32話
『どうかな? リプル。に、にあうかな?』
「ん? おほー」
目の前に、フリルといった物は付いているものの、全体的には大人しめなデザインの薄いピンク色のドレスを身に纏ったマリルが現れ、恥ずかしそうに俯きながらもこちらをチラ見してくる。
普段の明るく元気な性格のマリルを知っているだけに、今の大人しめで照れ屋の見た目をしたマリルはとても斬新である。
「すごく似合ってる! あ、でも目がギラギラしてるからな……普通の目にできないかな?」
そう、全体的に落ち着いた雰囲気の服装に対して、マリルの目は威圧的なものを感じ与えるためせっかくの雰囲気を台無しにしているのだ。
しかし、それはマリルの欠けた部分を補うためには必要不可欠なものである。
今夜はパーティーがあるのだ。綺麗におめかししたマリルには楽しんでもらいたいが、魔眼のせいで楽しめなかったら悲しいだろう……いや、俺が嫌だ。
そうだ! なんなら俺の魔眼で目を少しいじってしまえば……
『あ、できるよ?』
「できるんかい!」
マリルはキュッと瞼をおろし、数秒閉じてから息を吐くと同時に瞼を開ける。
両目からは魔眼特有の発光と模様は消え、澄んだ黄色い瞳が俺の顔を映した。
改めて頭の天辺から足のつま先まで眺める。
「うん、いい! 全然いいよ! バッチリだ」
『そ、そうかな……えへへ///』
恥ずかしがりながらも、嬉しそうにするマリルを見て、俺の中で何かが芽生える。
何この感覚……いや、知っている。俺はこの感覚を知っている。
心がキュンキュンとし、それに釣られて全身が震え、鼻先や目元が熱くなり、脳からなにかがあふれてきそうな感覚……。
そう、これは百合香に対して抱いていた感情と非常に似ている。
「マリル、ちょっとおいで」
『ん?』
マリルは素直に俺の前に近づき、首を傾げた。
そんな仕草も愛おしく感じられ、俺はマリルに手を伸ばしてそのまま抱き寄せる。
『ふぇ!? り、リプル!?』
あたふたとするも、抵抗は見せず、大人しくしている。
つい反射的に頭も撫でてしまう。ソラが髪を梳かしたのだろう、まるで絹のような紅い髪は指に絡まることもなく癖になるような感触を与えてくる。
マリルは気持ち良いみたいで撫でられるたびに声を漏らしている。
しばらくして抱くのをやめ、マリルから離れる。
抱き寄せたことにより、少し着崩れたとこを直し、マリルを見る。
「……うん、とてもかわいい」
自然と柔らかな声が出たのは、マリルが百合香と重なったからだろうか。
どちらにしろ、今の俺はマリルの母親の気分だ。
性別的には父だが、まぁいいだろう。
そんなことを思っていると、ドアを叩く音が響く。
「どうぞー」
俺がそう応えると、老紳士が部屋に入ってきた。
「失礼します。パーティーの準備が出来ましたのでご案内の方をさせて頂きたいと思いまして参りました。……ん?」
腰を軽く折り、お辞儀をした老紳士はまずマリルに顔を向けた。
「とてもお綺麗でございます、マリル様」
「………」
マリルは特に反応を見せることもなく、老紳士を見るだけである。
そんな態度をとられても、流石はプロである。
全く動じることもなく笑顔を崩さず顔を動かして俺とソラを見る。
しかし、そこで老紳士は少し笑顔が崩れ、首を傾げた。
ん? なにかおかしなところでもあっただろうか。
あぁ、そうか。そうだよな、パーティーだもんな。
「確かソラの分も用意されてたよな? ソラも着替えてきたらどう?」
「マスターはお着替えにならないのですか?」
「おう、俺は着替えないよ。そもそも俺の服はないだろ。それに俺は今、マリルの護衛中だしな、動きやすい今のままがいいんだ」
そう答えると、老紳士が口を開いた。
「いえいえ、きちんとリプル様とソラ様とともにご用意はしてあるはずですが……。きっとお似合いになりますよ? ドレス」
「ドレスかよ! 俺は男なんですけど!」
「なんと! そうでしたか!」
あ、これ確信犯ですわ。この老紳士、わざと女物用意しやがったんだ。
このわざとらしい反応が何よりの証拠だ。
まぁ、こんな見た目だし、似合わないってことはないだろうけど……でもなんかヤダ。
「随分とわざとらしい反応ですね……。言っておきますが、俺は絶対にドレスなんて着ま……ってあれ? あの、ソラさん? 何していらっしゃるんですかねぇ……? 車椅子が動いてる気がするんですけど? あれ、あれあれあれ? あの、目の前にドレスが何着も引っ掛かってるハンガーラックが見えるんですが……てか、近づいてません? え? ソラさん? 聞いてます? 聞こえてます!? あぁ、こんな目と鼻の先にドレスが何着も……。
あ、ソラさん? そんなドレスを漁ってどうかしたんですか? そんな、マリルまで! ちょ、え? なにその手に持ったドレスは。それどうするんですか? 俺に近づいていったいどうする───────」
アッー
「とてもお似合いでございます、リプル様」
孫を見守る祖父の様な暖かい眼差しを送ってくる老紳士。
『リプルすっごくかわいいよ!』
らんらんとした純粋で眩しい瞳で見つめてくるマリル。
「………」
ジト目で相変わらず何を考えているのか分からず、静かに直視するソラ。
「あぁ……夕日が綺麗だな」
沈みゆく夕日を眺めながら優雅にお茶する俺は……
ゴシックロリータに身を包んでいた。
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