22話
あれ、一応この物語って俺TUEEEEEEEEEEEE系ってことで書いてるはずなんだけどな……。
と、書きながら思ってしまいました。
「──っつう……!」
痛む左腕を押さえながら、木の根本に座り込み、半獣人化を解く。
半獣人化で全力で走ったせいで乱れた息をひとまず落ち着かせる。それと同時にどっと倦怠感が襲いかかる。
恐らく、魔力の酷使と慣れない半獣人化によるものだと思う。
「クソ……あんなやつがいるなんて聞いてないよ……」
さっきからドクッドクッとまるで鼓動のように痛みを伝え続ける左手に視線を落とす。
中指と薬指の間から二の腕にかけて真っ二つに引き裂かれた跡があり、今は血を包帯のように巻きつけてくっつけてはいるものの、それでも痛々しく走る裂かれた跡はよく目立っていた。
「だめだ……やっぱり身体術式で活性化させても治らない」
同じことを半獣人化と血で試してみたものの、結果は見ての通りである。
「絶対絶命……ってやつかな」
ス……と、オレンジ色に染まりかけている空を見上げてぽつりと呟く。
このような状況になってしまった理由は、今から一時間以上前に遡る。
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一時間以上前、俺とソラはクリスに教えてもらった南西にある森に来ていた。
クリスが言っていた通り、森の中に入って少し進んだところに薬草が密集しているところがあった。
そこで10束を無事手に入れることが出来たので暗くなる前に帰ろうとした時だ。
「……誰かいますね」
不意にソラが呟いた。
横に向いたまま微動だにしないソラに合わせて俺も同じ方向に視線を向ける。
しかし、目を向けたところで木々のせいで肉眼では確認しようがない。
俺は静かに瞼を閉じ、魔力を目に送り込む。
ぐんぐんと目に魔力が満ちていくのを感じる。
そして逆再生するかのように瞼を開けると、その双眸は蒼に変色し、三つ巴の瞳が浮かんでいた。
そう、その瞳はあの夢に出てきた淡紅色の獣毛に覆われた狐と全く同じもの。
魔眼。
「……あ、ホントだ」
幾千とある木々の魔力の流れの中に、人の形をした魔力と、馬と思われる形をした魔力が二つ、計三つの魔力の反応を確認することができた。
さらに、微力でありながらも乗り物のような形をした魔力も見えることからどうやら馬車を運転しているのだろうと思われる。
しかし……
「あの後方から近づいている大きな魔力はなんなのかな……」
そう、馬車の後方からは人ひとり丸呑みできそうなほど大きな魔力の反応がものすごい勢いで馬車に近づいているのが見えた。
「恐らく、怪獣……ではないかと。魔力の反応からして、ランクBの“ワーム”かと思われます」
「ら、ランクB!?」
高ランクの怪獣だとわかってからもう一度、馬車の方を見てみると、急いでいるように見える。
しかし、それでも怪獣の方が速かったらしく、すぐに追い付かれてしまった。
「ソラ!」
「はい、マスター」
ソラの応答とともに、目の前の風景が一変した。
先程までの木々だけの風景ではなく……上空から今にも怪獣に襲われそうな馬車を見下ろした光景であった。
「ちょ、ソラさん!? なんなんですかこれは!?」
まさかの転送先が空中だとは思わなかった俺はソラに講義する。
「……?」
「なにその、「何言ってるの?」みたいな顔」
いや、変化はしてないんだけど、雰囲気というかなんと言うか……とりあえずそう読み取れてしまうのだ。
ソラは顔を正面に向け直すと、すごい勢いで落下し始めた。
「……人間ミサイル?」
ふと、そんな言葉が口に出てしまった。
現に、ソラはミサイルのように怪獣に落下し、その頭部を捕らえると地面に叩きつけた。
轟音と共に、なにやら緑っぽい液体が飛び散る。
「お、おう……」
俺はその光景をなんて言えばよいのかわからないまま天術式をつかい、安全に地上に降りる。
しかし、ソラは何やら作業をしているらしく怪獣の頭部から離れようとしなかった。
気になった俺はソラに近づこうとした。
その時、ソラから何か変な固形物かと思われるものが吹き飛び、森の中に消えていった。
「そ、ソラさん?」
まるで魚を捉えた熊のような体勢でいるソラに恐る恐る声をかける。
