26話
あけましておめでとう!
今のうちに言っておくね? ギャグ回だよ!
どうも皆さん、こんにちは。
リプルです。
ジャスコと出会って早くも1週間が過ぎた。
Fランクにも無事に昇格でき、なんやかんやで依頼も卒なくこなせている。
ま、あんな事があって以降、Fランクの依頼を受けたのは一昨日の一回のみなんだけどね。
しかもその時はクラウスも同行したのだ。
そう、Aランクの冒険者であるクラウスがFランクの依頼を受けたのである!
とまぁ、最初は驚いたが別に珍しいことでもないらしく、クラウスもよく低ランクの依頼を受けてるそうだ。
低ランクの依頼には討伐系は少なく、代わりに採取系が多い。
薬草などは何気に重宝するらしく、自分で採りに行く冒険者は少なくないみたいで、こうして採りに行くついでに依頼を受けるんだとか。
やはり現場で処置できるのとできないのでは生存率が違うし、心に余裕というものが生まれるものだ。
話は変わるが、皆さんは犬を飼っているだろうか? 定番なのは小型犬のトイプードルやチワワ、それにミニチュアダックスフンド辺だろうか。
コーギーや柴犬等も飼ってる人は多いだろう。
話を戻そう。
飼い犬に限った話ではないが、ペットの動作というものは愛嬌がある。それが仔犬等の幼ければなおさらだ。
しかし、愛嬌があるといってもされると反応に困る動作というものがある。
例えば……股の間に顔を突っ込んでくる、は正しくされると困るのではないだろうか。
犬の場合、特に初対面の方にやる事が多い。
これは 犬の習性であり、相手から発せられる匂いから情報を得るためにやるそうだ。
害はなく、逆に嗅がせないと相手に対し警戒心を抱くことになるので犬が満足するまで嗅がせるのが良いだろう。
また、主人に対しこのような行動をとった場合も好きにさせてやった方がいい。これは、自分より上の存在……群れのボスの匂いを嗅ぎ、安心感を得るためにやる事が多い。
小型犬や仔犬等の小さい犬は股の間に挟まることにより、守られてると感じるそうだ。
主人として認めているからこそ嗅ぐこともあるので、意味を知っていれば可愛いものである。
……が、あまりにもしつこく頻繁に股に顔を突っ込んでくるのはもしかしたらその行為が癖になっている場合があるのできっちり注意しよう。
もし、子犬で注意されてることを理解してないようであれば低い声で唸ってみるのも良い手である。
さて、では何故いきなりこのようなことを皆さまに問たのか。
それは、現にされているからである。そう、現在進行形だ。
誰にかって? そんなの決まっている、あいつしかいないだろ。
俺が連れている、【イヌ】と言えば……。
ベッドで横になる俺の体を覆っている布団をめくり、体を少し起こして下半身に顔を向けた。
俺の視界に最初に映ったのは銀髪。そして草臥れた色をした黒いタンクトップと、同じような色の半ズボンとの間から覗く背中とくびれのライン。
左右に伸びた銀毛に覆われた両腕は軽く手前に折られており、両足も正座の形で折られているおかげで、お尻がちょいと浮く感じになっている。この態勢のおかげで背中とくびれが露出しているのだとわかる。
そして最後に、顔半分以上が俺の股間に埋もれ、銀の前髪からこちらを見据える眠たそうな双眸と俺の目が合う。
言うまでもない、ソラである。
「おはようございます、マスター」
「うん、おはよう……って違うわ。やめなさい」
注意をしてみるも、ソラは首を傾げて何に対してなのか理解していない模様。
いやなんでだよ。なんで理解できないんだよ。
「うーっ……」
次は低く唸ってみる。
「どうかなさいましたか?」
こいつの知能はもしかしたら子犬以下……いや、未満なのかもしれない。
ま、そんなことはないと思うけど。
「はぁ……とりあえずやめてくれ」
溜め息を吐き、ソラに手を伸ばしかけたところで視線を感じた。
ジッと、強い視線。
反射的に視線を感じる方へ顔を向けてしまった。
パシャッ!
