表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/40

11話

 「ねぇ……やっぱり帰ろうよ」


 「ここまで来といてなにいってんだよ」


 カーネルの裾を引っ張りながらローゼは今にも泣き出しそうな顔で言う。しかし、泣きそうなローゼとは逆にカーネルは興奮気味に先を進む。


 タッペイは俺の車椅子を押してくれている。最初は大丈夫だと断ったのだが、タッペイなりの心づかいなのか引かなかったので今は押してもらっている。


 今、俺達は村を囲う森の奥にある洞窟に来ている。

 カーネル、ローゼ、タッペイと合流したあと、カーネルがどうしても行きたい! というわけでやって来たのがこの洞窟だ。


 この洞窟には昔々、それはもう遠い昔に村を襲っていた化物が封印された祠が奥にあるらしい。

 そして今回の封印に関するアリアネの呼び出し。


 これは怪しい! と思ったカーネルのわがままに付き合わされている感じだろう。


 「……カッちゃん、ぼくはそろそろ帰ったほうがいいと思うな〜」


 洞窟に入って数十分過ぎた位だろうか。

 不意にタッペイがそんな事を言い出した。


 「そ、そうだよ! そうしようよカッちゃん!」


 ここぞとばかりにローゼは早くこの洞窟から帰るために、カーネルを説得しだした。

 しかし、カーネルは耳を貸そうともせずに無視をし続けるが、それでもめげずに裾を引っ張ったりして説得を続けるローゼ。


 「帰りたきゃじぶんだけで帰ればいいだろ! しつこいんだよ!」


 どうやらあまりにもしつこく「帰ろ帰ろ!」といってくるローゼに腹を立たせたらしいカーネルは振り返ると、ローゼを突き飛ばして怒鳴った。


 「だって……だって、ふぇ……えぇぇぇぇん!」


 不安と恐怖に駆られているところに、友達に突き飛ばされた挙句、怒鳴られたことによって我慢していたものをすべて吐き出すかのように泣きだしてしまったローゼ。

 俺が動く前に、タッペイがローゼに近寄って慰め始める。


 「流石にやり過ぎじゃないかな?」


 「お、おれはわるくねーし。ローゼがしつこいのがわるいんだし……」


 カーネルの目を見るようにして顔を向けると、ばつが悪そうにして俺から視線をそらした。

 口ではそう言いつつも顔を見る限り、ローゼに対して悪いことをしたという自覚はあるみたいだ。

 とりあえず、ローゼに謝らせようと思ったときだ。

 カーネルの背後になにやら人影らしきものが現れる。

 そして……カーネルが倒れた。


 「タッペ───っ」


 すぐに危険だと察知した俺はタッペイとローゼに逃げるよう叫ぼうとしたが、その途中で顔を掴まれ、壁に投げられる。


 「ってぇ……!」


 背中からもろに叩きつけられ尻餅をつくも、すぐに顔を上げて応戦しようとするが……


 「うっ……参った」


 目の前に、突き付けられる剣先を見て両手を上げる。


 「賢明な判断じゃな」


 両刃の剣を突き立ててくる薄汚れたローブを羽織り、顔はフードによって見えないものの、そこから白い髭が伸びている老人らしき者は愉快な声音で発したのだった。





☆.。.:*・゜ ☆.。.:*・゜ ☆.。.:*・゜ ☆





 「っ……」


 先程の光景を思い出しては悔しさのあまりに顔が歪む。

 カーネル、ローゼ、タッペイの3人が地に伏せて気絶し、危険を察知した俺は無様にも尻餅をついて剣を突き立てられて降参する光景。時間にして、十数秒と経過してない一瞬の出来事。