「どうかしましたか、マスター?」
姿勢を戻すと、何事もなかったかのようにキョトンとしたソラが俺に振り返る。
「いやー、なにをしていたのかな〜って……」
視線をソラから外し、痙攣を起こしている怪獣に向ける。
大蛇のような太く長く伸びた禍々しい色の体に、牛の顔に下顎から生えた鋭い牙と、悪魔を連想させるとぐろを巻いた角。
説明するならこうなるのだろうが……この怪獣、確かワームと呼ばれた怪獣の現在の状態がなんとも無惨な姿なのだ。
顔はひしゃげ、顔の一部が抉り抜かれており、その断面からは明らかに不味そうな色をした肉が晒されており青緑色の液を垂れ流していた。
「こちらの怪獣はワームといい、ランクBに指定されています。しかし知能は低く、基本的な能力はそこまで高くはなくランクBと名のるには役不足です」
「え、それじゃなんでランクB?」
ソラは俺の言葉を聞くと、視線を足元に落とした。
それに釣られて俺も視線を追ってみて、ギョッとした。
抉られた部分を始め、負傷した箇所からイソギンチャクのような触手が伸びており、ソラの足に絡まりついていた。
「これがランクBの理由です」
そう呟いて、ソラは獣腕から刃を生やすと触手を切り裂くと同時に顔を真っ二つにする。
「圧倒的な復元力。この怪獣は重要部位である、頭や心臓を潰されたとしても、その部位を集めて復元してしまうんです」
ヒョイと俺の隣に移動したソラが説明をする。
確かに、ついさっき真っ二つにされた顔が触手で繋がり、元に戻っていく。
さらに、抉られた部分から出ている触手は森に向かって伸びていた。
「対処法は、先程私が行ったように、重要部位を復元不可のところまで飛ばすのが手っ取り早いです。他には、復元不可になるまで徹底的に分解するか、塵にするかになります」
再度、顔を裂くと今度は天術式を展開し、裂いた部位を転送させてしまった。
「それと、あの触手には猛毒が有りますので気を付けてください」
ソラの説明が終わるとほぼ同時に、彷徨っていた触手がぐったりと倒れてしまい、動かなくなってしまった。
「おぉ……流石はソラ。てか、車椅子おいてきちゃった……後で取りに行くか。んで、馬車の人は大丈夫だったかな」
立つことが億劫になってきた俺はそう呟きながら馬車が走っていた方に振り返る。
すると、馬車は少し離れたところに止まっており、そこから男性が降りると俺達の方に近づいてきた。
「ワームを倒してくれたのかい? 本当に助かった!」
男性は高らかに手を上げて泣きながら笑みをこぼしていた。
「マスター」
「ん? ……あぁ。ソラ、その人任せた」
「え、一体なにぐげっ!」
ソラは静かに頷くと、男性を掴んで馬車の方に跳び上がった。
ぐらり……と、地震と思わしきものが来たと思うと、俺の足元の地面が爆ぜた。
俺も跳び上がるが、爆ぜた地面から現れたのは鋭い牙をたてて、宙にいる俺を食い殺そうとするワームであった。
大人ですら、一口で飲み込んでしまえそうな程大きく開けられた口は俺など一瞬で吸い込んでしまうのだろう。
俺は指を噛み、滲む血を利用して術式を展開する。
展開した術式をワームに向けると、そこから針状の血が出現し雨のように降り注いだ。
痛みによるもののせいか、ワームは勢いを無くし、身を捻じりながら地面に落下した。
「ソラ、その人のこと任せたよ」
もう一振りの刀を抜きさり、ワームと対峙する。
「はい、マスター」
背後に、ソラの言葉を受けて俺は藻掻くワームに斬りかかった。
ソラと馬車の人が去ってから数十分過ぎた。
あれからさらに、二匹のワームが現れたものの、なんとか倒すことができた。
終わった……そう思ったところで“奴”は現れた。
全身を覆う、漆黒の甲冑。甲冑を縁取るように走る銅色。左手は無く、右手には等身ほどの大きさを誇る、剣先が角張って広がり面には文字らしきものが刻まれている黒い大剣を担いで握られている。
そしてなにより、その風格から醸し出される、圧倒的で絶対的な暴力と捉えられる程の威圧。
初めてイヌガミと対面した時と似ている雰囲気。
はっきり言おう、気を抜いていたとは言え、俺はちびりそうになった。
……ごめんなさい、ウソです。ホントは少しちびりました。
「どちら様かな?」
距離を取り、刀を構える。
もしかして、剣聖?
