23話
本当は昨日上げるつもりでした……寝落ちって怖いね!
今、俺の目の前で行われているのは、戦闘ではない。
それは……一方的な暴力であった。
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「──あっ」
耳をつくような甲高い音。それは、火花を散らしながら森に響いた。
俺の肩越しから伸ばされた、白銀色の毛に覆われた獣腕。そこから爪のように生えた三つの刃が振り下ろされた大剣を防いでいた。
漆黒の甲冑を纏った隻腕の怪獣は後退し、大剣を担ぎ直す。
伸びていた獣腕が消えるとほぼ同時に上空に術式が展開される。
蒼銀色の術式。
トン……と、その術式からひとりの少女が静かに舞い降りた。
「ソラ……」
ぴくんと反応を見せる少女は俺に振り返る。
「はい、マスター」
相変わらずの無表情で、強弱のない単なる音のような声。
その存在がソラだと認識すると同時に胸の奥からなにか熱いものが沸き上がってきた。
「っくぅ……そらぁ……」
精神年齢32歳でありながら俺はぼろぼろと大粒の涙を流す。
顔もさっきより酷くぐしゃぐしゃになっているに違いない。
止めようにも止まらない涙を何度も拭うも、収まる気配が感じられない。
「マスター」
そんなみっともなく泣きじゃくる俺を、ソラはその胸に抱き寄せた。
その間も涙は溢れ続け、ソラの服を汚した。
「遅くなってしまい、申し訳ありません。もう、大丈夫です……マスター」
ソラの言葉を聴いた瞬間、まるでダムが崩落して水が暴れるかのようにぶわっと、胸だけではなく頭の中にもなんとも言えない熱い感情が広がった。
「そらぁぁぁぁぁあ!」
ぎゅうっと、ソラの服を掴んで俺は泣き散らした。
今思うと、号泣……しかもこんなに感情に任せて泣いたのは前世も合わせて初めてかもしれない。
あの時は泣く以前に感情すら皆無に等しかった。さらに、感情が芽生えた時は泣く年頃でもなかったし、そもそも泣き叫ぶ事が起こるようなこともなかった。
逆である。俺は、それを受け止める役割であった。
娘の……百合香の豊かな感情を。
ギンッ!
「ソラ!」
音に反応して俺は顔を上げる。
ギチギチ……と、ソラの肩に振り下ろされた大剣が目に入る。
「大丈夫です、マスター」
そう言うと、ソラは静かに顔を大剣に向ける。
甲冑の怪獣は弾かれるようにしてその場からすぐに後退し、大剣を構える。
ソラはそれに連られるように立ち上がり、甲冑の怪獣と対面する。
「あっ……」
ソラが立ち上がったため、ソラを掴んでいた右手が宙を掴む。
名残惜しそうに彷徨う右手を胸に引き寄せる。
「──戦闘形態に、移行します」
ソラの言葉に呼応するように大気が震える。それとともに、ソラの銀毛のマントに付いていたフードがソラの頭を包んだと同時に現れるツンと立った二つの獣耳。
ほのかに体から漂いだしている、光球は魔力だろうか?
