39話
途中から視点が変更します。
青い空に白い雲。決闘するのにはもってこいのバトル日和だ。
……いやまぁ、その景色はモニター越しから見えるものなんですけどね。
俺は今、トイレの前にいる。それも女子トイレの前だ。
ソラの試合が始まる直前にマリルがトイレに行きたいと申してきまして……。本当ならひとりで行ってこいと言うところであるが、今の俺はマリルの護衛という名の子守りを任されている。
無闇にひとりにするわけにも行かない、なにかあって責任を問われるのは俺なのだから。
まぁ、幸いにもトイレの前からでも廊下に取り付けられているモニターが見えている事が救いであった。
モニターを見る限り、今から試合が始まるみたいだ。
『リプルぅぅ……リプルぅぅっぅぅ』
試合開始を待っているとマリルから念思が飛んできた。声を聴いて泣いていることはすぐに理解できた。
俺は義足に魔力を込めると車椅子から降りて女子トイレに向かう。とそれと同時に試合開始のブザー音が聞こえてきた。
足が止まりそうになったのを我慢し、なんとか女子トイレに入ることに成功した。
マリルの入っているトイレはすぐにわかった。ひとつだけ扉が閉ざされていたのだ。
その扉と床との間の小さな隙間からなにやら水のようなものが漏れているのがわかった。
「マリルどうした? なにかあったのか?」
扉の前まで移動するも俺はその液体の正体を確認せず、できるだけ声を落ち着かせてマリルに問う。
内心はハラハラである。
『助けてぇぇリプルぅぅぅぅぅぅ』
扉は鍵が掛けられていて開けられない。
俺は矢も得ず、個室を上から覗くことにした。
「マリル、大丈b───」
俺は絶句した。俺の目の前に広がる光景はあまりにも……それはあまりにも────マヌケすぎたからだ。
「……なにしてんだよ」
『うぇ~ん助けてよリプルぅぅ』
すっぽりと便器にお尻を飲まれながら両足をバタつかせるマリルの姿が。
しかし、残念な事にバタつかせている足は、足首にまで降ろされた下着のせいで満足に動かせていない状態だ。
「わかった、今助けるから足を動かさない。パンツが伸びるだろ」
俺はひとつため息をついて個室に進入した。
ぴちゃっ……
着地と同時に足下から響いた水の音。その音に釣られて足下に目を落とした。
床に広がる水溜まり。言うほど溜まってはいないけど。
そしてその水は扉下を超えて広がっていた。
「……ひとまず、パンツ脱がすね」
パンツに手を伸ばして、脱がしにかかる。
薄々は気付いていたがこの下着、少し湿っぽい。
脱がした後、速やかに物理術式を展開し箱状のものを空中に形成して下着をそこに放り込む。
傍から見れば、魔法老女セクシー☆ウィップちゃんの顔がバックプリントされたパンツが宙に浮いているように見えるだろう。
「ほら、引張ってやるから手出して」
『や、やだぁ……こわいよ』
今、マリルはこれ以上落ちまいと必死に便座に両手をついて体を支えている状態なのだ。
片手だけでもと説得を試みるが、片手を外すだけでも怖いみたいだ。
……お姉ちゃんの威厳がないな、こりゃ。
とは口にすることはせず、内に秘めておくことにする。
「はぁ、仕方ない……」
ため息を吐きながら、俺は2度目の物理術式を展開する。
イメージするのは平面の四角形。展開後、人差し指の指先を下から上へ軽く振るう。
『おぅ!?』
黒ひげ危機……とまではいかないものの、驚きの声を上げながらマリルが便座から跳ねた。
四角の面を上に延ばして、四角柱を作り、マリルを持ち上げたのだ。
「とりあえず、拭きなさい」
2、3回巻いて取ったトイレットペーパーをマリルに渡す。
『ありがと、リプル!』
トイレットペーパーを受け取り、スカートを捲って股を拭いた。
……目の前に男がいるのだから恥じらいというものを持って欲しいと思うが、6歳だから仕方ないか。
