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13話

 前半、キャラ崩壊ある……かも?

 「……ゑ?」


 ゆっくりと、まぶたを開くと、ほんの数ミリ先でピタリと静止している、爪のように生えた3つの刃が目に映った。


 目の前には微動だにしない、連獅子のような白銀の髪型に狼を連想させる仮面をつけた化物……イヌガミ。


 何故このような状況になっているかというと、ほんの数分前に遡る。









 (;´-`).。oO(









 術式が破壊されたことにより起こった余波に俺は飛ばされ、木に背中を叩きつけられた。


 魔力切れにより、体が思うように動かせない。

 息をするのがやっとである。


 そんな中、雪を踏みしめる音が聞こえる。


 もう、周りの空気が暖かく感じるぐらいに冷え込んでいるのに、さらに恐怖によって背筋に悪寒が走る。


 足音の主は言うまでもない、イヌガミである。


 あれだけの魔力を放ちながらもなお、立ち上がって近づいてくる……災厄の獣は伊達じゃない。


 やっと整ってきた呼吸が荒くなるのを感じた。


 俺の人生ハード過ぎんだろ……。転生者なんだしさ、もっとこう、ガバガバのゆるゆるなイージーモードになるもんじゃないんですかねぇ……。


 なんて思っていると不思議と落ち着いてきた。


 気がつけばイヌガミは目の先だ。すぐそこに堂々と立っているのだ。

 腕を振るい、3つの刃を出現させる。


 イヌガミを見上げるように顔を上げる。

 相変わらずの仮面で、表情が全くわからない。


 イヌガミはゆっくりと、腕を振り上げる。

 とどめを刺す気なのだろう。

 俺は目を閉じ、息を止める。




 ひとおもいにやれぇぇぇぇぇぇぇぇ!






 風を切る音と共に、振り下ろされる気配がした。



 いたいっ!





 ………あれ? 痛くない!





 いつまでたっても自分の意識が飛ばないことに違和感を覚えている俺に、降ってきたのは言葉だった。


 「……魔力残量、0(ゼロ)。全機能、完全停止します」


 無機質で機械的な声。

 それにつられてゆっくりと、本当にゆっくりと瞼を開けた。


 そして、話しの先頭に行くわけである。



 ある程度、休んだことにより魔力が回復した。

 魔力を義足に送り、突き立てられている剣先に気をつけながら立ち上がる。


 「……なん、だと?」


 目の前……そう、すぐ目の前にはくぼみがあった。綺麗で美しく、とても美味しそうな窪み。


 こんなところにあったのか、世界の中心は!




 ……いやまぁ、おへそなんですけどね。

 誰のかは言うまでもなく、目の前で静止しているイヌガミだ。


 性別はわからない……しかし、このへそ周りの肉厚感! 太ってはいない……しかし、こう舐めまわしたくなる質感というか、最高の見た目をしているのだ。


 しかし、イヌガミの性別はどちらなのだろうか……。仮面越しに聞こえてきた声はくぐもっていて判断しかねる。


 チラッと、上の方を見た。

 その瞬間、俺の悩みを吹き飛ばす。

 丈が短い服の下からわかる、程よい2つの膨らみに、ツンとしたポッチ。


 俺は視線をへそに戻した。


 あぁ……やるしかない。


 「……術式、展開!」


 バッ! と、左手を広げて魔力を集中させる。

 展開された術式はこれまでに無いくらい大きくそして……信念を感じさせる強い光を放っていた。


 「今、この瞬間に! 俺がやらないでいったい……いったい、誰がやるんだよぉぉぉお!」


 掛け声と共に突き出された左手は、その聖域おへそをしっかりとらえた。




 術式はさらに輝きを増し、世界と共鳴する。





 「……なるほど。確かにこれは災厄だな……合格だ」


 バチッバチッ! と共鳴した左手に残るしょっかんを感じながら俺はフッと笑った。


 あぁ……世界とはなんと素晴らしいのだ!


 イヌガミから離れてそう思う。

 俺は振り返ろうとして───やめた。

 俺は振り返らない。世界の厳しさと、そして……最高の絶景地おへそを堪能させてくれたイヌガミに俺は感謝を心で唱える。


 ありがとう、イヌガミ。俺はお前が魅せてくれた希望おへそのおかげでまた歩み出せる。


 そして俺は決意する。この世界に眠る、理想郷おへそを絶対に探しだすと!


 「……ありがとう」


 最後に、そう言葉を残して俺は進み始めた。


 そして3歩目を踏み出した時だ……俺は、その場に倒れた。


 まさか、そんな! こんな大事な場面で


 「……魔力切れだなんて」


 クッソオオオオオオオオオオ!





☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆゜+.☆






 「……えっと、ばっちゃん。体は大丈夫なの?」


 「あははは大丈夫! ……とは言えないね。でもまぁ、心配するんじゃないよ」


 ぐしぐしと、俺の頭を撫でるアリアネ。

 俺が2回目の魔力切れを起こしてすぐにアリアネの意識が戻り、倒れてる俺を見ては瓶に入った変な液体を飲ましてきたのだ。


 すると、からっからだった魔力が今こうして歩くのに支障のないぐらいに回復したのだ。


 この世界にあったんだな、エー○ル。


 「それにしても、よくイヌガミを相手に生きてたね」


 「いや、正直死ぬかと思いました」


 今思い出すだけでも身震いが止まらない。

 ほんと、自分は運が良かった。あそこでイヌガミが魔力切れを起こしてくれたおかげで俺はこうして生きてる。


 「でも、イヌガミサマが使っていたあの術式はなんだったんでしょうか……」


 戦闘中はそんなこと考える暇なんてなかったが、気になっていたのだ。


 「あれは天系の術式さ」


 アリアネの言葉を聞いて俺は驚いた。

 名前だけは知っていたが、効果までは本に書いてなかったので勉強になる。


 「長老に聞いた話しだと昔はあの剣聖に匹敵する程だったらしいよ」


 「剣聖って、まさかあの……?」


 「そうだよ。……もしかしたらイヌガミは本気を出してなかったのかもね。あたしらが相手出来たぐらいだしね」


 ウソでしょ? あれでもいっぱいいっぱいなのに、ガチったらあれ以上に強いの? さらに剣聖はそれに匹敵するって……ばっちゃん、なかなか笑えないッスよ。


 なんて話しながら村に向かっているとなにやら煙たい臭いが鼻を突く。

 しかも、村に近づくにてれてその臭いはどんどん強くなっていき……


 「ばっちゃん」


 「リプル。急いで村に向かうよ!」


 アリアネの言葉に頷いて、俺とアリアネは煙の上がっている方向に走りだした。








◇◆◇◆◇◆◎◎◆◇◆◇◆◇








 「……なんなんだい、これは」


 目の前に広がる光景に、アリアネが言葉を絞り出し、俺は絶句した。


 燃えているのだ。村全体が見るも無残に破壊され尽くされ、煙のほかに生臭い臭いが村に漂う。


 アリアネは目じりを釣り上げて走りだし、俺もそれに追従する。


 向かった先は大きくひらかれた広場だ。

 中心部には銅像らしきものが立っていた形跡があった。


 ……あ、向こうの方に転がってる銅像がそうみたいだ。


 「……リプル、アンタは早くここから逃げな」


 「なんで、いったいどうし───」


 しかし、アリアネの顔を見た瞬間、最後まで言葉が出なかった。

 汗を流し、顔を真っ青に染めているのだ。


 いったい何が……。


 そう思った矢先に、向こうの方からひょうひょうととした声が聞こえてきた。


 「あれあれ? まだ生き残りがいるじゃん。ったく、あいつら全員殺っとけって言ったのに……ホント使えねーなぁ」


 声のする方に顔を向けると、そこには甲冑を纏った騎士らしき者が近づいていた。


 騎士。


 その姿に一瞬身構えるも、あの青い騎士ではないとわかった。


 右手には、刀身になにかルーンらしきものが刻まれた両刃の剣が握られており、左手にはなにやらボールのようななにかが握られているようだが……。


 そこまで見て、左手に握られているのが頭だと理解した。

 しかも握られているのは、今日初めて出会った者のであったが、印象的な人物……そう、この村の長老であるマイケルの頭であった。


 「……アンタがマイケルを?」


 怒りを抑えつつ、騎士に訪ねる。


 「あぁ、マイケルって言うんだ、このおっさん。そうだよ、俺がこのおっさんを殺した。【武帝】って聞いてたからさ、楽しみにしてたのに……全く、期待外れだったよ」


 やれやれといった感じに発する騎士に怒りを爆発させるかのように、アリアネが殺気を飛ばす。


 「……リプル、逃げな!」


 アリアネは右手に術式を展開し、声を上げながら騎士に向けて走りだした。


 「はぁ……弱いんだから素直に殺られなよ」


 アリアネの胸に剣を刺し込み、術式が砕ける。

 そして、騎士はそのまま剣を斬り上げた。

 胸から頭部にかけてぱっくりと割れ、地に伏せた。


 なんなんだよ、これ……。非情過ぎんだろ……。


 しかしそう思ったと同時に、脳裏に前世の記憶がフラッシュバックした。



 逃げようとした男の足首を斬り飛ばし、逃亡を阻止する。命乞いをしてくる男の眉間を迷いなく貫いた日本刀。

 男から日本刀を抜き、アスファルトの地面に無様に崩れ落ちる男だった物を、無表情で見下ろしたのは……俺だった。



 あぁ、わかっていたことじゃないかな。世界はこんなにも非情なんだと……。


 「この村に住んでいた人たちはなんて幸せなんだろう……だって、この剣聖様に殺されたんだからな!」


 剣聖……か。


 「ははは……」


 つい、笑ってしまった。

 俺はなんやかんや言ってまだ純粋なところがあったんだな……まさか、自分の中の剣聖のイメージが崩れるなんて。


 「安心しなよ。君もすぐに送ってあげるからさ……このざこと、同じ所にね!」


 地に伏せているアリアネだった物を踏みつけて高笑う騎士。


 その光景を目の当たりにしているのに、自分でも驚くくらい冷静であった。


 前世の感情が蘇るのがわかる……いや、あの頃の俺には感情なんて優しいものは抱いてなかった。


 ありとあらゆる事に対し、関心を持つこともなく、無心で動く人形。


 思考がどんどん支配されていく。

 考えることを、感じることを、思うこと全てを放棄しかけたときだ。



 俺の中に眠っていた “それ” は……沈みかけていた俺の心を、優しく、そして力強く包み込んだのだった。


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