35話
やあやあやあ。みんなおはよう。
いやこんにちはかな? もしかしたらこんばんはかも。まぁいいか。
なんて思いつつも頭上を照らす太陽を見上げる。
気がつけば3月中旬。そろそろ暖かくなってくる頃だ。
しかしまだ肌寒さが残る時期でもあるが……まぁ、日が昇ればぽかぽかになるので気にすることはないだろう。
というか、今が正しくその暖かくなってくる頃だがな。
「っとと」
手を急に引かれ体勢が崩れかけるも、コケることはなかった。
『リプル、つぎはあっちいこ!』
マリルのはしゃぐ声が脳内に響く。
今日は大会の2日前。
昨日のパーティーのせいでソラが大会に出る事になったのでその受付を済ませてきたのだ。
んで、今はその帰りなのだが、せっかくトリクトリーに来たのだから買い物でもして行こうってなったのだ。
しかしだ。どうしてこうも子供というのは人混みの中をすいすいと進めるのだろうか。
今は大会2日前という事もあり、大会出場者やら観光客やらで溢れかえっている。
流石にこの中を車椅子で移動するほど俺は器用ではない、徒歩である。
とまぁ、歩けるなら普段から歩けばいいだろ、と思う人もいるとは思うが残念な事にこの義足、かなり魔力を消費するのだ。
まず、太股と義足の接続部分に術式、次に膝と足首に術式、さらに足の指にも術式が施されている。
接続に1、膝と足首に2、足指に14の最低でも17つの術式を駆使している。
中足骨といった分かりづらい部分も合わせたらいったいいくつになるのか……。
あくまでこれは片足だった場合で、俺は両足とも義足なので魔力の消費は倍になる。
とは言ってもイメージ通りに動かすために細かい魔力操作をしているので、魔力消費は倍でも、それ以上に精神的に疲れるのだ。
慣れればイメージ通りに動かせるようになり意識しなくても調節出来るようになる、とアリアネは言っていたが。
そんなことよりも、こんなものを2日で仕上げたアリアネの方が恐ろしいでござんす。
「お~い、マリルー。頼むからあんまり引っ張らないでくれ~」
『わかってるわかってる~!』
口? ではそう言うものの、悲しい事に俺は今もマリルに引っ張られている。
あぁ……、この子まったく理解してないよ。
「あ゛~、むっちゃ疲れるー」
ベンチの背もたれに体を預けて力を抜くとともに言葉が自然と漏れた。
現在、俺はみんな大好きジャスコ内部にいる。マリルとソラは何かを買う気なのだろう、目の前のフード店に並んでいる。
目線を下に落とし、ズボンによって隠れている義足を見る。
最後に義足を使ったのはジャックとの戦闘以来だから……1、2ヶ月前だろうか?
その間にちょこちょこ使っていたものの、今日のように酷使したのは久し振りだ。
『はい、リプルのぶん!』
声に誘われて顔を上げてみると、ひょいと目の前に薄ピンクと白色が編まれた物を差し出された。
冷気を帯びたそれに、俺は見覚えがあった。
「お、アイスクリームか。ありがとー、マリル」
そう、それはコーンにアイスクリームが渦を巻くようにして乗せられた物であった。
色からして桃とバニラだろうか? と思いつつ口に運ぶ。
口に含んだ瞬間、口いっぱいに酸味が広がり、それを調和するようにバニラの甘味もともに広がる。
これは……ラズベリーだろうか。
口の中を支配するラズベリーとバニラの風味が鼻から抜ける空気に乗っかり鼻腔にも広がる。
歩き回ったことより、魔力の消費により疲労した体に冷たいアイスが沁みる。
『ねぇ、リプル?』
チラリとこちらに目を向けながら、甘えるような声音で俺の名前を呼ぶ。
その物欲しそうな視線は俺ではなく、アイスに向けられていた。
「ったく、このチョイスは自分が食べたかっただけかい。ほらよ」
『さっすがリプルー!』
待ってました! とばかりに差し出されたアイスにかぶり付く。
『んん~おいしい~!』
チッ、頭が痛くなるほどの量は食べなかったか。
頬に手を当てて笑みをこぼすマリルを見て内心そう思う。
ソラの方を見てみる。
アイスは水色になにか粒らしきものが入ってるやつだ。
ソーダというよりはラムネの方が近いかな。
いや待て、この世界にラムネとかあるのか?
