15話
最初にいっておこう、キャラ崩壊はしてない(キリッ
「あ……おはようございます、マスター」
「ん、おはようさん……………………………………はい?」
ウォーカーとの会話を終えて目を覚ました俺を出迎えてくれたのは……銀色のショートヘアーにその前髪から覗く、エメラルドグリーンのジト目の少女だった。
寝起き直後によって朦朧としていた意識が一瞬にして覚醒した。
目の前の少女が横になってる俺を膝枕してくれているのだと理解できるほどに。
うむ、よきかなよきかな。
いや違うそうじゃない。
「えーと……どちら様でしょうかね〜」
ニヤけそうになる顔をなんとか抑えて尋ねてみる。
でも仕方なくね? こんなにかわいい美少女に膝枕をされながらいきなり「マスター」なんて呼ばれたら興奮してしまうでしょ。疑う前に欲望が先走ってしまうのはしょうがないと思うのだ。
でもきちんと抑えてる俺はとても偉い。褒めてくれてもいいんだよ?
「……私はマスターの“人形”。それ以上でも、それ以下でもありません」
人形という単語に無意識に反応をしてしまいそうになる。
でもね、違うの。そんなことが聞きたいんじゃないの。
「あー、そういうことじゃなくて……名前が聞きたいかなー」
「ありません」
「え……」
「私に、名前などありません」
即答である。強弱のない単調な“音”。
機械的、という表現がピッタリな音を発した少女の顔からはなにも感じられない。
「そう……。じゃあ、そのマスターってなんのことだかわからないんだけど……説明してもらってもいいかな」
「マスターは私のマスターです。あの時、マスターが私に契術式を施して下さいました。……マスター、ご自身の左手をご確認下さい」
そう言われ、気怠げに左手を上げて見る。
ジャラリと左手に巻いてある鎖。その鎖を辿ってみると……少女の首に付けられた首輪に繋がっていた。
「ご理解していただけましたか?」
俺は無言で体を起こし、少女を見下ろす。
正座を崩すようにして座り、俺に視線を向けながら首を傾げる。
一瞬、可愛いと思ってしまったが、少女の両腕を見て俺はすぐにそんな感情を捨てた。
白銀の獣腕。
「イヌガミ……!」
少女の正体がイヌガミだと知ると反射的に体を後退させる。
そして俺は忘れていた……自分の左手には少女、もといイヌガミに繋がっている鎖が巻いてあることを。
「あっ……」
俺が後退したことによって鎖に繋がっているイヌガミは無理矢理引っ張られる形で体制が前方に崩れる。
鎖の存在に気付いた時にはすでに遅かった。
イヌガミはお尻を突き上げるようにして倒れこみ、俺を上目遣いで捉える。
やべぇ……鼻血出そう。
いやいやいや、こやつはあのイヌガミだ。こうやってキュートで愛くるしく振るまい、撫でに来た俺をガブッと喰らうつもりだ。抑えろ、抑えるんだ俺!
己の欲求と死闘している俺に、何を思ったのか、イヌガミはくるりと体を反転させて自分自身のお腹を見せてきた。
これは……
服 従 ポ ー ズ
とんでもなく、あられもない姿を晒してきやがった。犬か? お前は犬なのか? イヌガミだから犬みたいな行動を取るのか? 安直すぎるだろ。
そんなに俺を殺したいの? このままじゃ俺死ぬよ? 萌えきゅん死するよ? 鼻血垂れ流して大量出血で死ぬかもよ?