「換えのパンツは……無いよな」
どうするか、ぶっちゃけ漏らしたのコイツだし、このまま同じヤツでも履かせるか。
などと思っていると
『あるよ』
拭き終わったトイレットペーパーを便器に落として水を流し、そう言い残すと、個室の鍵を開けて出て行ってしまった。
追うべきなのだが、マリルが撒き散らしたままのここをこのままにしておくわけにもいかず、トイレットペーパーを巻き取って掃除を始める。
『ほら見てリプル!』
数秒後、マリルが戻ってきた……タマの顔がバックプリントされたパンツを見せびらかしながら。
ちなみにタマとは、セクシー☆ウィップちゃんに出てくる三毛猫の名前である。
まぁ、そんな事はどうでもいい。それよりもだ
「それどこから持ってきた」
『ん? リプルの車いすについてるポケットから!』
「……ごめん、入れた覚えがないんだけど?」
掃除している手を止めることなく返答する。
俺が変態でロリパンツを盗んだ訳でもなく、こんな事もあろうかと気を利かせて備えていたわけでもない。……そんな事だったらそもそもマリルが自主的に持ってこれる訳がない。
まぁ、後者なら一言伝えておけば持ってくるだろうが……。
『ふっふっふ~。実はね、リプルにもセクシー☆ウィップちゃんを好きになってもらおうと思ってね、ポケットに隠しておいたんだ~。どお? 大好きになった?』
「……あぁ、好きになりそうだよ」
本来ならば「そんなことあるか」とハリセンの一発や二発叩き込むところだが、こうしてパンツについて悩む必要が無くなったことには感謝せねば。
「もう漏らさないでね」
『大丈夫! あと2つポケットに入ってるから!』
こいつ……まぁ、今回はこのおかげで助かったってのがあるし見逃してやろう。
もしかしたら同じような事があるかもしれないし……無いほうがいいけどね。
「まぁいいや。……よし、掃除も終わったし戻ろうか」
『うん、早くもどろ~!』
右手に拳を作って高らかに上げるマリル。
掃除に使ったトイレットペーパーを洗面器の隣にあるゴミ箱に捨てて、きちんと手を洗ってからトイレを出る。
車椅子に腰を下ろしながら廊下に備えられたモニターに目を移す。
「……あれ、もしかして一人減ってる? っうわ」
『いっきまーす!』
試合状況を確認しようとした瞬間、マリルが車椅子をいきなり押して走り出した。
はぁ……後でお説教しなきゃ。
☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆
~sideソラ~
みなさんこんにちわ、ソラです。
これから試合を始めます。
………………申し訳ありません、まだでした。
どうやらピエールが何かを話してるみたいです。
終わるまで対戦相手を見てみましょう。
まずあの両手がとても大きな子です。名前はナクトとピエールが言っていました。。
とても強そうです。
次はフードで顔を隠している子です。名前はルタウルとピエールが言っていました。
とても強そうです。まずはあの子からやりましょう。
……。
……。
……。
今日はとても晴れてます。
‘ ヴー! ’
あ、ブザーが鳴りました。試合開始です。
では早速、距離を詰めて蹴って場外に出しましょう。
両手が大きい子はなにやら両手を高らかに上げてますが、まだ害はなさそうなので後回しです。
足に力を込めて、一直線にルタウルに近づく。
? なにやら足下から何か来てますね……避けます。
危険を察し、地面を蹴りベクトルを無理やり変えて横に回避する。
その刹那、私が蹴った事で抉れた床から土煙が舞った。
まだ来る。
避ける度に、次々と土煙が上がる。
……これは極限にまで細く展開された複数の物理術式を一つに束ねたもの。まるで糸ですね、とても器用です。
己を襲う、不可視の攻撃の正体を冷静に分析する。