そんな可能性を考えたがすぐに捨てる。
あいつらは化け物に近い人間だ。こんな雰囲気を纏うことは不可能だろう。
なら考えるなら……
「怪獣……かな」
自然と刀を握る手に力が入る。
甲冑の怪獣は足を曲げると、バネのように弾いて俺目掛けて突っ込んできた。
「クッ」
予備動作のおかげで動きを読むことができたので後方に避ける。
甲冑の怪獣は俺がいたところに大剣を振り下ろし、地面を砕き、さらにもう一歩跳び、腕を180度回転させて遠心力をのせた一撃を浴びせにきた。
「うっそ!」
まだ地面に足がついていない俺は避けるのは無理だと判断し、左手を突き出し、天術式を展開する。
ソラのように上手くできるかどうか自身はないが、やるしかない。
成功すれば相手にダメージを与えられる。例えできなくとも、斬撃は防げる。
そう、思っていた俺の確信は、次の瞬間に起こった事に頭が追いつかなかった。
その大剣は、術式に触れると刀身に刻まれた文字が淡く光り、術式を砕いた。
「えっ──」
そのまま振り下ろされた大剣は俺の中指と薬指の間に吸い込まれて……俺の腕を斬り裂いた。
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「とりあえずここから離れないと……こんな事なら半獣人化と魔眼をもっと鍛えとくんだった」
過去の自分に悪態をつくも、過ぎた事なのでどうする事もできない。
ざわっ……と、背筋が凍る感覚にさらされた俺は、本能的に転がるようにその木から離れた。
ズン……。
そんな重い音と共に、寄り掛かっていた木は縦に真っ二つに割られていた。
割られた木から見えるのはあの大剣と、漆黒の甲冑。
「ヒッ!」
反射的に半獣人化し、逃げようと増幅した筋力で跳躍した。
しかし、それ以上の速さで俺に迫った甲冑は胸倉を掴むと叩きつけるようにして投げられる。
「がっぁ────っ!」
左手を下敷きにして叩きつけられたせいで、声にならない声が発せられる。
「うっ、ぁが……っく」
恐らく……いや、絶対に俺の顔は酷いことになっているだろう。痛みによって歪ませた顔を彩るかの様に涙と鼻水と涎がぐしゃぐしゃに混じっている。
「あ……ぅっ」
ぐいっと、倒れている俺の髪を掴み持ち上げる甲冑の怪獣。
最後の抵抗とばかりに魔眼を発動させる……が、その前に木に叩きつけられる。
顔をあげてみると、大剣を突きつけられていた。
死ぬ?
「いやだ」
大剣が振り上げられる。
「まだ死ぬきはないんだからぁぁぁあ!」
振り下ろされる大剣を視界に捉えながら俺は力の限り叫んだ。
今回出てきた大剣は「イルウーン」という武器を大きくしたものだと想像していただければ嬉しいです。




