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30話

 技の都トリクトリー。


 三大都のひとつに数えられ、物作りを中心に発展した都だ。

 “物作り”を売りにしているだけあって、この世界で普段使用されてるものは全てトリクトリー産と言っても過言ではない。


 そのせいなのか、都自体の造りも他の都とは全く違う。

 上空から見ればわかるが、とにかく広い。

 別の意味で異世界をやっている。

 その都を一言で表すなら……そう、《 近未来都市 》である。




 ☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆




 「な、なんじゃこりゃ……」


 何事もなく無事にトリクトリーに着き、飛行機から降りた俺は自然と口から言葉を漏らした。


 「ここはトリクトリー都際空港。現在位置は2階のロビーだな」


 忙しく辺りを見渡していると、ロトが教えてくれた。


 「空港……ですか」


 今、俺はどんな顔をしているのだろうか……。


 「まぁ、最初は誰も驚くものだ。私も初めて訪れたときは異世界に来た錯覚を覚えたのを今でも鮮明に思い出せる……。

 さぁ、まずは手続きを済ませよう」


 ロトの指示の下、俺とソラとマリルは移動を開始する。


 手続きは簡単なもので、すぐに済ませることができた。

 途中で検査に引っかかったが、どうやら車椅子と義足の魔晶結石に反応してしまったらしい。

 しかし、ドールロイドは引っかからないみたいだ。

 ずるいな、どんなシステムしてんだ。



 手続き後、俺達はエレベーターにのり、4階のロビーに移動する。

 このエレベーターがまた広くて広くて、車椅子に優しいんですわ。


 「水の都、アーティウス騎士第二騎士団副団長、ロトだ。

 アーティウス第二王女、マリル・イスニーム・アーティウスとその護衛をお連れした」


 ロビーのカウンターにいる受付嬢にスラスラと要件を述べるロト。


 ………ん? 第二王女?


 隣にいるマリルに顔を向ける。しかし、マリルは顔を俯かせている。


 「……マリル?」


 『んー……』


 「おい大丈夫か?」


 『ん、だいじょーぶ……』


 「ならいいが……」


 いったいどうしたのだろうか? いつもならこんな建物の中にいたら興奮してそうだが……。


 そう思いながらカウンターの方に顔を向け直す。

 しかし、こうしてロビーカウンターに騎士の格好をしたロトとスーツ姿の受付嬢が並ぶのはなんかとても新鮮な光景である。


 「さぁ、いこう。付いて来てくれ」


 カウンターの奥からもうひとりスーツ姿の女性が現れる。

 どうやら案内をしてくれるみたいだ。


 案内されたのは控室だった。テーブルとソファーと滑走路が見える窓がひとつだけある。

 マリルをソファーに座らせると、テーブルに4人分のお茶とお菓子が出される。


 「このようなおもてなししか出来ず申し訳ありません。

 では、案内の者がいらっしゃるまで少々お待ちください」


 そう述べた後、頭を下げて退出する。

 それを見送り、ひとまず周りを見渡す。

 特に変わったものはなく、普通の応接室のようだ。


 「ロトさん、座らないんですか?」


 「私は騎士だ、マリル様と御一緒の席になど畏れ多くて座れない」


 まぁ、立場というものがあるのだろう。


 「ソラは?」


 「私は大丈夫です、マスター」


 「ですよねー」


 俺が車椅子に乗っている間は常に背後をこうしてとっている。

 俺の背後を取るとは……やりおる。


 そんな冗談は置いといて……気になるのはマリルだ。

 さっきからずっと大人しい。

 ソラに頼み、マリルの隣に移してもらう。


 「マリル、どうしたんだ? どこか具合でも悪いのか?」


 しかし、マリルは俯いたまま反応がない。

 顔の前で手を降ってみるもピクリとも動かない。

 心配になり、マリルの顔を覗く。


 こ、こいつ……死んでやがる。


 「マスター、寝ているだけかと」


 「知っとるわい!」


 瞼を閉じ、静かな寝息を立てて眠るマリル。


 まぁ、ここ最近ずっと物理式ばっかり使って遊んでたし、今日はいつもより早く起こされたもんな。

 仕方ない、寝かしといてやるか。


 優しい気持ちになりながら座り直すと、こちらにマリルが倒れてきた。


 「おっと……危ない危ない」


 斜めになっているマリルを支えてやるも、戻すのが面倒くなり、そのまま倒してやり膝枕をしてやる。

 少し癖のある紅い髪を撫でる。


 あぁ……すごく懐かしい。


 「ブッ!!」


 ホクホク気分でいると、何かを噴き出したような音が聞こえた。


 顔を上げるとロトが顔を両手で抑えながら向こうを見ていた。


 「ロトさん?」


 声をかけてみると片方の手の平をこちらに向けてきた。


 「大丈夫だ、問題ない」


 「いや、問題多有りですよ。なに鼻血噴いてんですか……ソラ、頼む」


 「はい、マスター」


 天術式を展開し、獣腕を突っ込んで引っ張りだす。

 その獣腕には1枚のタオルが握られていた。


 「す、すまない……」


 タオルを受け取り、鼻血を拭き取る。

 そして何事もなかったかのように姿勢を戻す。


 「タオルは洗って返す」


 「あ、はい」


 キリッ、とした顔つきで言われたもので、つい承諾してしまった。

 ま、いっか。


 「ところで、この後ってどうするんですか? 今のところ俺って護衛らしいことやってませんけど」


 マリルを撫でる手は止めない。これが気持ちいいのだ。

 どうして女の子の髪ってこんなに気持ちが良いのか、人体の神秘である。


 「いや、十分仕事をこなしているさ。普段、マリル様が人前でこんなあられもない姿を晒すなど……!」


 再び紅い液体がロトの鼻から放たれ、宙を舞う。


 「失礼した。……とにかく、リプル、君はそのまま普段通り接してくれればいい……が! 時と場合によっては……」


 「あー、その辺は大丈夫です。きちんとわきまえますから……ところで、気になったんですが、マリルがアーティウス第二王女ってホントですか?」


 「何を言っている、あたり前ではないか! しかし、なぜそんな愚問を? 互いに己の立場は理解しているのでは?」


 「あー、お偉いさんのとこの娘さんってのは分かっていたんですが……。そもそもフルネームも聞いてなかったんですよね」


 「そ、そうなのか……私はてっきり王女だと知っていてあの失礼な態度をとっているのかと思っていた」


 「ま、例え知っていたとしても変える気は無いですけどね」


 それを聞いたロトは少し目を見開くも、すぐに笑みをこぼした。


 「うん、それがいい。そのまま変わらず接していてくれるおかげでマリル様が笑顔でいてくれるのなら、私はお前がマリル様に対する失礼極まりない態度も目を瞑ろう」


 マリルの寝顔を見て微笑むロトの姿からは母性が溢れていた。


 こんなに思ってくれているのだからマリルも心を開けばいいのに……なんて、こればかりはあいつの心の問題だからな……外野がとやかく言って悪化させるのも嫌だし、難しいものだ。


 しかし、そんなに俺のマリルに対する姿勢は酷いものなのか。

 敬語で話すと泣きそうになるし、畏まった態度をとったとしてもヘソを曲げる。


 全く、困ったものだ。


 それからしばらくして、部屋に燕尾服を纏った白髪の老紳士が現れた。

 どうやら案内人のようで、俺達はその老紳士に連なって部屋を出て行った。










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