突然、強い光が襲い視界を真っ白に染め上げた。
しかし、それは一瞬の出来事であり視界はすぐに回復し、俺の目は小さい箱のようなものを両手で構えた茶色のボブカットの女性を捉えた。
「……何してるんですか、セシルさん」
「え? なにってそりゃあ……オカズの調達かな」
「オカズの調達? ……っ!?」
俺は気付いてしまった。セシルが構える物は箱ではなく、カメラであること。それも、一眼レフである。
「……姉ショタって素晴らしいものだと思うの」
パシャッ!
カメラから放たれたフラッシュはしっかりとこの光景を、そのカメラにしっかりと収めたのであろう。
「ソラ、これは命令だ。セシルさんが持っている物を壊すか、壊せ」
俺が「命令」と言った瞬間、ソラは顔を股間から物凄い勢いで上げた。
「……はい、マスター」
次の瞬間、ソラはセシルの背後を取っていた。
「甘いわ!」
瞬時に真上に跳び上がると、吸い込まれるかのように天井に着地した。
連なるようにソラもその後を追うも、それより素速く動き扉の前に静かに降りた。
ソラよりも速く動いてるセシルを見て驚きを隠せない。
そんな俺に気づいたのか、セシルは微笑みを浮かべた。
「驚いているようね、リプルちゃん。確かに普段の私なら今頃ソラちゃんに捕まって、とても人には言えないあんなことやこんなことをされちゃっているでしょうね……」
すかさず、喋るセシルに跳びかかるソラだがそれを知っていたかのような動きを見せてセシルは天井に現れる。
だが、これで逃げ道は塞いだ。セシルがこの部屋から出ることは不可能に近いだろう。
「フフフ……リプルちゃん、あなた私がここから出ることはできない、と思ったわね?」
「なっ!?」
俺としたことが大きく動揺した。いつもならしないはずなのに、何故か顔に出てしまった。
「驚いているわね……でもね、驚くのはまだ早いわ」
そう言い残し、セシルは一瞬にしてソラとの間合いを詰めた。
「よく見てなさい」
ソラは己の攻撃範囲に侵入してきたセシルに、腕を唸らせながらカメラを取りにかかった。
「これが!」
ソラの腕を掴むと同時に、半回転しながらソラに体を滑りこませた。
セシルは滑り込ませた腰でソラの体を浮かせ、流れるようにして背負い投げを決めたのだった。
ドンッ! と音をたて、床のほこり等を宙に舞かせてソラは背中から落ちた。
「……ギャグ補正、と言うものよ」
部屋に一瞬の静寂が訪れた。
「そ、そんな……ソラが」
あまりにも現実離れした光景に俺は目を見開き、言葉を漏らした。
「さようなら。リプルちゃん、ソラちゃん。私はこれから早速、この収めたものを有効活用してくるわね」
そう言い残すと体を翻した。
それに合わせるかのようにしてセシルの前にある部屋の扉がひとりで勝手に開いたのだ。
この宿の扉は自動で開くものではない。しかし、こうして勝手に開くのももしかしたらギャグ補正のおかげなのかもしれない。
「あぁ……」
圧倒的すぎる実力の差に、俺は只々セシルを見ることしかできなかった。
しかし、扉が開いているというのにセシルは一向に部屋から出ようとしない。まるで誰かがそこにいて通せんぼされているかのようだ。
「なんかでけぇ音がしたから気になって見に来てみれば……何してんだ、お前」
なんと、セシルの前には青髪隻眼の男性、クラウスが立っていた。
「……ひとつ、言い忘れていたことがあるわ」
「え?」
「ギャグ補正……それはとても素晴らしい補正だわ。こんな私ですら作中最強キャラになれるぐらいにね」
「は? 何言ってんだお前。壊れたか?」
クラウスがそう言葉を投げるも、セシルは気にせず話を続けた。
「でもね、この補正にはそれなりの対価が必要なのよ……」
静かに笑みを浮かべるセシルに疑問を抱くような表情をしたクラウスは、セシルの首から提げている一眼レフのカメラを目にする。
「お前、それは……」
「それじゃ! 私これから仕事があるからまたね!」
「おい待て」
部屋から颯爽と逃げ出そうとしたセシルの肩をクラウスはがっちりと掴んだ。
