18話
「ここはガキが来ていいところじゃねぇ……さっさと帰れ」
左目に眼帯をした青髪の冒険者は吐き捨てるように台詞を俺に浴びせると、そのまま一枚の紙を手にして外に出ていった。
俺とソラは今、グリムに勧められた通り冒険者ギルドに移動していた。
そこでいざギルドに登録しようと思い、ソラに抱き上げてもらって受付嬢に登録をお願いした時に、先程の青髪の冒険者が声をかけてきたのだ。
よくあるテンプレ的なやつで、意気がって絡んできた高ランクの冒険者をワンパンするイベントかと思ったのだが……そんなことはなかった。
「ごめんね。あの人、色々あって子供が冒険者ギルドに登録する事を嫌っているの……。あまり気にしないで」
カウンターにいる受付嬢が優しく声をかけてきた。
「いえ、大丈夫です。気にしてないので」
本当は色々あっての部分が気になるが、あくまでも気になる程度なので口には出さない。
「そう……。それじゃあ、冒険者ギルドについて簡単に説明するね」
そう言い、受付嬢は説明を始める。
要約すると
・冒険者にはランクがあり、下から順にG、F、E、D、C、B、A、S、SS、SSSとなっている。
・討伐対象である、【怪獣】にも同等のランク付がされている事。
※冒険者の場合は○ランク。怪獣の場合はランク○……と表される。
・ランクによる、依頼制限はしていないが、依頼による被害などは全て自己責任。
ただし、Gランク冒険者のみ特殊な場合を除き、F以上の依頼の受注を制限。
他にはドールロイドは登録不要などがあるが今回は省略する。
しかし、ドールロイドとはなんなのか……まぁ、今はいいだろ。
「それじゃ、これに名前を書いてもらってもいい? あ、字は書ける?」
「はい、大丈夫です」
受付嬢から羽ペンを受け取ると、カウンターに出されたメモ用紙程度の大きさの紙にスラスラとペンを走らせる。
「かけました」
「うん、確かに書けてるね……ふむふむ、リプルちゃんて言うのか! それじゃリプルちゃん、この魔晶結石に手をかざしてちょうだい」
ひょいと、受付嬢はカウンターの下から水晶玉のような物を取り出すと、それをカウンターに置く。
「これが魔晶結石……」
目の前に置かれた、中で紫色と青色がゆらり……とゆっくり揺れる球体を見て俺は目を丸くした。
「ふっふっふ、魔晶結石を見たのは初めて?」
「はい……はじめて見ました」
そう答えてから自分の足に目を落とす。
これがこの義足の素材なのか……。
脳内にちらつく、アリアネとの短くあっという間に過ぎた日々と目の前で起こった長く感じた瞬間。
「……ばっちゃん」
「マスター?」
ソラに呼ばれ、ハッと顔を上げる。
横を見るとソラがいつもと変わらない表情で俺に顔を向けていた。
俺は頭を振って脳内から先程浮かんできた光景を振り払う。
「リプルちゃん、どうしたの?」
顔を前に戻すと受付嬢が心配そうに俺を見ていた。
「あ、なんでもないです……えっと、これに手をかざすんですよね」
誤魔化すように俺は急いで魔晶結石に手をかざした。
どうやら察してくれたらしく、受付嬢はすぐに笑顔を浮かべて作業を開始した。
「すこし、チクリとするけど我慢してね」
俺が手をかざした事を確認すると、そう忠告してから魔晶結石に俺の名前が記入された紙を同じようにかざす。
すると、かざされた紙がゆっくりと魔晶結石に吸い込まれいった。
予想外の光景に目を丸くしていると、親指からチクリと痛みが走った。
忠告されていたといえど、意識が完全に吸い込んだ魔晶結石にいっていたため、つい手を引っ込めてしまった。
「あ、もう大丈夫だよ」
くすくすと笑いながら受付嬢は言ってきた。
どうやら戻そうとしていたのがわかったらしい。よく観察してらっしゃる。
戻しかけていた手を引いて、先程の痛みを感じた親指を起てる。
浅くだが横に切り傷が入っており、血が浮き出てきている。
「……ん」
とりあえず舐めとろうと思って口を開きかけると、俺より先に親指をソラが咥えてきた。
「は?」
ちろちろと切り傷を、暖かく柔らかいソラの舌が優しく舐めているのが感じ取れる。
「ちょ、なにやってるの!」
「あっ……」
ソラの口から素早く親指を抜く。
ツーと途中まで引いていた細い糸が切れて重力に従い落ちる。
「いきなりなにすんだよ……」
「いえ、マスターが怪我していたので。知っていますか? 唾液にはリゾチーム、ヒスタチン、ラクトフェリンなどの殺菌作用をもつ物質や、免疫にかかわるIgAという抗体が含まれています」
「知ってるわ!」
ったく、いきなりなにしてくれるんだか……。
切り傷に舌を這わせながらソラをジトっと見る。
血の味がしないところから既にソラに舐めとられてしまったみたいだ。
「あら〜、若いね〜間接キスまでしちゃうなんて」
「……あぁ」
微笑ましいものを見るような目を向けてくる受付嬢。
言われてみれば確かに間接キスではあるな。
チラリとソラに視線を向ける。
「……?」
反応から見てソラは気にしてないみたいだ。と言うか、そもそもソラはそんな事を考えてないのだろう。純粋に俺のことを思って善意でやってくれたに違いない。
逆に裏があったら怖い。無表情だから何を考えてるのかわからないからな、尚更だ。
そんなことを思いながら視線を戻すと、なにやら魔晶結石から一枚の真っ白いカードらしきものが現れる。