「マスター」
「な、なんだよ……」ハァハァ
息を荒くしている俺に、イヌガミは相変わらずのジト目を向けながら言葉を続けた。
「私はマスターの人形。私の使命はマスターに従い、尽くすことです」
イヌガミの表情は変わらない。無表情で服従ポーズ。
ぶっちゃけるよ? すごーくシュールなの。
でも、イヌガミの事は信用してもいいと思う。
なんやかんやでこうして敵意は無いと主張してらっしゃるし、いつの間にか契約してるみたいだし……というか心当たりがあるからな。
それに、ウォーカーは何故か気にかけていたみたいだしね。
「使命ね……。それって俺の命令は全て聞くという捉え方でいいのかな?」
「それが私の存在意義であります」
「それじゃ……とりあえず、お座り」
「はい、マスター」
それは一瞬の出来事であった。イヌガミは俺の命令を聴くと、目にも止まらぬ速さで服従ポーズからお座りの体制に移ったのだ。
こいつ……できる!
「お手!」
「はいマスター」
「おかわり!」
「はいマスター」
「ふせ!」
「はいマスター」
「チンチン!」
「はいマスター」
「……バーン」
「はいマスター」
流れるように指示に従い、最後は華麗に散っていった……。
まぁ、指先を向けて銃を撃つふりをし、それに応じて死んだふりをしただけなんですけどね。
しかし……すごいぞ。ガチで極めてやがる。もう完全に犬ですわ、犬。
もう疑う必要もないだろう。この娘は俺のものだ、グヘヘ……ゲフンッ! 失礼。
「うん、君の熱意はよーく伝わった。俺の心は震えているよ……君の信念を感じてね」
「ありがとうございます、マスター」
「……もう大丈夫だよ、楽な格好してもいいんだよ」
「はいマスター。お心遣いありがとうございます」
イヌガミは体を起こすと、俗に言う女の子座りっていう座り方でちょこんと腰を落とした。
……うん、かわいい。
「えーと……あ、そういえば呼び方なんだけどなんて呼べばいいかな?」
そう尋ねながら俺も腰を下ろした。
「呼び方……ですか?」
「うん。やっぱり名前がないとこれから色々と不便じゃない?」
イヌガミは俺から視線を外し、何かを考え始めた様子。おそらく、自分の呼び方についてだろう。しばらくしてイヌガミは視線を俺に戻し、口を開いた。
「……マスターは私をなんて呼びたいですか?」
「ポチ」
あ、しまった。つい本音が。
「ポチですか?」
「いやちがう、ちょっと待って……」
「……認識完了。私の識別名称はポチ。マスター、改めましてよろしくおねg」
「待て待て待て、落ち着くんだ。本当にそんな名前でいいのか!?」
「マスターから頂いた名前です。とても嬉しく思います」
全然嬉しそうに見えないんですけど? 無表情+棒読みじゃ、まるで無理矢理言わせてるみたいじゃないか……。
てか本当にポチでいいのかな……? ポチ、ポチ……うん、ダメだ俺が耐えられない。
「申し訳ないんだけど……名前、別のにしてもいい? てか考え直させてくださいお願いします」
「マスターがお好きなようにお呼びください」
よしきた。
本人からの許可も得られたことだし、早速……。
シロ、ラッキー、モモ、チーズ、おヘソちゃん……うん、ダメだな。
もういっそうアマテラスにしてみようかね……ダメか。そもそもアレは狼だし、神様だし……。
あ、そういえばイヌガミって天術式を使うんだっけ。
天……か。
……よし。
「決めた。お前の名前はソラだ!」
「……ソラ、ですか」
「あぁ、ソラだ! ……もしかして気にくわなかった?」
自信があっただけに、表情がピクリとしないイヌガミをみて不安になるが、イヌガミは首を横に振った。
「いいえ、マスターから頂いた名前です。喜びはあれど、気にくわないと思うわけありません。……私の名前はソラ。マスター、これから末永くよろしくお願いします」
ペコリと、頭を軽く下げるイヌガミ……いやソラを見て俺は大きく頷いた。
「うん、よろしくね……ソラ!」
昨日の敵は今日の友!
俺はソラに笑顔を向けた。
リプル「てかこの鎖ってどうすればいいんでしょうかね?」
ソラ「その鎖はマスターが念じていただければ伸縮は勿論のこと、消すこともできます」
リプル「あ、ホントだ。なんて便利な鎖なんだ!」
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