「……こいつがなにかやらかしたみたいだな、すまなかった。俺からよーく言っておくから」
「え? え? ちょ、待って離して、話を聞いて。私は別に何も……あ、そうだ! クラウスも一緒に────」
ギギギィ……と扉が閉じ、数分もしないうちに、宿屋に女性の悲鳴が木霊したのだった。
☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆
「朝はすまなかったな。セシルが変なことしちまったみたいで……カメラは壊しといたから安心しろ」
「あ、ありがとうございます。……ところで俺に用があるって言ってましたけどどうしました?」
今、俺とソラはクラウスと共にギルドの向かっている。
朝、クラウスが宿にいたのは俺に用事があってのことらしい。
よかった、用事があって。
「あぁ、その事なんだが実は急に依頼が入ってきたんだ……お前指名で」
「へー……って、え? 指名!?」
「あぁ。よくわからんが、なにかの護衛依頼って言ってたな」
「護衛依頼って……」
俺は肩を落とした。
護衛依頼とは、読んで字の如く、護衛することを目的とした依頼内容の事である。
護衛依頼は主に国外に出て、依頼主または護衛対象を目的地まで外部からの攻撃から守る事である。
このような護衛依頼はDランク以上の冒険者が推薦されている。
本来なら俺のような下っ端の冒険者が受けるような依頼じゃない。ましてや指名されるなんてことはあり得ない。
……まぁ、現にこうしてクラウスがわざわざ宿まで来たのだから嘘ではないのだろう。
「あぁ……着いてしまった」
何度も目にしたことにより見慣れた盾と剣の看板。
「ほら、早く行くぞ」
俺にそう言葉を投げてからクラウスはギルドに入っていき、俺とソラもそれに続いて入っていく。
ギルド内は思ったよりも人が少なかった。朝のピーク時が過ぎたのだろう。
ギルド内に備えられた椅子に座りテーブル上に置かれた料理にかぶりつく者や、気の知れたなか同士で談話に花を咲かせてる者と依頼を受ける様子のない冒険者がほとんどだ。
「連れてきたぞ」
カウンターまで進んだクラウスが親指で後方にいる俺とソラを指した。
「あら、遅かったじゃない」
カウンターにいたのはクリス・トゥニット。今日もカールが巻かれた金髪が見事である。
「まぁ、いろいろ合ってな……」
チラッとカウンターの奥で作業をしているセシルに目を動かすクラウス。
「おはようございます、クリスさん。あの、俺宛に依頼が来てるって聞いたんですが……」
「おはようリプルちゃん。あら、クラウスから聞いたのかしら? そうよ、あなた宛に急遽依頼が入っちゃってね……どうもあなたじゃないとダメらしいのよ。受ける受けないはあなたの自由だから、話だけでも聞いて無理そうならきちんと断ること。依頼主は右側の奥のテーブルにいるわ」
「りょーかいです」
ここでクラウスと別れ、クリスの教えてくれた奥のテーブルに向かう。
そこにはローブを羽織った大人と子供がひとりずつ座っていた。
大人の方は女性の方だろうか、フードから覗く顎のラインが細い。
子供の方は見覚えがある。ちょうど2週間ぐらい前に見たことがあるような気がする。
どうやらそう思ったのは間違いではなかったらしく、子供は俺が近づくと、勢い良く立ち上がって俺の方に駆け寄ってきた。
『久しぶり、リプル!』
フードの中からギラリと照準器模様の瞳を覗かせて俺を捉える。
脳内に直接響かせる念思による会話、そして黄色い魔眼。
1週間前にジャスコを案内してくれたマリルである。
「久しぶり、マリル。てかなんでマリルがここに?」
『えへへー、なんでいるかと言うと』
「貴様がリプルか」
マリルの言葉を遮るように、ローブ姿の女性は口を開いた。いや、そもそもマリルは念思を使っているため彼女はマリルが話していたことに気付いてないのだろう。
マリルは不機嫌そうに顔を歪めて女性を睨んだ。それも、とても冷たい目で。
マリルに睨まれたせいか、女性は少したじろぎながらもソラを見つめた。
……え? ソラ?
