1話
ここは…どこ?
意識はある…おかしい。
あの時、俺は呆気なくぽっくりと逝ったはずなのに…不思議なもんだ。
…ん?瞼が重いな。でも、開けられない程ではない。
俺は重い瞼をゆっくりと開こうとした。
目を開ければ目の前でケモノっ娘が微笑んでいるのか…それとも閻魔大王様がベタつきそうな笑みを浮かべているのか…どっちなんだろうか。
前者を望みながら目を開けた。
…そこは天国だった。
俺の瞳に映るのは黄金色と白色の2色に分かれて生え揃った毛衣と、ツンとした大きい耳に高い鼻が素敵な狐が…俺の理想としていたケモノっ娘が俺と一緒に横になっていたのです!
しかも息は荒々しく、汗ばんでところどころ纏まった毛並みがとてもビューテェフル!
ダメだ…こんな娘と1つのベッドで寝るなんて、鼻血で貧血…いや、大量出血で昇天してしまう!
…はずなんだが、どうしてだろうか、全くもって興奮しないのだ。
どうしたんだ…どうしたんだ俺!!こんなはずではないだろ!!
とまぁ、色んなことを思っていると、不意に身体を引き寄せられ、そのままハグをされてしまった…そう、目の前のケモノっ娘に。
ぬおおおおおおおおおおおおお!キタ━━( ゜∀゜ )━( ゜∀)━( ゜)━( )━(゜ )━(∀゜ )━( ゜∀゜ )━━!!!!
うっひょーー!と、歓喜。脳内ではドンチャカのお祭り騒ぎ。あぁ…ありがとう、神様。
心の中で神にもう二度と悪態つかずに本気で信仰しようと誓いを立てた時だ。
「良かった…五体満足で何事も無く生まれて来てくれて。」
と、ケモノっ娘が耳元で囁いてきた。
一瞬、俺に惚れたか?と思ったが、どうも違うらしい。
「あぁ、本当に良かった…!よく頑張ったな…そしてありがとう、シエル。」
俺の耳に男性の声が聞こえてきた。
俺とケモノっ娘のお楽しみを邪魔するとは…いけ好かないな。
どんなやつか確かめてやろうと思ったが…何故だろう、首が全く動かない。
てか、ここは天国なんだろ?俺の理想郷なんだろ?なんで男がいるんだよ!
「この子の名前は…リプル。リプルなんてどうかしら。」
「あぁ、いいじゃないか。これからよろしくな、リプル。」
悪態ついてるといきなり知らない名前を言われ、さらにはごつごつした大きな手が俺の頭を撫でてきやがった。
普段なら嫌なはずなのに、この時は全くそんな感情が浮かばず、逆に安心感を得られた。
そのせいだろうか、不意に眠気が襲ってきた。
…もう、いいや。このまま眠ってしまおう。
そう決めてからは早かった。俺はすぐに夢の中にダイブしたのだった。
恐らく、どこかのねずみが嫌いな青狸と一緒に住んでいるメガネもびっくりするんじゃないかな?
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それから1ヶ月。
どうやらここは天国ではないらしい。悲しいね。
まだよく分からないが、ここは異世界だと思っている。少なくともリアルでケモノっ娘がいるなんて地球ではまずありえないからな。
それとどうやらあの狐のケモノっ娘は俺の母親で、ごつごつした大きな手の男性が父親らしい。母がケモノっ娘、父が人間。要するにハーフってやつだ。OH!なんてファンタジー。
ちなみに俺は今、ベッドインしている。何故かって?身体が赤ん坊だからだよ!首は座らないし、言葉は舌の筋力が未発達でろれつが回らないしで大変だぜ。
はぁ、とため息をつくと部屋に金髪ロングの美女が入ってきた。
「リプル、お腹すいたでしょ?おっぱいの時間ですよ〜。」
そう言って金髪ロングの美女はベッドから俺を抱き上げる。
まったく、こんなちっちゃい頃からそんなおっぱいだなんて卑猥いな単語を聞かせるなんてなんと淫乱な人間なんだ。
まぁ、そんなことはどうでもいい。それよりもお腹がすいた。ここ1ヶ月はずっと母乳だからな…早く固形食が食べたい。やっぱり米がいいな。
などと思いながら目の前に出されたさくらんぼに吸いつく。
「いっぱい飲んで大きくなってね。」
と、言って笑みを浮かべて見せてくれた。不思議なもんで、その笑顔を見ると何故かホッとするのだ。これが母の愛情ってやつなのかな?…なんてね。
俺には分からないが、大切にしていきたいね。
…とまぁ、ここでちょっと気になった人もいるだろうから言っておくが、この金髪ロングの美女は俺の母親だ。…そう、正真正銘のあのケモノっ娘だ。
この前、ケモノっ娘から狐耳っ娘になってからの今の姿になる所を目にした。
最初は目を疑ったが、その後にいきなり現れたクモみたいな生き物を見て驚いて耳と尻尾を出していたのを目の当たりにしてからはそういうもんなんだろうと割り切ってしまった。
まぁ、お陰でここが地球ではないことが理解できたからいいんだけどね。
と、乳を啜りながら思うのであった。
「お?シエルここにいたのか…あぁ、なるほど、ご飯の時間なのね。」
この1ヶ月で聞きなれた男性の声が聞こえてきた。
赤毛のツンツンした髪が特徴な男性だ。…まぁ、俺の父親なんだが。
名前はたしかグレイズだった気がした。
グレイズはシエルの隣に来ると俺の母乳を啜ってる所を覗きこんできやがった。なんて事だろうか。恥ずいからやめろ。
「お、吸ってる吸ってる。いい飲みっぷりだな!」
と言いながら頭を撫でてきた。相変わらずごつごつしてはいるが大きくて頼りがいのある手をしている。まさしく父親の手って感じだな。
『えへへ。おとーさんのて、やわらかいね!』
前世の記憶の一部が過ぎる。…悲しいかな、娘にこんなこと言われるなんて。
父としての威厳なんて感じないね!…俺もこんな手が欲しかった。
…あいつ、うまくやってるかな。炊事に洗濯、それに掃除や育児は俺の知っている限りなら教えこんだつもりだ。嫁さんに出しても恥ずかしくはない娘に育てたが…やはり、自分で体験しないと理解できないことがあるからな…。正直、心配だ。
「…リプル、どうしたの?」
心配そうな表情で俺の顔を覗きこんできたシエル。
「どうしたんだシエル。リプルがどうかしたのか?」
「えぇ、急に母乳を飲まなくなったのよ…それに焦点の合わない目でぼーっとしてたから…。」
どうやら、考え事に集中しすぎてしまい啜るのを疎かにしてしまってたらしい。
これはいけないと思い、おもいっきり吸ってやる。
「あんっ…もう、いきなり強く吸わないの!」
怒られてしまった。フッ、大変だな赤ちゃんって奴も。
「わははは!流石は俺の息子だな!」
豪快にそんなこと言い出すグレイズ。
そんなグレイズの発現に「将来が心配。」とシエルが口にしやがった。
なんて母親だ!とは思うものの、なんだかんだでこの暖かな空気が心地よく感じるのであった。