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3話

4ヶ月たち、俺は無事3歳になった。

この世界では誕生日は特にこれといったお祝いごとをしないっぽい。現に俺は祝ってもらってないわけで…ちょっと寂しいかな。…なんてね。

そんなことより、シエルのお腹がさらに大きくなっていた。赤ちゃん1人にしては有り得ない大きさだ。

両親は「どんな子が産まれるんだろうか。」や「大きな赤ちゃんだね。」などとしあわせオーラを醸し出しながら話していた。

ここ最近、シエルのお腹をずっと見ていたが…やっぱり、1人にしては以上な大きさだ。

俺は前世で一度だけ見たことある。

間違いなく、シエルは…双子を身篭っている。



それから数日後、シエルが苦しみ出した。ついに陣痛が来たのだ。

かなりの痛みらしく、人の姿を維持できずに獣人に戻ってしまった。…キタ━━━(゚∀゚)━━━!!!!

幸いにも食事の時だったのですぐにベッドに連れて行った。もちろん、グレイズがだ。

その間に俺は水を温め、桶に移してからタオルを集め持っていく。

ちょうど部屋に行くとシエルが破水していた。

俺はすぐにシエルの股に潜り込んで赤ちゃんの手助けをする。…オフッ…おっと、失礼。

一応、出産の経験はある。いや、別に俺が出産したわけではなく、その手伝いをした事があるってだけだ。

グレイズに目を向けるが、手をしっかりと握り締め、食いしばるシエルに声がけをしていた。

…まさか、息子にやらせる気なのかな?まだ3歳の幼児に!…まぁ、いいか。

とか思いながらも無事、1人目は産まれた。半獣人化した女の子だ。ふむ、半獣人か…いやいやいや、今はそんなことより大きな声で元気良く泣いてくれた事を喜ぼうではないか。

この調子で2人目も…と思ったが、そう世の中うまくいかないもんでね、なんと逆子だったのだ。

それに、シエルがまだ痛がってる様子を見てグレイズは困惑しているようだ。

…えぇい!もっと早く言えばよかった!

俺は2人に赤ちゃんがもう1人いる事を伝えた。

グレイズは驚いていたが、シエルは薄々と気づいていたっぽく、すぐに理解してくれた。

だが赤ちゃんは逆子だ。普通に産むとなるとかなり難しい。

それに逆子の経験なんて俺にはない。

ならどうする…帝王切開だ。

俺はグレイズに使える術式を聞いた。

グレイズは何故?と聞き返してきたがそれを黙らせ吐かさせた。

グレイズは火系と物理系だけだった。使えない。

なら俺1人でやるしかない。

そう確信し、断りもなく精神系でシエルに眠ってもらう。ついでに感覚も麻痺させる。

それら台所から包丁を持ちだし、物理系でコーティングしシエルの腹に突き立てる。


「何してんだリプル!」


グレイズが邪魔に入るのは当然だ。いきなり母親を眠らせたかと思うと刃物を突き立てたのだから。


「いまからおなかをきってあかちゃんをとりだします。」


舌っ足らずな言葉でグレイズに言う。もちろん止めに入ってきた。


「さかごなんだ!このままじゃ、あかちゃんも危ないんだ、じゃますんな!」


そう怒鳴り、腹を裂いた。

切り目を物理系で塞ぎ、出血を止める。そして赤ちゃんを取り出した。

しかし、泣いてくれない。血の気が引くのが分かった。俺はできる限りの処置をした。

そのおかげか、赤ちゃんは無事泣いてくれた。男の子だ。

俺はひと息つく前に、腹を開きっぱなしのシエルに身体系の術式で細胞をかっせいかさせ、切り口を塞いでいった。そして、精神系を解いて終わり。

…やっと終わった。

アクシデントはあったものの、無事、双子の出産を終えることができた。


次の日、俺は後悔した。

帝王切開をするとき、シエルに許可もなく勝手に精神系をかけたのと腹を裂いた事を。

それに、きちんと相談していればグレイズが困惑することもなかったんだ。

そうだ…謝ろう、2人に。

俺はすぐにシエルが安静にしている部屋を訪ねる。都合のいいことに、グレイズも一緒にいたのだ。


「おはよぉ、かぁさん、とぉさん。」


まずは挨拶からだ。大切だからね、挨拶。

どうやら赤ちゃんをあやしていたらしく、俺の存在に気付くと「おはよう、リプル。」と返事をしてくれた。

…よし、謝らろう。俺は2人に近づいて頭を下げた。


「きのうはごめんなさい。かってにねむらせたり、おおきなこえをだしてしまって…。」


「…リプル、謝らないで。グレイズから聞いたわ、逆子だったんですってね。…今、この子がこうして私の腕の中で生きているのは紛れもないあなたのおかげなのよ。ありがとう、リプル。」