あるんだろうなぁ……。
『はいどーぞ!』
「え?」
視線をマリルに戻すと、こちらにアイスを向けている姿を捉える。
「いや、自分で食べなよ。俺はいいから」
そう言うと、マリルは数回瞬きをしてからさらにアイスを近づけながら首を傾げた。
「いや、だがら……」
『なんで?』
「え?」
マリルの目が少し潤みだしてるのが分かった。
魔眼ではなく、普通の目になっているためかわいい。
魔眼の時の怖かわいいではなく、普通にかわいいのだ。
『ねぇ、あーん! ……あーん……』
「あ、あーん!」
かわいいとは言っても、流石に幼女を泣かして喜ぶようないい性格はしてない。
ふむ、これはバニラ……いや? バニラだけじゃない。この口の中に残る甘さとべたつき……。
「練乳……。練乳バニラか!」
『そーだよ! れんにゅーっておいしいよね』
にへらと、破顔するマリル。
子供って、自分があげたいと思ったものを無理矢理にでも渡そうとする時あるよね。あ、俺も今子供が。
「はいソラ、あーん」
「……、……んっ」
マリルと俺だけで食べ合うのもなんかあれだなと思い、ソラにも食べさせてみたのだが……なんかエロいな。
いるよね、妙な色気を放つ中学生女子。
ソラは無表情なのになぜこんな色気を……いや、逆に無表情だからこそ放てるのか?
流石だぜソラ。イヌガミの名は伊達じゃない!
「ん……美味……。はい、マスター」
「あ、はい。では失礼して……」
今度はソラがアイスを差し出してきたのでいただくことに。
……うん、こりゃラムネだ。
と、油断しているといきなり口の中でシュワシュワしだした。
なんだこれ、お風呂に入れるバ○かよ!
しかしまぁ、すごく美味しい。
アイスでは表現できない炭酸をうまく補っている。
あの粒はなんとなく雰囲気で入れてるのかと思ったがそんなことはなかった。
『あ、ボクもあげる!』
ソラのそばにきたマリルは自分のアイスをソラに差し出す。
一口もらったソラはお返しにと同じくアイスを近づける。
目を爛々とさせてアイスを貰うマリル。
……うん、眼福眼福。
☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆
アイスを食い終わってからはジャスコ内を練り歩いた。
『リプルみてみて! これセクシーウィップちゃんのぶき!』
ドドーン! と俺の前に「とれーにんぐ☆うぃっぷ」と書かれた箱が掲げられる。
とれーにんぐうぃっぷ……直訳だと、訓練する鞭なのだが……まぁ、うん。
「なに欲しいの?」
『んーんー。リプルにみせようとおもって』
それにもってるからだいじょーぶ! と笑顔を見せながら箱を棚に戻した。
───。
「あの、マスター。これはいったい……」
「……店員さん。タイツかニーソ、どちらがいいと思いますか?」
「ふむ……どちらも捨てがたいですが、色的にGパンなんてどうでしょう?」
「Gパンか……、ありですね」
更衣室の中で、ミントグリーンのニットソーチュニックワンピースを着たソラが裾を軽く持ち上げながら佇んでいるのを眺めながら普人の女性店員と悩んでいた。
『リプル、みてみて! セクシーウィップちゃんの──』
マリルは相変わらずである。
───。
『いやー、たのしかったー!』
買った物が入った袋を両手で抱えながらニヤつくマリル。
思わぬ出費だったな……。
軽くなった懐を擦ってみる。
チラッと後ろに目を向ける。
目の先にはマリルと同じ
袋の中身を見つめているソラを捉えた。
……まぁ、いっか。
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