12話
やっと書きたかったところが書けた!
戦闘シーン!
「……わたし、やっぱり戻る」
洞窟から逃げだして森の中をしばらく走ったところでローゼが不意に足を止める。
「おまえ、なにいってんだよ!」
ローゼの言葉に敏感に反応したのはカーネルだった。
「だって、アリアネさんがしんぱいで……」
ローゼはすすり泣き気味にゆっくりと口にした。
そう、今こうして俺たち4人が洞窟から出られたのは、駆けつけてくれたアリアネが身を徹して応戦してくれたおかげだ。
はっきり言うとこのまま逃げたい。
あの、イヌガミと呼ばれたモノに勝てるイメージがわかないのだ。全部敗北しており、ダルマにされた後に串刺しにされ、焼いて食われるビジョンが脳内で何回も再生される。
焼くよりは茹でたほうが美味しいよ? ポン酢で食べてね?
「ボクらが行ったところであしでまといになるだけだよ」
悔しそうに言うタッペイの言葉に、ローゼは反論しようと口を開くも言葉が見つからずに閉じてしまった。
「……とりあえず、今はこのことを長老に伝えよう。そうすれば村の方は最小限の被害に抑えることができるし、誰かが応援にきてくれるはずだから」
「リプルちゃん……」
涙で顔をぐしゃぐしゃにしながらローゼは言葉を続ける。
「おうえんってなに?」
そんなことどうでもいいだろー!
スパーン! とローゼの頭をハリセンでフルスイングを心の中で決める。
「助けに来てくれるって意味だよ。さぁ、意味が分かったところで早く村に────」
行こう。と言おうとした瞬間。
背筋が凍る感じがした。
「伏せて!」
本能の赴くままに、大声を上げて無理矢理3人を伏せさせたとぼぼ同時に、背後から耳を塞ぎたくなる轟音と共に衝撃波に乗った雪が吹雪となって襲い掛かってきた。
しばらくして吹雪が収まり、俺は体を起こし、俺は絶句した。
周りを見渡すと木々がなぎ倒されており、そのうち数本は根本から抉り取られていた。
そしてなにより、俺を絶句させたのは……。
「ば、ばっちゃん?」
そう、俺のすぐ背後に雪を吹き飛ばして倒れている、アリアネであった。
しかも、先程の生き生きとしたオーラは漂っておらず、左腕は肘辺りから先が切断され、左の脇腹が抉られている満身創痍の姿である。
「ばっちゃん……大丈夫かよ、ばっちゃん!」
すぐに駆け寄り、震える手でアリアネに触れるものの、虚ろな目で動く気配が感じられない。
急いで傷口を見るも、すでに止血しており、手を加える必要はないと判断した。
それでもアリアネの姿に動揺を隠せない俺の耳に、雪を踏みしめる音が入ってきた。
「……イヌガミ」
顔を上げると、洞窟の方からイヌガミがこちらに近づいて来る。
両手からは片方3つ、合計6つの爪刃をギラギラと光らせている。
なんかあれだね。どっかのデジタルな世界にいそう。
いや違うそうじゃない。そんな事を気にしている余裕はない。
「あ、アリアネさん!」
顔をあげたローゼがアリアネの姿を見て声を上げる。
ローゼの声に反応し、アリアネを見たカーネルとタッペイが顔を青くする。
「3人とも。早くここから離れるんだ」
「え、リプルちゃんなにをいって──!」
俺の言葉に疑問を抱いたローゼが問おうとしたが、洞窟の方向にイヌガミの姿を見て言葉を飲み込む。
「で、でもリプルちゃんは? それにアリアネさんも……」
「大丈夫。ばっちゃんは俺が守るから」
がりっと右親指の腹を噛み切り、血を滲ませると左の手のひらに塗りたくる。
「だから早くいって」
「で、でも」
ローゼの言葉を遮るように、俺は左手に術式を発動させる。
「早くいけ!」
いつまでもうじうじしているローゼに怒鳴る。
それを合図に、イヌガミがこちらに生やした爪刃を向けながら飛び込んできた。
「うらあぁぁぁぁあ!」
全身の血を滾らせるように魔力を送り込み、身体強化を行う。
赤黒い術式がさらに強く光り、俺は術式から一振りの刀を振り抜いて迎撃する。
グンッとイヌガミと俺の攻撃がぶつかり、衝撃が大気に響く。
痺れる腕に力を込め、イヌガミを弾き返す。
数回転してから数メートル離れたところに着地するイヌガミ。
「……早く」
振り向かずに発する。いや、振り向けるはずがない。
おそらく……いや、確実に目を離したら殺られる。
俺の言葉に対して返事はない。しかし、3人の気配が遠ざかっていくのがわかる。
全神経を目の前の化物に集中させる。
雪が降り、足下が安定しないこの悪条件での戦闘。
自然と刀を握る手に力が入る。
「……目標、変更します。敵を、殲滅する」
無機質で単調。だが、それでもはっきりと聞こえた。
喜怒哀楽を感じさせない声音。
そしてイヌガミがこちらに向かって走りだした瞬間────消えた。
いきなりである。文字通り、視界からイヌガミの姿が消えたのだ。いや、姿だけではない、気配も全てだ。
