37話
モニターの左上に表示されている時間を見る。
10時11分。
『いや~外の屋台に行ったら思ったよりも人が多くてね、困っちゃったよ。ま、予定通りに行くなんてつまらないからね。今年はハプニングでも起きるかな? ここ最近は何も起きないからピエール、とても退屈さ。と、言う訳で今年の選手には期待してるよ? 期待ハズレだったら炭酸投げるから。ピエールは炭酸飲料が嫌いでね……あ、でもビンラムネは好きだよ! あの子だけは特別さぁ!』
モニター越しに遅刻したピエールが何故か自分の好みを語り出した。
しばらくラムネについて熱弁した後、満足したのか脱線した話を元のレーンに戻す。
『さて、時間が押してるし早速始めちゃおうか! ルーレット、スタート!』
ピエールが指を鳴らすと同時にモニターが切り替わり、3桁の数字がスロットのように数字が素早く入れ替わり始めた。
ルーレットとはなんだったのか。
そしてモニターから謎の効果音が発せられると共に次々と数字が並んでいく。
『ふむふむ~。502番、86番、145番、161番、200番、379番、304番、504番、163番、28番のお方~出ておいでぇ!』
モニターは変わっておらず、選手の数字が並んでいる。
ソラの首から吊り下げているネームプレートの裏を見てみる。
097。
うん、違うね。
『ソラは? ソラはでるの!?』
「いや、ソラはまだ出ないな」
「ところでソラは何番なのだ?」
マリルの質問に答えていると、ついさっきやって来たロトが声をかけてくる。
「ソラは97番です。まぁ、ランダムなのでいつになるかわかりませんけどね」
「そうか……しかしそれにしてもよく出る事にしたな。あんなにも出ることを拒んでいたのに」
「えぇ、実はソラが出たいと言いまして……。最初はダメって言ったんですがね」
押し負けました。と付け加える。
とは言いつつも、ソラが初めてわがまま? を言ったのが嬉しかったりします。
俺の言葉を聞いたロトは口に手を軽く当てて何かを考える素振りを見せる。
「……確かソラ殿は第三世代ドールロイドだったはず」
「えぇ、それがどうかしました?」
「実はドールロイドがマスターに反抗するどころか、自分の意見を述べるのは第四世代からなんだ」
「なんと。実は第四世代だった……?」
ま、ソラはイヌガミサマだし、絶対無いけどね。
「まぁ、今更世代など気にしても仕方あるまい。リプル、失礼なことを聞くがソラ殿は闘えるのか? いや普段のふわふわしているようなボーっとしているようなイメージが強くてだな、戦闘をする場面が思い浮かばないのだ」
言われてみればそうかもしれない。
俺はソラと戦ったことあるし、ソラがランクSのジャックと戦っているのも見たことがある……と言うかあれを戦闘と言っていいのか迷ってしまうが、まぁいいだろう。
ソラが戦っているとこを見た人はそんないない。
しかも普段は俺の車椅子を押してもらってるってのもあるので、戦闘できるのか疑問になってしまうのも仕方がないかもしれない。
「そうですね、ソラは」
かなり強いですよ。と言おうとした瞬間、ブザー音が響いた。
『試合終了! 最初の試合を収めたのは304番! いや~いい出だしだね。さぁ、この波に乗って次行ってみようか! ルーレット、スタート!』
どうやら話しているうちに終わってしまったみたいだ。
さて、次の試合は誰かな?