「……いいえ、私はマスターの人形です」
先ほどの問いが自分に向けられた事に気付いたソラは首を横に振った。
「人形? 貴様はドールロイドか。と言う事は……まさかとは思うが、車椅子に座っている子供が……」
「そのまさかです、えぇ」
右手を軽く上げアピールすると、女性は顔をしかめた。
まぁ、そんな顔するよな。指名した冒険者がまさかの車椅子に乗ってる子供だからな。
なんて思いながらマリルをチラ見すると、紅い髪が少しだけ逆立ってる気がした。
それだけではなく、眉間にシワがより魔眼もギラギラさせて女性を見ていた……いや、睨んでいた。
『あ、あの、マリルさん? そんな目をギラギラさせてどうしたんですかねぇ……?』
見ただけで生物を殺せそうな目つきをしていたので念思を送る。
あれはやったことのある目だよ、とてもではないけど人様に見せちゃいけない目をしてた。
念思に反応してこちらに顔を向けたマリルは今にも泣きそうな顔をしていた。
『ど、どうかいたしましたか!?』
少しオーバーにリアクションをとりつつ尋ねる。
『敬語は……いや』
ジワリと目に涙を滲ませ、下唇を噛むマリル。
『あ、それで泣きそうになったの?』
『んーんー、それもあるけど違うの。リプルがバカにされたのがいやだったの』
なにこの生き物かわいい。
目を潤ませてそんな、胸の奥がきゅんきゅんするような台詞を言われると困るんですけど。
あざとい。流石幼女あざとい。
「あーもう! かわいいな!」
『ふぁ!?』
ぐいっとマリルを抱き寄せる。
少し赤くなってる頬がとても柔らかいです。もちもちです。
『り、リプル!?』
腕の中であたふたとするマリルがとても愛くるしい。
「き、貴様ッ! なんてうらやm……ゴホン、なんて無礼なことを! 立場をわきまえろ!」
「今、羨ましいって言いませんでしたか?」
「な!? そ、そんなわけないだろ!」
女性は声を上げて必死に否定するも、俺の耳は聞き逃さなかった。例えマリルの頭を撫でることに夢中になっていたとしても、そのツッコんでくださいとばかりの露骨なアピールを逃すわけがない。
その辺りは生前、娘に散々振られたからな。
条件反射ってやつだろうか。反応してやらないとテンションが下がって拗ねてしまうのだ。
……それだけ寂しい思いさせていたんだろうなぁ……。
あ、涙が。
ほろりと流れたひと粒の涙をささっと拭う。
「あ、す、すまない。大声を上げてしまって……頼むから泣かないでくれ」
今度はおろおろと焦りだした。
どうやらさっき声を上げた事で泣かせてしまったと思ったようだ。フードで顔半分が隠されていたとしてもよくわかる。
感情がとても豊かな人だ。うん、とてもかわいい。
「あの、マスター」
不意にソラが声をかけてきた。
何事だと思い振り返る。
「依頼の件はどうなったんでしょうか」
「あ」




