8話
「ほれ! 何を休んでいるんだい、早く魔力を込めるんだよ!」
「ヒィィィ!」
鋭い音と共に振り下ろされた鞭は尻餅をついている俺のすぐ側の地面に叩きつけられる。
反射的に魔力を足に送り込んで立ち上がった。
「ほら、早く避けないと当たっちゃうよ?」
「いやぁァァァァァァ! お慈悲を、お慈悲を!」
しかし、そんな俺に対し、目の前の鬼は無慈悲にも鞭を振り下ろすのであった。
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「今日はこの辺でお終いにしようかね」
目の前で廃人と化している俺を見て、そう口にしたのは背中まである金髪を首辺りで縛っている高齢の女性だ。
名前はアリアネ。エプロン姿が妙に似合うお婆様だ。
「ば、ばっちゃん。動けないッス」
「まったく、情けないね〜。それでも男かい?」
「それでもまだ5歳児です。もっといたわりを……」
「年寄りにいたわりを求めんじゃないよ!」
と、言いつつも地べたに仰向けで倒れている俺を抱き上げて、近くにあった車椅子に乗せると押して家の中に入るのだった。
「どうだい? その足を使ってみた感想は」
俺の目の前にホットミルクが入ったコップを置き、自分の分のホットミルクを飲みながら隣に座るアリアネ。
一口、ホットミルクを飲む。
「んー、まだ全然扱いきれないや。魔力の効率も悪いし……でも、魔力を注ぎ込んだ時はびっくりするぐらい一体感があるから驚いちゃった」
自分の足に視線を落とす。
太腿から伸びる、鋼色の義足。
そう、さっきの虐待はこの義足を自在に操れるようにするための訓練であったのだ。
あ、ちなみにショートパンツなのはただ単に動きやすいからである。
「最初はそんなもんさ。でも、初めてであれだけ動けたんだから大したものだよ」
ぐしぐしと俺の頭を撫でながら優しく微笑みかけてくる。
「いいえ、この義足の性能が良かったからですよ」
ずず……とミルクを口に運ぶ。
……もう少し甘いほうがいいかも。
「当たり前でしょ! なんたってこのあたしが2日もかけて魔晶結石を加工したんだから。しかも、自分でも信じられないくらいの一品に仕上がっちゃったしね!」
そう、2日。俺が最初に目が覚めてから2日経ったのだ。
ちなみに、その2日の間に俺の目標であった血によるジャグリングを見事に成功させることができたのだ。
しかしまだ、気を抜くとすぐに形が崩れてしまうので次の目標は自然体で血を思いのままに操ることだ。 手を使わずに3つぐらいの血の球体でジャグリングしてみせるさ!
それもうジャグリングじゃなくね? ってツッコミはしないでね。
あと魔晶結石についてだが、この物質は純粋な魔力の塊であるみたいなんだ。それも魔力を通しやすく、術式を組み込むことによって様々なモノに応用できることから一般的に使用されているみたいなんだ。キッチンに必要なコンロの火や部屋を明るくする蛍光灯などがいい例だろう。
さらに、魔晶結石には種類が複数存在するらしく、この義足と車椅子に使用されてるのは魔晶結石の中でもかなり? 稀少なモノである成長型という、使用者の魔力に反応してその使用者に最適なサイズに自動で調整してくれる奴らしい。
まぁ、その辺はよくわからん。
「よし、じゃあそろそろ夕飯の用意でもするかね」
残りのミルクを一気に飲み干してアリアネは椅子から立ち上がる。
「じゃあ、俺も……」
なにか手伝おうと思い、車椅子を動かそうとするが、すぐにアリアネに止められる。
「あんたはさっき魔力がすっからかんになるまで体を使ったんだから今日は休んどきな」
まだ魔力が回復してないのか、だるみを感じるので、お言葉に甘えて休むことにした。
あ、ちなみに夕飯はペペロンチーノでした。
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「……ついにこの時がやってきた」
雪が降り積もる森の中。その森の深くのとこにある洞窟の入口に、薄汚れたローブを羽織ったひとりの老人が立たずんでいた。
フードからは白い髭が見えていることから男性であろう。オジーチャン!
「長かった……あぁ、長かったぞ!」
高まる興奮のせいなのか、老人は声を張り上げる。
「いかんいかん。まだ完璧に準備が終わってないのだ……焦ってしまうのは失敗に繋がるからのう、落ち着かんと」
なんとか感情を抑えようとするも、ついつい口元がニヤけてしまう。
それほどまでに老人はこの時を待っていたのだ。
「さあ、待っておれよ……イヌガミ!」
高笑いを上げながら、老人は洞窟の中に消えていくのだった。
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