「最初はさ、驚いたんだよ。いきなりリプルが精神系の術式を使った事を。しかもそれでシエルを眠らせたかと思うと次は刃物を持って来るんだからついつい怒鳴っちまった。さらには物理系を包丁にかけて腹を裂き、中から赤ちゃんを取り出して、シエルのお腹を身体系の術式で塞いじまうんだから…。お前には恐れ入った。その歳で武術式を完璧に使いこなしているんだからな。俺からも謝らせてくれ、怒鳴ってすまなかった…そしてありがとう。」


ばっ!と頭を上げて2人に目を向ける。

微笑むシエルとグレイズの顔にキツネ耳をぴょこぴょこさせながら俺を見る妹と弟。

目もとが熱くなるのを感じた。…こう、ジーンと目の奥が響くような感覚が襲ってきた。

そして、頬を伝って何かが流れていった。


「じ、じゃ!ようじはそれだけだから!」


俺はすぐに振り返り、目もとを裾で拭うと部屋をかけ出てしまった。


朝食のときに妹と弟の名前を教えてもらった。

妹の名前はティア。父親譲りの赤い髪の女の子。

弟の名前はレイディン。母親似の金髪の男の子だ。




それからの1年は大変だった。まず、問題があったのは両親だ。特にグレイズ。

シエルは母性本能か何かが働いたのだろう、なんとかこなせていたが、グレイズは全くもって何もできない。おしめの交換すらもだ。

それに、大変と言えばやはり子育て。

朝昼晩お構いなしにピーピーと泣き、いつでもどこでも、なんとなく泣きたくなれば泣く。

おかげでグレイズは1ヶ月と持たずにリタイア。シエルはなんとか途中までは持ったものの、白旗。

結局、俺が…3歳児の俺が2人の世話をするハメになった。

…あれ?なんかおかしくね?まぁ、一応、育児の経験があったので特に戸惑う事はなかったが…やはり、この体じゃ不自由を感じてしまった。


そんなことを思いながら過ごしていたらいつの間にか俺は明日で5歳ってとこまで来てしまった。

すごく今更だが、ここら辺はあまり気候の変化が1年を通してあまり見られない。

四季を味わえる日本に住んでいたせいで変化がないのはつまらないが、この過ごしやすい環境が1年中変わらないというのは育児をしていた俺にとってとてもありがたかった。

それよりも、びっくりしたのが妹と弟の成長の早さだ。

まだ、1歳と7、8ヶ月位だというのにもう二足歩行をしており、簡単な言葉を話せるようになった。

普通ならおすわりが出来る様になり、早い子ならハイハイが出来る様になる時期だというのに…獣人の血が混じってるからか?

でも、俺のときは普通の早さで成長していったし…俺は人の血の方が濃いのかも。


それにしても、面白いのが妹と弟の性格の違いだ。

妹のティアは一言でいうとじゃじゃ馬だ。とにかくやんちゃでとてもではないが両親の手には負えないようで俺が今でも世話をしている。

ハイハイを覚えた時なんて、ちょっと目を離した隙に消え、外に出てみると、ティアが屋根の上で手を叩きながら「きゃっきゃきゃっきゃ」喜んでいた。そしてころんと前転をして…落ちた。幸いにもグレイズが下にいてキャッチしてくれたので良かったが…。

弟のレイディンはとにかく大人しい。本当に大人しい。おそらく、腹の中でティアにやんちゃな部分を取られたので仕方なく、ティアから大人しい部分を譲り受けたのだろう。

この子は大人しいのでシエルでも世話をすることができた。

それせいなのか、ティアはお兄ちゃんっ子でレイディンがお母さんっ子になってしまった。

グレイズは…まぁ、レイディンに好かれている。…うん。


そんなことより、最近育児にも余裕が出来てきたので読書を再開しだした。

今読んでいるのは、【七剣聖記】。

これは、火、水、風、地、天、光、闇の術式がそれぞれ刻まれた七振りの剣を持つ者、剣聖が力を合わせて、破壊の象徴である魔剣を封印する話しだ。

今はちょうど、光と火と風と剣聖が地の剣聖を仲間にしたところだ。


「にー!にー!」


さぁ、次は誰が仲間になるのかな?と、ワクワクしながらページをめくろうとしたとき、部屋にじゃじゃティアが現れた。

ティアは俺の腹部に顔をうずめてきた。遊んでほしい時はいつもこんな事をしてくる。続きが気になるが、こいつは放っておくと何をしでかすか分からない。

仕方なく本を閉じて遊ぶことにしたのだった。

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