全神経を向けていた対象が消えたことにより、神経を拡散して気配を探る。
そして、その対象が俺の背後に現れた。
捉えたとほぼ同時に振り返る。
「なっ!」
目の前の光景に俺は驚愕した。
まず、俺が目にしたのは爪刃を突き出そうとするイヌガミの上半身。次に写ったのが、上半身の根本の部分。
そこには、淡く光る蒼銀色の術式が浮かんでいた。
「クッ!」
突き出された爪刃を刀で弾き返す。
イヌガミはそれが分かっていたかのように、俺の目の前で蒼銀色の術式を展開しそれに飛び込み、姿を消す。
「……なんだよあれ」
少し離れたところの上空に術式が現れ、ストンとイヌガミが姿を現し着地する。
術式での移動手段。見た限りでは転送に近いものだろうか。
非常に厄介である。あの術式で移動している間は完全に存在そのものを遮断している。
ただし、今のところ出現地には術式による魔力の流れとイヌガミの気配が現れるので油断をしなければ対処はできる。
「ふぅ……」
体に溜まったものを吐き出すようにひと息つく。
白い息が降雪に逆らって上昇する。
俺は刀身を左手の平に押し付けて、引き抜いた。
斬り裂かれた手の平から血しぶきが舞う。
グッと握り締め、俺は走りだした。
握り拳の中に溜め込んだ血を扇状に散らすようにして腕を振るう。
そしてイメージする。針状に尖った血しぶきがイヌガミに一直線に飛ぶところを。
それが現実に反映される。風を切り、雪を貫いて何百もの針状の鋭い血がイヌガミ目掛けて襲いかかる。
イヌガミはそれを避けることはせず、術式を展開させることによって、その攻撃を防ぐ。
さらに、もう一つ術式を上に作り出し、そこから防いだ針状の血を俺に返してきた。
おそらく、転送によるものだろう。
迫り来る針の雨に俺はお構いなしに走り続ける。
何故だかわからないが、大丈夫だと確信があったのだ。血の力を扱うのは初めてのはずなのに、頭の中に自然と戦い方が浮かび上がってくるのだ。
左手を前に突き出し、術式を展開。その術式に触れる血を無力化し、術式の中央に集める。
触れなかった血は雪に刺さり、魔力切れによって液状に戻る。
攻撃が止むと同時にイヌガミの頭上に跳躍し、集めた血の塊を投げつける。
イメージをするのは、対象を捕縛する輪っか。
血はイメージ通りに輪っかを作り、イヌガミを通すと捕らえるために縮小する。
しかし、イヌガミはそれを俺の方に転送させて逆に俺を捕らえにかかる。
もちろん触れる前に無力化し、液状となった血を槍状に作り直してイヌガミに降らせる。
それすらも転送で俺に返してくる。
もちろん、当たる前に無力化して着地する。
少し……というか、かなりクラクラする。術式の連発と義足に魔力を送り続けているせいだ。
イヌガミがこちらに振り返ると同時に間合いを詰め、切り上げるようにしてイヌガミに刀を振るった。
それでも動じないイヌガミは刀の軌道の先に術式を出現させ、転送させる。
その転送の先は、俺の首筋であった。
勢いに乗った片刃が首筋目掛けて振り下ろさせる。
もちろん、この勢いを殺すことは不可能である。
刀身はしっかりと俺の首筋を捉えて……豪快に折れた。
「おりゃぁぁぁぁぁぁあ!」
左手にもう一振りの刀を出現させ、イヌガミに突き出した。
その剣先がイヌガミを捉えることはなかった。空振りである。
しっかりと後退したのだ。
そう、初めてイヌガミは回避行動を起こした。
そして俺はついニヤけてしまった。
イヌガミが後退したところは、先程の針状の血が液状に戻り雪に染み込んだ、辺り一面が赤黒く染まっているところだ。
俺は膝をついて右手を雪の上に添えて術式を展開した。
異常に気がついたイヌガミはその場から跳躍するも、何かが足首を捉えてそれを阻止した。
イヌガミを捉えたのは、一本の赤黒い鎖であった。
それを境に、次々と鎖がイヌガミの四肢に絡み、腰を締め、首を縛った。
完全に囚われたイヌガミは藻掻いて抵抗を見せるがそんなもので解けるほど軟ではない。
これを解く方法は簡単だ。
術者を殺すか、今イヌガミがやっているように込められている魔力以上の魔力で無理矢理壊す方法だ。
…………え?
「ウソでしょ!」
慌てて魔力を流し込み始める。
義足の方の魔力を切って、全力で流し込む。
目の前がチカチカし、意識も朦朧とし始めるがそんなことに構ってられなかった。
しかし、いくら送りこんでも抑えることがやっとであった。
時間にして数秒。だが、体感では何十分何時間にも感じられた時だ。
ぷつり……と、魔力が途絶えた。もちろん、俺のだ。最悪の展開、魔力切れである。
瞬間、術式に亀裂が走り────────
術式が、爆ぜた。
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