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31話

 老紳士の案内のもと、連れて来られたのはトリクトリーの中心部。

 その都心を一言で表すなら、「無機質」。

 しかし、老紳士は俺の言葉に対し首を横に振った。


 「この街は……いや、都は生きとる」


 目を細め、過ぎる風景を眺めながらそう言った。


 どういう事だろうか。


 前世を地球で過ごしていた俺にとって、ここは何ら変わらない、いつも目の当たりにしてきた風景だ。

 そのせいなのか、俺にとってここの風景は斬新さに欠ける。


 しかし、そこは異世界。こんな風景であったとしても、あっ! と驚かせるものがある。


 そのひとつが今、俺達が乗っているオートスロープだ。

 見てくれは普通のオートスロープ。よく空港で見かけるやつだ。駅でも見かける場合もある。

 だが、少し違っている点がある。


 それは……宙を浮いているというとこだ。




☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆





 「こちらがイスニーム様のお部屋でございます」


 老紳士はそう言うと、扉に付けられた円型のボタンを押した。

 すると、軽快な機械音を立てて扉がスライドした。


 「おぉ……」


 なんか近未来的な扉を目の当たりにし、これは車椅子にとても優しいと思った。

 ここまで来る途中の道も広めできちんと平らに整えられており、とても進みやすかった。

 石畳なんかよりも百倍、いや百万倍も動かしやすかった。


 アーティウスもきちんと舗装されていれば……と思うものの、そんなことしたらアーティウスの綺麗に調和のとれた街並みが崩れてしまうので心の隅にしまっておく。


 てか、イスニームって誰だよ。


 「マスター、マリル様の事です」


 「おーそうだったそうだった。そういえばそんな感じの名前も入ってたな。ほらマリル、新しいお部屋よ」


 ソラにおぶられているマリルに声をかけてみる。しかし、返ってきたのはとても可愛らしい寝息。


 おうふ。そう言えば来る途中、眠そうにしているマリルをおぶってもらうようソラにお願いしたんだよな。

 んで、ソラのかわりにロトに車椅子を押してもらったんだった。


 ソラに、マリルをベッドまで運ぶよう言い、ソラが戻ってきたと同時に自分達の部屋の案内をお願いする。


 「おねがいします!」


 「申し訳ございません、リプル様はイスニーム様の護衛だと聞いておりましたので、イスニーム様と同室とさせて頂いております」


 「ゑ?」


 変な声が出た気がした。

 いや、確かに護衛をする場合は護衛対象が自分の守れる範囲内に入れておくべきであり、出来るだけ目を離さないようにするべきだ。

 もちろん、ホテル等で泊まる場合も別部屋だったり、部屋の外で待機……などといった行動は正直言って護衛として仕事がこなせるとは思わない。

 常に護衛対象を視界に入れ、なにか異常があればすぐ対応できるよう近くにいるべきである。

 少なくとも俺はそう思う、そう思わざる負えない経験をしたからだ。


 しかし、しかしだ。


 「すんません。この部屋、ベッドが1つしかないんですが」


 「ごゆっくりと……ささ、ロト様、行きましょう」


 にっこりととても優しく微笑んだ老紳士はロトを連れて廊下を進み始めた。


 「ふぇ……って、ちょっと!」


 俺の声は老紳士の耳に届いたはずだが聞こえないとばかりに姿が見えなくなっていく。


 なんでや。


 呆然としている俺を、ソラは車椅子を押して部屋に入るのであった。




 「ま、いっか」


 しばらくして考えるのが面倒くさくなった俺は、ソラが淹れてくれたココアを飲んでいた。


 ベッドが1つしかない? なら川の字で寝ればいいじゃないか。幸いにもベッド自体はかなりでかい。少なくともクイーンサイズはあるはずだ。

 さらに、5歳児の俺と6歳児のマリルに見た目中学生ぐらいのソラの3人なら余裕で横になれる。

 恐れるものなんてなかったじゃないか。


 俺はココアの入ったコップを片手に、部屋に付けられた窓に移動する。


 流石は技の都。窓にガラスを用いるとは、進歩していらっしゃる。

 いちいち窓を開ける必要がないのはやはり素晴らしい。


 だがしかし、ギリギリである。もう少し車椅子が低かったら、または窓がたかかったら外を眺めることは難しかったであろう。


 「それにしても随分と発展してんだな。オートスロープが宙を浮いてるなんて」


 「正確には物理式によって作り出されたアルマドゥラを術具で展開し、座標を固定する事によりあのように浮いていられるのです。一定間隔でオートスロープを通してる黒い輪が見えますが、あれが術具です」


 確かに、よく見るとフラフープのような物が規則的に浮き並んでいた。


 「その術具ってなによ?」


 「術具とは、登録された物に魔力を流すことによって術式を展開し効力を維持するための道具です。身近な物だと、こちらのポットが「温める」術具になります」


 ひょいと、手に持ったポットを見せながら説明さしてくれる。


 「ほー、生活用品も術具ってやつなのか」


 「はい。他には部屋を明るく照らす照明や暖冷房といった物も術具になります」


 ほー。そうなると魔力は地球で言う電気の役割にもなるのか、とても便利だな。


 「んー、なんか限定式っぽいね」


 ソラからポットを受け取り、軽く調べてみる。

 高そうな見た目以外は特にこれといった変わりはないポットだ。


 「そうですね、一部を除いて術具は限定式を組み込まれています。誰にでも扱えることを想定して作られておりますので」


 それもそうか。でなければこうも生活に浸透していくわけもないしな。


 ポットをソラに返し、再度窓から外の風景を眺める。


 見れば見るほど、SFチックな風景だ。

 宙に浮く車が走りそうな雰囲気を出しているが、残念ながら走っているのは馬車である。異世界っぽい!


 しかし、それを入れたとしても俺には「無機質」にしか映らない。


 「生きてる……か。まぁ、人は多いけど……」


 がやがやと行き交う人々を眺めては、老紳士の発言に首をひねるばかりである。


 「……そう言えば、ここにもジャスコとかあるのかな」


 「あると思われます。元々、各都の発展には少なくともトリクトリーの技術が用いられていますので、似たような物はあるはずです」


 ぼそ、と無自覚に零した呟きを拾ったソラは俺にそう教えてくれた。


 「ふ〜ん……あっ」


 顔を上げてソラの方に向ける。

 ソラと目が合い、俺はニヤリと表情を変えた。


なにかありましたら気軽にコメントくださいな

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