 あまりにも無力な自分に腹が立つ。


もっと早くあの老人の存在に気がついていれば……。

 ……いや、もう過ぎた事だ。いつまでも引きずるのはやめよう。


 頭を左右に振って、思考を切り替えて現状把握を優先する。


 あれから老人に手を縄で縛られた俺と足までも縛られた気絶している3人は洞窟の奥に連れて来られた。

 ドーム状にくり抜かれた空間を照らすのは数箇所に灯っている松明のみ。

 そしてこの空間の中央部分には、カーネルたちが言っていたと思われる祠が祀ってある。

 その近くにはあのローブ姿の老人がなにやら忙しく動いていた。


 「いっててて……ん? どこだここって、なんじゃこりゃあ!?」


 どうやら目が覚めたらしく、カーネルが縛られている現状に驚き、声を上げる。


 「う……ん、カッちゃんうるさいよ……て、なになに! なんでしばられてるの!?」


 「うわあ、ホントだ。しばられてる」


 意識が戻ったローゼとタッペイも驚きを隠せない様子だ。

 いや、訂正。ローゼは驚きを隠せない様子。


 タッペイは相変わらずのマイペースだ。すごいぞこの子。将来は有名な花屋さんになるだろう。


 「おぉ、気がついたか少年たちよ」


 「だれだじーちゃん」


 近づいて来た老人に対して真っ先に口を開いたのはカーネルだ。


 お前、誰にでもそんな態度だな。


 「儂か? 儂はジョゼフ」


 「おれはカーネル!」


 「あ、わたしはローゼ」


 「ぼくはタッペイだよ〜」


 「ちょっと待てぇぇぇえい!」


 乗れなかった。この流れに俺は乗れなかった。

 この状況で乗れるほど俺の心は純粋ではなかった。


 「お前ら今の状況わかってる!? 捕まってるの! 目の前にいる……えっと、ジョゼフさん? に俺らは捕まってるの!」


 よし、落ち着こう。熱くなるな、冷静になれ。


 少し火照っている体を冷ますように深呼吸を2、3回行う。


 「だってほら、なのられたらきちんとかえせーってカーチャンがいってたし」


 カーネルが「なにいってんだおまえ」と言いたげな顔を向けてくる。

 ローゼもタッペイも同じような顔でこちらを見てくる。


 あれ? 俺が間違ってるの? ねぇ、もしかして俺が間違ってるの!?


 ……

 ……

 ……


 「リプルです」


 納得いかない。でもそう思ってしまう、汚れてる自分を見てなんかすごく悲しくなった。


 「どれ……それじゃあ、始めるとするかな」


 そう呟くと、ジョゼフは俺らから離れ、祠の方に進んだ。


 「少年たちは運がいい。この地に眠る、封じられた災厄の獣、イヌガミサマを目の前で拝めるのだから……」


 イヌガミサマ? ……まさかね。

 

 懐から、あの両刃の剣を抜くとジョゼフは躊躇いもなく自分の胸に突き立てて、力を込める。

 ジョゼフの背中から刀身が現れると、膝をついて吐血した。


 「じーちゃん!」


 「ジョゼフさん!」


 「うわあ、いたそう……」


 カーネルとローゼが叫び、タッペイは顔を背ける。


 しかし、そんなジョゼフの足元からいきなり赤黒い光が大地に刻むように走り、術式を描いた。

 それを待っていたかのように、ジョゼフは両手を術式の中心に添える。


 『我が名のもとに命ずる。この地に眠りし災厄なる獣よ、我が魂を糧にその災いを解き放たん……!』


 ジョゼフが詠み終わると、術式の輝きは一層増し、大地を揺るがした。


 そして俺は一瞬で理解した。今、目の前で行われた術式が契術式であると。


 そして次の瞬間……術式が爆ぜた。


 周りを襲う爆風に直視すれば失明もあり得る程の光に晒される。


 揺れがおさまり、風はやみ、光が消えた。


 ゆっくりと、閉じていた目を開ける。


 「なんだよ、これ……」


 目の前に広がる光景に俺は目を見開いた。

 ジョゼフを見下ろすかのように、祠の上に佇む人……いや、それは人と異なる存在であると判断する。


 歌舞伎の毛振りに使用されるかつらの様な銀髪に、狼を連想させる仮面。両腕を覆う、白銀の獣腕。


 人の形をした、災厄。


 「イヌガミ……サマ」


 そう、俺が呟いたと同時にカーネルが走りだした。


 「うわあぁぁぁぁぁあ!」


 顔を真っ青にしたカーネルが叫びながら入り口目指して走る。


 「バカ!」


 仮面を被っているせいで、中の表情は伺えないものの、イヌガミは確かに捉えていた。


 「くっ!」


 義足に魔力を込めて、カーネルに向かって走りだす。一歩遅れてイヌガミが消えた。

 一瞬にしてカーネルのもとに現れるイヌガミは左腕を振り上げる。

 その指からは、爪と形容しがたい、3つの刃を出現させていた。


 間に合わない……。


 ドクンと、心臓が飛び跳ねた気がした。

 次第に早まる鼓動。

 足に魔力を送り込み、思いっきり走る。

 腕を伸ばすも、距離は縮まらない。

 俺の苦労も虚しく、3つの刃が無慈悲に振り降ろされた。


 衝撃波が発生し、土煙が舞う。

 俺は力なく、その場に膝をついた。


 「守れな……かった」


 自分の無力さを嘆き、視界が歪む。

 意識が暗転しそうになった瞬間。


 「全く……手間の掛かる子供らだね!」


 力強い、生き生きとした女性の声が俺の耳に響いた。


誤字や感想、その他何かありましたら気軽にコメントください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