グググ……と、押し出されるようにしてその姿を現すカードは、大体四分の一まで吐き出されたところで動きを止めた。
「手にとってみて」
受付嬢の言葉に従い、カードを手に取る。
「……名前だけ?」
裏側も確認してみる。
しかし、そのカードには“リプル”と名前以外のものが記入されていなかった。
「魔力を込めれば見られるはずだよ」
受付嬢の助言通りに魔力を込めてみる。
すると、一瞬だけ鈍く発光し、ジリジリと文字が浮き上がってくる。
「おぉ……なんてファンタジー」
「ふっふっふ、それがリプルちゃんの冒険者ギルドの一員である証で、身分証明証となるの。文字を消すときは念じれば名前以外なら消えるから大丈夫。……あ、それと注意して欲しいのがギルドカードの紛失。一枚目、今リプルちゃんが持っているカードは無料で提供するけど、二枚目以降は発行するのに青銀貨1枚……50万Gかかるから気をつけるように!」
「ご、50万!?」
手元のギルドカードに目を落とす。
この白色のカードが50万……。
「た、高いんですね……」
「それはまぁ、魔晶結石で生成されたモノだから仕方ないね」
「もし、紛失してその50万を払えなかった場合はどうなるんですか?」
「んー、再登録になるのかな……。そうなると、紛失時の登録情報は初期化しちゃうからもう一度最初からになるから大変だね」
こっちも商売だから。と、最後に付け加える。
受付嬢の話を聞いてからギルドカードに浮かび上がった文字に目を這わせる。
表には名前と性別、年齢に種族、それに冒険者のランクが表示されている。
裏はどうやら使用できる術式が書かれているみたいだ。
「ん?」
ふと、術式の下の欄に目を移す。
そこには、【魔眼】と言う文字が浮んでいた。
「……あぁ」
一瞬なんなのかわからなかったが、すぐに自分の“眼”の事だと理解する。
「なにか、不備でもあった?」
「え、あぁ……いえ、大丈夫だと思います」
「そう……ならよかった。とりあえず、登録はひと通り終わったし……なにか質問はある?」
「んー……あ、そう言えばドールロイドってなんですか?」
説明の中で出てきた初めて耳にする単語があったことを思い出し、尋ねてみる。
「え? ドールロイドって言うのは……その子のことよ」
意外な質問だったのか、受付嬢は少し目を開くと俺を抱き上げているソラの方に視線を向けた。
なんですと?
サッと後ろにいるソラの顔を見る。
「……?」
首を傾げながらそのジト目で俺の顔を捉える。
顔を戻し、再度正面に顔を戻す。
「……ウェイ?」
つい変な声がでてしまう。
「もしかして知らなかったのかな……?」
受付嬢の言葉に俺は黙って頷いた。
「てっきり連れているから知っているのかと思った。……まぁまだ小さいし、仕方ないね」
くすりと軽く笑みを浮かべてから説明してくれた。
ざっくり言うと
「昔の技術を基にした、感情を殺した機械生命体」
だそうだ。
「なるほど……まさかソラがそんなものだったなんて。通りで表情が変化しないわけだ」
そもそも感情がない。……ソラは感情を表すすべを持っていなかったのだから好きで無表情でいたわけじゃなかったわけだ。
それを知ることができて少しホッとしたが、それ以上に寂しいと思えてしまった。
まるで、昔の自分を見ているみたいだ。
「まぁ、最近は喜怒哀楽があるドールロイドも出てきてるから、全部が感情を殺した機械生命体ってわけじゃないんだけどね。とりあえずはこんなところかな、他にはある?」
「いえ、今のところはないです」
「ならよかった。なにかあったら遠慮なく聞いてね? それじゃ、これで手続きはおしまいよ。最後に改めましてようこそ、冒険者ギルドへ! 私はギルドの窓口担当、セシル・アルメート。よろしくね、リプルちゃん」
「はい、よろしくおねがいします」
にこりと笑ってそう締めた受付嬢、改めてセシル・アルメートにつられて俺も笑みを浮かべた。
「ところで、リプルちゃんはこの後どうするの? なにか依頼でも受けるのかしら?」
「いえ、まずは宿屋を確保しようかと。一応お金はあるので……依頼をうけるのはそのあとにしようかな〜って思ってます」
ソラに車椅子に降ろしてもらってから答える。
「あら、だったら私いいところ知ってるよ。ちょっと待っててね」
そう言うとセシルは紙を1枚取り出すと、ペンを走らせる。
その作業はすぐに終わり、俺に渡してきた。
「その地図通りに行けば着くはずだよ。あ、店員さんに私からの紹介って言ってもらえれば安くしてもらえる……はず! あまり期待しないで! でもいいところだから是非行ってみてね」
どうやら書いていたのは宿屋までの経路図だったみたいだ。
「おぉ! 助かります!」
ペコリとお辞儀をする。
「気にしないで。リプルちゃんのこと気に入っちゃっただけだから。それじゃ、気をつけてね」
「はい! なにからなにまでありがとーございます! ソラ、いこっか」
手を振っているセシルにもう一度、頭を下げてからソラに押してもらいギルドを後にした。
お金のことをここに書いておくね。
おっとそこ、手抜きとか言わない。
単位はG
鉄貨1枚=1円
鋼鉄貨1枚=50円
銅貨1枚=100円
赤銅貨1枚=5000円
銀貨1枚=1万円
青銀貨1枚=50万円
金貨1枚=100万円
白金貨1枚=1億円




