28話
今回もあまり進まない(キリッ
いきなりですが皆さんは普段、どのような移動手段を用いていますか?
徒歩や自転車、車はもちろんの事、公共機関だと電車に新幹線とバス、少しリッチに飛行機だろうか?
では、移動手段の始めに「異世界の」を付け加えるとどうだろうか。
誰しもが最初に思い描くのは「馬車」なのではないだろうか。
かく言う俺もそのひとりだった。
今回の依頼の移動手段は馬車だと、俺はそう思ってしまったんだ。
しかし、気付くべきだった。この世界には“ドールロイド”という、技術の結晶があることを……。
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「マスター、マリル様、お茶をお淹れいたしました」
「お? ミルクティーとクッキーか」
とんとんと運ばれたミルクティーと、クッキーが盛られた皿がテーブルに並んでいく。
漂うミルクティーの香りを鼻で捉えながらソファーに倒していた体を起こす。
『わぁーい! おやつ!』
先ほどまで窓に貼り付いて外の景色を眺めていたマリルが香りに誘われて隣に座り、クッキーに手を伸ばし口に運ぶ。
『むむ、このクッキーあまり甘くない』
「ミルクティーと一緒に食べるからクッキーの方は甘さ控えめなんだろ」
俺の言葉を聞き、マリルはミルクティーを口に含み飲み込む。
『んー……もっと甘いほうがいい』
すぐさまテーブルに置いてあった角砂糖を2つミルクティーに落として混ぜてからクッキーと共に口に運んだ。
『もういっこ!』
追加でもうひとつ角砂糖を混ぜて啜った。
「外どうだった? なんか見えた? ……て、あーぁこぼしてるこぼしてる」
『ん〜むぅ』
ソラからタオルを受けとり、マリルの口からこぼれたミルクティーが顎を伝い、水色のドレスにシミを作るミルクティーをささっと拭き取る。
『あのね、わたあめ! わたあめみたいにふわふわなのがいっぱい!』
「そうかそうかー。でもな、あれは雲っていって食べられないからな〜」
『むっ、知ってるもん! おねーちゃんだから知ってるもん!』
マリルはミルクティーを飲み干すとソファーから離れて再び窓に貼り付いた。
「……しかし、まさかこの世界にあるとは思わなかったな」
そう呟いてクッキーを頬張る。
今、俺達は技の都トリクトリーに向かっている最中だ。
そう、現在進行中である。
そこそこ広めの部屋に天蓋付きのベッドがひとつ、ダブルベッドがひとつ。テーブルとソファーにキッチンと冷蔵庫の他にクローゼット、さらにトイレ用の別室がついている。
なんだこれ、生活するのに不自由がない部屋であるのは間違いない。
もう一度言っておこう、俺達は現在進行系でトリクトリーに向っている。
凄いよな魔術って。こんだけの設備を整えながらも、揺れも感じさせないし騒音も全く響かない。
しかも室内温度の調節も完璧だ、過ごしやすい。
『ほらリプルもこっちきて!』
てててと俺に近づいたマリルは俺の手を取り、引っ張りだす。
やめてくれー、今おでは車椅子に乗ってないんじゃー。
「はいはいわかったから引っ張るな」
車椅子に座り直し、マリルに引っ張られながら窓に近づく。
窓を覗くと、青々とした空にさんさんとした太陽。
そして、太陽に照らされながらもうんと広がる自由気ままな白い雲が、視界下半分を支配していた。
もう隠す必要もないだろう。今、俺達が乗っているコレはトリクトリーが開発した移動手段であり、前世である地球でも国際的な交流や観光をする際に大いに役立ってくれているアレだ。
そう、飛行機である。
人は新しい物に出会うと、興奮する。
子供なんか特に感化されやすく、鼻の穴を広げて興奮を通り越し、暴走する事がある。
そして己の感じた喜びといった感情を他者に伝えるべく体全体で表現したりする。
とてもかわいく、そして微笑ましいものだ。
しかし、現実は残酷なものである。
どんなに素晴らしいくとも、どんなに感動的であったとしても……だ。
『あきた』
空の旅が始まって3日目の昼頃である。