モニターの数字を見ていると。
『さぁて、次は誰かな? 11番、506番、381番、191番、97番、44番、180番、402番、93番、499番だね。さささ、遠慮せずに上がってきなー!』
あちゃ~、来ちゃったか。思ったよりも早く選ばれてしまったな。
「ソラ、わかってるとは思うが」
ソラの裾を引っ張り、小声でソラに声をかける。
「はいマスター、大丈夫です。戦闘形態には移行せず、できるだけ相手は場外に出すようにします」
「よし、わかってるなら安心だ。いってこーい!」
トンとソラの背中を軽く押してやり、控室から出て行くソラを見送る。
モニターの方に視線を移し、ソラの様子を確認する。
ソラを含めた10名はフィールドを広々と使って円を描くように並んで互いに距離を取っている。
さて、どうなるか……。
この試合結果によっては今後のソラに規制をかけることになるかもしれないので見逃すわけには行かない。
「……ところでさっきの続きなのだが」
「あぁ、さっきのやつですね? 普段はあんなですけどソラはかなり強いですよ」
『楽しみにしてるよ? それでは、試合開始!』
ピエールの掛け声とともに開始のブザーが鳴り響いた。
最初に動いたのはソラであった。
皆が一斉に色とりどりの術式を展開している中、ソラは目の前のドールロイドとの距離を詰めて腹部目掛けて蹴り込んだ。
特に驚くほどの音は響かなかったものの、蹴られた相手は一直線に吹き飛び、ピエールが張ったと思われる障壁にその身を打ち付けてそのまま場外に落ちる。
ソラは蹴りこんで突き出した脚を戻す。
一瞬だけ訪れる静寂。
それを打ち破るようにソラの背後に向かってバルディッシュを構えたドールロイドが跳び込んだ。
研ぎ澄まされた刃が無防備なソラの後頭部目掛けて振り下ろされた。
ソラは右足を引いて、左足を軸にして半回転し、その遠心力を利用して銀毛に覆われた獣腕でバルディッシュを弾いた。
相手はバルディッシュを弾かれた事に動揺することもなく、逆に弾かれたのを利用して体をひねり柄に付いている石突で殴りかかろうとした……が、それよりも先に突き出されたソラの左ストレートが相手の腹部を捉えた。
尋常じゃないめり込み方をしたソラの左ストレートを受けた相手は斜め上に吹き飛ばされる。
しかし、場外に出る程は吹き飛んでないみたいだがソラは追うようにして走りだし、まだ宙を飛んでいるバルディッシュのドールロイドとの距離を詰めて跳び上がり、追い打ちの蹴りを見舞う。
抵抗する暇も与えずに2人目を場外に追いやったソラは、着地をして間も空けることなく次の獲物に襲い掛かった。
そこからは特に説明する必要もないぐらいにあっという間に終わってしまった。
迫り来るソラに魔術を放とうとするもその前に間合いを詰められたり、迎撃にショートソードを振るうも武器を砕かれ、手も足も出ないまま場外へ……。
なにか裏のほうで仕込んでるいるんじゃないかと思わせられるぐらい、一方的な試合であった。
『おぉ……! ソラすごーい!』
マリルはらんらんと目を輝かせてモニターに映るソラに釘付けであった。
ロトはあんぐりと口を開けていた。
うん、手は抜いているみたいだな。魔眼なしでも目で捉えられるぐらいには動きが鈍いし、殴るや蹴るといった攻撃も戦闘形態に比べてかなり威力が劣っていた。それにきちんと場外に出していたし、こんなもんだろう。
「ただ今戻りました、マスター」
「おー、お疲れーい。調子はどう? どっか悪いところある?」
試合場から戻ってきたソラに尋ねる。
見た感じだと特に変わった様子はないが、本人にしかわからない事もあるだろう。
「いえ、特に変わった事は」
「そっか。なら次の試合まで空くと思うし、一旦外に行かない?」
そう言いつつ、周りにいる人々に軽く視線を向ける。
先ほどの試合のおかげなのか、ほとんどの者がこちらを見ていた。
正確にはソラを、だが。
確か参加者は511人。今は十人一組の中で勝ち抜き戦の様なことをしている。
今、二試合目が終わり三試合目に入ろうとしてる。
これも合わせればあと四十九試合も残っている。
一組の持ち時間は10分。
一試合目は5分前後で終っていた。ソラは……まぁ、2分ちょいぐらいかね?
ソラのタイムは当てにならないので5分ぐらいだとすると……4時間5分。
……待ってられるか! いや、別に待てないわけではない。逆に待つ事は慣れている。得意と言ってもいいぐらいだ。
だけど、好きと得意は別じゃん?