「ソラ……?」
チラリと、ソラが横顔を見せる。
いや、見せてきたのはソラの横顔ではない……それは、仮面に覆われた【イヌガミ】の横顔。
「敵を、マスターに敵対する者を……殲滅する」
次の瞬間、俺の視界に映ったのは……一方的な暴力であった。
ソラは光球による、残像をその場に置き去りにして甲冑の懐に腰を落とした体勢で忍こみ、左足を突き上げ甲冑の顎を捉えた。
術式は使用してない。天術式による転送も、身体術式の強化も施した様子はない。要するにソラ自身の素の運動能力で懐に潜り、蹴り上げたのだ。
その事実を理解すると、俺は息を呑んだ。
蹴り上げたことにより、宙に身を浮かした甲冑は体制を立て直そうと顔を戻すが、ソラはそれを許さないとばかりに追撃を加える。
二回、三回、四回……と、重力に逆らい甲冑を蹴り上げ続ける。
しかし、甲冑もやられっぱなしなのは癪に障るのか、大剣を逆手に持ち替えてソラに突き立て、貫いた。
が、貫かれたソラは光球であり、その本体はいつの間にか甲冑の真上に位置取っていた。
とん……と、甲冑を踏み台にし宙返りを魅せる。
その遠心力を利用し、ソラは甲冑の首の付け根に向けて、刀身が沿った刃を生やした踵を振り下ろした。
捉えた時の鈍い音と、豪速で落ちることによって生じた空を切る音が轟く。
そんなものも一瞬で消え、次に響いたのは地面に叩きつけられた轟音であった。
砂埃が舞う。その様子を着地したソラが確認しようと振り返る。
そのタイミングを見据えていたかのように、砂埃が
から大剣が矢のように飛んでくると、ソラの顔を見事に捉えた。
畳み掛けるように、甲冑が砂埃の中から現れると大剣の柄を握ると体を回し、勢いをのせた斬撃をソラの顔にお見舞いする。
しかし、ソラは一歩も動いておらず、それどころか微動だにしてなかった。
甲冑が首をかしげる。
ソラも首をかしげた。
グンッと、右手から三つの刃を爪のように出現させると、下から上へ、その刃を振り抜き甲冑を斬り裂く。怯んだところに、甲冑の腹部目掛けて蹴り込む。
ソラの蹴りにより、吹き飛ばされた甲冑は木々を巻き込みながら倒れこんだ。
ソラはゆっくりと甲冑に向けて歩みを進める。
甲冑は大剣を杖のように地面にたてると、体を立ち上がらせる。
だが、何かがおかしい。甲冑の纏う空気というか雰囲気が更に重くなった感じだ。
どうやらソラも感じたらしく、歩みを一旦止める。
甲冑は藻掻くようにして体を捻ると、鉄同士を擦りつけた時のような音を立てながら、無かったはずの左手を突き現したのだ。
「ウソ……だろ」
俺は血の気が引いていくのを感じ、背筋が寒くなる。
不安に駆られながらも、その行方を息を殺しながら見つめる。
左手の調子を確認した甲冑は大剣を担ぎ直すと、先程とは比べ物にならない速度でソラとの間合いを詰めると、殴るようにして大剣を振り下ろした。
大剣は虚しくも、光球による残像を斬り、地面に落とされる。
「うわっ!」
衝撃が地震となり、大地を震わす。
ソラは甲冑の背後に姿を現すが、それを読んでいたかのように甲冑は左手を伸ばしてソラの顔を掴むと、地面に叩きつけた。
さらに、甲冑はソラを跨ぐと、大剣を高らかに振り上げた。
ズン……。
振り下ろそうとしてい右腕を、一本の触手……いや、一本の刃がいくつかの節に分割され、まるで蛇のように伸びて貫き、その動きを阻止していた。
その一本に続くように、ソラが倒された地面から次々と蛇のように唸った刃が現れては甲冑のありとあらゆる箇所を貫き、体を宙にいる突き上げる。
悠々とソラは立ち上がり甲冑を見据える。
夕暮れに染まった空を背に藻掻く甲冑は貫かれながらも、右腕を無理矢理振り下ろし、大剣をソラに向けて投擲した。
その様子を見据えていたソラは目の前に術式を展開し迫り来る大剣を呑み込む。
それと同時に甲冑の背後に術式が展開され、そこから先ほど呑み込んだ大剣が現れてはその使い手である甲冑の背中を縦に貫き、胸部から腹部の範囲を斬り裂き突き刺さる。
それでは終わらず、ソラも甲冑の背後に転送すると、甲冑を貫いた大剣の柄頭を踏みつけた。
踏み込まれた勢いにより、蛇のように唸る刃に突かれていた箇所が砕かれ、四肢を失った甲冑は地面に落下した。
大剣が地面を捉え突き刺さると、小規模のクレーターを作った。
もんもんと土煙が舞い上がり、視界を汚していく。
突き刺さった大剣に貫かれたままの甲冑は首を曲げてソラの方に顔を向け、柄頭を足場にしてその様子を見下ろすソラ。
数秒もしないうちに、甲冑は全身の力が抜けたかのように顔を落とすと、ほのかな光を纏い、体をポリゴンのように散らしたのだった。
残ったのは、大剣とそれを足場にして座り込んだソラのみであった。
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