昼食を済ませて、部屋で天術式の練習をしていると唐突にマリルが呟いた。
「はい?」
角砂糖を用いて転送を繰り返す作業を中断し、天蓋付きのベッドに身を投げ出しているマリルに顔を向ける。
『あーきーたー』
体を左右に揺らしながらばた足を始めだす。
「そう言われてもな……よっと」
別の角砂糖を小さく展開された天術式に落とし、マリルの口の中に角砂糖を転送させる。
『んん!?』
いきなり口に現れたことに驚くも、それが角砂糖だと悟ると口を動かし始めた。
どうやら無事、転送は成功したみたいだ。
順調に精度があがっていて喜びを感じる。
「角砂糖の味はどうよ?」
『この味はあきませんな。て、そうじゃなくていきなり現れたの! 口の中に!』
体を起こしたマリルが口の中のヨダレで溶けだしている角砂糖を指でつまんで見せてきた。
「汚っ! わかったからさっさと舐めろ!」
『すごくない!? ねぇすごくない!?』
目をらんらんとさせて口に戻そうとしないマリル。
「俺がやったんだよ……」
『あ、そうなの?』
現象の正体がわかると角砂糖をしばらく眺めてから口に戻した。
『どうやったの?』
「天術式だよ、天術式。それでお前の口の中に角砂糖を移してみたんだ」
『じゅつしきかー……』
「……どうした?」
術式と聞いた途端、テンションが急降下したマリルが気になり、尋ねてみる。
『ボク、じゅつしきが使えないんだよね……』
「そうなの? でも早い遅いは人それぞれだし、焦ることはないんじゃないかな?」
『んー……パパにもおなじこといわれたけど、おねーちゃんは使えてるんだよ? それでおねーちゃんはボクをバカにしてくるし……』
「あー、なるほどね」
姉はできるのに自分ができないのが嫌って事じゃなくて、バカにされるのが嫌なのか。
「じゃあ、練習しようよ。俺も一緒にやるからさ」
『ホントに? いっしょにしてくれるの?』
「おうよ! ちょうど今術式の練習中だし、やろう?」
『うん!』
先ほどの曇りがかった顔が一変し、眩しい笑顔になって俺の隣に座ってきた。
「それじゃまず、術式の適性なんだけど……」
『あ、それはパパに教えてもらったんだ! たしかぶつり? っていってた』
「おぉー! 物理式か! それなら俺も使えるから教えられるな!」
とりあえず一安心。一緒にやろうと言った手前、自分の使えない術式だったらどうしようかと思ったがその心配がなくなってよかった。
「それじゃ手本を見せるからよく見ろよ」
俺は角砂糖を2つテーブルに置き、片方に指をのせる。
「いい? 術式を発動する際に大事なことはイメージだと俺は思っている」
『イメージ?』
「あぁ、そうだ。まず始めに角砂糖を魔力で包み込むイメージを描く。そしてそのイメージを残したまま唱える。物理術式【アルマドゥラ】」
すると、術式が角砂糖の下に小さく展開され、淡い光で包み込んだ。
時間的には一瞬に過ぎない。
術式が消えたのを確認して物理式をかけた事により、少しだけ宙に浮いた角砂糖を押してみる。
すると、角砂糖は微動だにしないものの、しっかりと押された方向に転がっていった。
『え! なにこれすごい!』
「触ってみな」
マリルは転がる角砂糖を手にとって見る。
『あ、なんかまるい?』
両手で挟んで円を描くように動かしながらマリルは呟いた。
「それが物理式だよ。目には見えないけど存在する魔力の壁」
『ん? なんかさとうのまわりにヘンなのがぐるぐるしてるよ?』
「え、そんなはずは……て、あぁそう言えばマリルは常に魔眼を開いてたんだっけ」
自分の魔眼を開いて物理式をかけた角砂糖を見る。
……うん、魔力が複数の線となって角砂糖の周りを球状に乱回転してるんだ。
「まぁ、魔力の壁だから魔眼だと魔力の流れが見えちゃうんだね。肉眼だと魔力は見えないんだよ。
それじゃ、やってみようか」
『うん!』
マリルは大きく頷いて俺と同じように角砂糖に指をのせたのだった。
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