さあ行こう。時間は有限なのだ、無駄にしてはならない。有効に使うべきだ。
と、言う訳で外に行こう。
「ふむ、確かにいつまでもここにいるのは他の者に迷惑をかけてしまうな。そうだ! 少し屋台でも見て回らないか? あ、いや別に私が行きたいわけではないぞ。ほら時間も空いたわけだし、リプルも見て回りたいだろうと思ってだな」
そうだ! と何かを閃いたロトは嬉々とした様子でそう言ってきた。
あぁ、見て回りたいんだな。
「そうですね……うん、時間もありますし見に行きましょうか」
「やった! ……ゲフンゲフン。うむ、そうと決まれば善は急げ。早速行こう!」
咳払いをしてなんとかニヤけた顔を抑えるも、その目の輝きは誤魔化せていない。
見た目に反して子供っぽい人である。
2日前にもロトを除いたこの3人で回っては見たが当日となればまた違う屋台があるかもしれない。
せっかくロトもいるのだ、是非ともみんなで回りたい。
……というのは建前で、あんなキラキラとした目を見てしまってはロトの意見に乗らないわけにはいかない。
まぁ、ここにいても居心地が悪いだけだしね。
「さ、行くよ。マリル、ソラ」
早く行きたくてうずうずしているロトを見ると、1秒でも早く屋台を回りに行きたくなってくる。
……あれ、これなんだろう、すごく似た状況を知っているような。
………………。
「ま、いいっか」
頭の隅に追いやり、ひとまずソラとマリルを連れてロトと一緒に屋台でも回らなければな。
☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆
「なんやかんやで4時間過ぎました。現在は14時32分、予定では残り一、二試合のはずでございます」
ん? ついさっきまで屋台巡りをするところだったろって? まあまあまあ、そんなこと気にしちゃいけませんよ。
……まぁ、感想を言うと、ロトさんが騒ぎたい衝動を頑張って抑えようとして抑えきれてなかくてすごく可愛かったです。
あ、あと、控えめに言って凄くうるさくてとても良い子に出会ったってぐらいかな?
後で控室に来ると言っていたな。
『リプル、だれにいっててるの?』
「フフ、気にしてはならない。ただの独り言だからね……あぁ疲れた」
どっと疲れを感じながら人が少なくなった控室に入り、モニター前に移動する。
モニターには3体のドールロイドが映っていた。
その端に49試合目と表示されているのを目にする。
「うむ、予定通り。さてと、ゆっくりしますか……へいソラ!」
「はいマスター」
モニターから視線を外して指を鳴らす。
ソラは手慣れた様子で天術式を展開すると、その中から車椅子を引きずり出した。
俺はすがるように車椅子に腰を落として義足の魔力を切る。
あぁ、やっと落ち着ける。
そんな俺を見たロトは少し顔をしかめた。
「リプル、何故また車椅子なんかに乗っているのだ? やはり歩けるのなら自分で歩いた方が良いのではないか? これから体ができていくのだから楽をするのは良くないと思うのだ」
「いやいやロトさん、さっきまで車椅子に乗っていなかったのはあれだけ人が多いとどうしても動くのに不便なんですよ。なので義足で移動していたんですが、常に魔力を消費し続けるのはとても負担なんです。何度転びそうになったか……今は人が減って余裕ができたので車椅子に乗り換えたってわけです」
子供なら楽せずに自分で歩けというのは分かる。
楽をするため……。まぁ、魔力を使いたくないっていうのがある分、全面的に否定はできないが、それでも車椅子に乗らなければならないのだ。
未だに納得できない様子のロトに、左の義足を取り外して渡してみる。
「義足に魔力を流してみてください」
ロトは素直に義足を手に取り、太股と接合する断面部に手を当てた。
「ぉお!?」
5秒ぐらいして手を離したロトは数回義足と自分の手を目移りさせて、俺を見つめてきた。
「……驚いた、義手義足は魔力を多用するという事は知っていたがこれ程とは……。すまなかった」
「すごいでしょ? ……ちなみにどのくらい持ってかれました?」
ロトから義足を受け取りつつ尋ねてみる。
「……半分以上は残ってる、あと10秒は保つとは思うがな。しかし、よくもまぁこれだけ魔力を消費するものを何時間も扱えるものだ」
「慣れですよ、慣れ。俺も最初はすぐに空っぽになってましたから」
義足を着けて魔力を流し、支障はないか確認してみる。
特になにもないことを確認してはすぐに魔力を切った。




