動く度にゆるりと肌を水が撫で、なめらかに波紋を作り出す。
細枝や綺麗で濃い緑色をした葉達がさわさわと風に揺らされて音を奏でる。
水の流れに身を預けながら女は自身に問う。
風に揺れる葉を支える大木達のように、
強くそして根太く成長するにはどうすればいいのかと。
自身の胸に問うたところで、返って来るのは風の吹く音や緑葉の揺れる音、
水のこんこんと流れる音だけ。
女は瞼を閉じて、
胸の中で小さく考えを締め切った。
(今はこのままでもいいのかもしれない)
そう胸の中に零した女の心の内はいつにも増してとても穏やかなモノだった。
その後、長いあいだ沢の水に浸かっていた女が、
大きなくしゃみをしながら山を降りて来た出来事が、
村の小さな笑いの種となるのは、
もう少し後の話。
【おわり】