ちらりと、攻撃の主を視界に捉える。
腕を組んで私と、一切動きを見せないナクトを交互に見るルタウル。
……ふむ、自分を中心に半球状にこの糸を編み込んでますね。面倒です、後回しにしましょうか。
そう判断するとすぐにルタウルから目を離し、ナクトを捉える。
一切動かない事に疑問を抱くものの、それだけである。
糸から軸をずらし、こちらに迫る前に足を踏み込んで距離を離すと同時にナクトに近づく。
しかし
「ウゥゥ……ウオアアアアアアアアア!!」
ナクトは獣のような咆哮とともに、なにかを引き千切るかのように両腕を大きく広げた。
「……【強化】」
なるほど、あの糸に縛られていたのですか。それにさり気なく強化を使った事ですしここは素直に離れた方がいいですね。
仕方なく、両方から距離を取ることを決めたのですが……どうやらナクトは逃がしてはくれないみたいです。
腕を降ろし、私を見ると……案の定、迫ってきました。
「フッ」
左の拳を振るってきました。とても速いです。でも避けます。
振るわれた拳は私を捉えることなく空を切る……が、すぐさま次の攻撃へと繋げた。
今度は右によるストレート。軸は合ってますが、避けられます。……が、避けません。これを利用して距離を取りましょう。
ナクトの攻撃にあわせて私は左ストレートで迎え打つ。
拳と拳が合わさり、その反動で互いに少しだけ吹き飛んだ。
距離は取れたものの、次は不可視の糸が間も空けずに畳み掛けて来る。
この一部分を切り取れば連携プレーに見えなくもないが、残念な事にこの糸が襲ったのは私だけではなくナクトも襲ったのだ。
「クッ」
襲われた事が癪に触ったのか、ナクトは私から視線を外してルタウルの方に向いた。
そして、ナクトは腰を落として両腕を引きながらその両腕を変形させる。現れたのは噴射口。
ナクトは再度、拳を握り直すと噴射口から炎を噴き出した。
「っらああああああ!」
右の拳を突き出し、糸で編み込まれたバリアに殴り込んだ。
弾力性のある糸は、そのしなやかさを活かして、ナクトからの衝撃を分散していく。
「ああああああああ!」
その小さな体から発せられているとは思えないほどの雄叫びを上げ、それに応えるようにして噴出される炎は更に大きくなっていく。
流石にあせり出したのか、腕を組んで静観していたルタウルは床に手をついて何重にも糸を編み込んでバリアを展開する。
「だからどうしたああああ!」
炎が強くなり、一つ目のバリアを突き破る。
「そんなものでえええええ!」
更に炎が強くなり、二つ目、三つ目と次々破っていく。
「わたしを止められるとおおおおおおお!」
最後の、バリアが壊される。
「思うなああああああああああ!」
勢いに乗ったその一撃は迷う事なく、ルタウルを捉えて……突き砕いた。
耳を塞ぎたくなるほどの轟音、大気を震わすほどの衝撃。
その爆心地から何かが吹き飛んできたのでキャッチする。
それは白くて細い、女性の腕。
紛うこと無きルタウルの腕である。
視線を腕から正面に向ける。
場外で右腕と両足、それに腹部にポッカリと穴を開けながら頭を垂れてるルタウルを見つける。
やりました。ルタウルを場外に出すことに成功です。
『壊すなよ、術式も使うなよ、戦闘形態には絶対に移行しちゃダメだ』
脳裏に、マスターの言葉が響く。
「申し訳ありません、マスター」
キャッチしたルタウルの腕を場外に投げ捨てる。
「約束、守れないかもしれません」
右手首を上下させて薬莢を噴出させているナクトを見据えた。
【強化】
魔術式に属する術式。武術式の身体術式に似ており、使用者の身体能力を上げる。
魔術式の7属性のいずれかに適正を持っていれば使用できる。
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