10話
アリアネの家から30分ぐらい歩いたところに、カーネル、ローゼ、タッペイの3人が住んでる村がある。
村に入ってから3人とは別れてそのままアリアネと共に長老の家に進んだ。
長老の家に来る間に、村人たちに声を何度もかけられた。もちろんアリアネにだが、車椅子に乗ってる俺の姿を見ては「娘さん?」って聞かれるのがほとんどであった。
念のために俺は、アリアネの親戚でしばらくアリアネが預かるって事になっている。村に来るまでの道中で考えたのだ。
「ここが長老の家だよ。……そんなに緊張する必要はないさ、肩の力をお抜き」
長老の家、と聞いて気を引き締めたつもりなのだが、それがアリアネには緊張してるように見えたみたいだ。
小さいとはいえ、村の長をやってる人なのだ。失礼のないようにしなければ。
ギィ……と、アリアネが扉を手前に引いた。
瞬間。
「ばあさんや、飯はまだかのぅ?」
「さっき食べたばかりでしょ、おじいさん……て、あら?」
ぴくぴくと体を小刻みに震えさせてるお爺さんと……まるで蝙蝠のような翼を生やした女性が椅子に座っていたのだ。
Σ(・ω・ノ)ノ
「どうぞ、粗茶ですが」
コトリ、と目の前にお茶が置かれる。
……お? 茶柱発見。良いことありそうだ。
少し得した気分になってお茶を口に運ぶ。
ちらりと、おじいさんに目を向けると……。
ガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガクガク。
「!!??ゲホッゲホッ……」
あまりにも衝撃的すぎる光景につい吹きそうになるが、なんとかその前に飲み込むことができた。
おそらく、既に察しがいい人はわかっていると思うが、おじいさんがお茶の入ったコップを手にし、持ち上げた瞬間に大きく手元が震えてコップからお茶が豪快にこぼれているのだ。
口元に辿り着いた頃にはほとんど入ってなかったみたいで、
「ばあさんや、お茶が入っとらんよー」
と声をあげる始末。さらに、持ったままのコップを眺めては……
「ばあさんや、大変じゃー。地震じゃ、地震。それもかなり大きいやつじゃよー」
もうわざとやってるのでは? と疑いたくなる位の勢いで手元が狂い始める。
「……リプル、口開いてるよ」
アリアネの落ち着きのある声音で、指摘するところからこのやりとりを何度もしてきたのだろう。
ズズズ……と、目の前の光景なんてないかのような姿勢をとるアリアネを見て、苦労してるんだな……と思うのであった。
「さて……本題に入りたいところだけど、先にこっちの話からする事にするよ。ほら、自己紹介」
「え、あ。座ったままで失礼します。初めまして、アリアネさんの親戚で、リプルといいます」
ペコリと、頭を下げる。
「あらまぁ〜礼儀正しい子ね〜。本当に貴女の親戚なのかい?」
「それって失礼じゃないですかね?」
「おほほ、ウソよウソ。初めましてリプルちゃん。私はムーランていうの。そしてこちらが私の夫であり、この村の長老の……」
「マイケル……じゃっ↑」
こちらの女性がムーランで、隣のおじいさんが夫のマイケルで……て、え?
「夫!?」
「そうなの、驚いた?」
顔を上下に振って肯定を示す。
「……リプル、口」
指摘されてあんぐりと開いている口を手を使って無理やり元に戻す。
「……あ、もしかして魔人の人?」
そういえば女性の方には翼が生えているのを思い出して尋ねる。
「ピンポンピンポーン、大 正 解 !」
ッパーン! とテープクラッカーが放たれる。
ひらひらりと俺の頭の上にクラッカーから飛び出たと思われる紙吹雪が積もっていく。
……あ、お茶に紙吹雪が。
「……ゴホン。そろそろ本題に入ってもよろしいでしょうか?」
「あ、どぞどぞ」
咳払いしたアリアネを見て、そそくさと散らした紙吹雪を集めて台所に消えていったムーラン。
あっしの頭にも紙吹雪が積もってるんですがね……え、放置? はい了解です。
「で、あたしを呼んだ理由を話してもらおうか」
アリアネの一言により、部屋の空気が一変して重いものになった。その証拠に、の体がピタリと止まった。
ムーランが何度も何度も拭いても零し続けていたお茶も、今ではきちんとコップの中に飲まれるのを待っている。
カチ、カチ……と時計の針の音が静かに響く。
……え、時計あったの!?
しかし、そんな事は口が滑っても言えない。そういう状況なのだ。
あのマイケルですら威厳のあるおじいちゃんに見えてしまえるほどに。
こと…と手に持ったコップを置き、マイケルは口を開いた。
「あ〜ん? なんじゃってぇ?」
台無しである。実はすごい人なんじゃね? って少しでも思った俺がバカだった。
「封印がなんたらかんたらって聞いたけど……そこんとこどうなんだい?」
ため息まじりに聞くアリアネ。
コップに手を伸ばしかけていたマイケルがピクリと反応する。
「なんじゃっ」
「早くしな」
「はいぃ! 実はのぅ……」
ボケをかまそうとしたマイケルにアリアネが威圧ののった一言を放つと、流石にボケをやめて何かを言いかけるが、俺を見て言葉を切った。
あまり聞かれたくない話なのだろうか。
「俺、外に出ましょうか?」
「そうしてくれると助かるのぅ」
「はぁ、仕方ないね……リプル、悪いけど先に帰ってもらってもいいかい?」
呆れ混じりにため息をつきながらアリアネが俺に言った。
「……そうさせていただきますね」
いったい何しにここに来たのだろうか。と疑問を抱きながらもアリアネとマイケルに一礼し、台所にいたムーランは手を振ってきたので振り返して長老の家を出る。
「ふぅ……ほんと、何しに来たんだろうか」
扉を閉めてポツリと一言。
自己紹介するためだけに来たのかな? ……まぁ、これからお世話になるわけだから挨拶をするに越したことはないんだけど。
そんな事より、帰りを一人でなおかつ車椅子で来た道を戻るのかと思うと少し憂鬱な気分になる。
そんな俺に、ほんの数十分前に聞き覚えのある声が俺を呼んだ。
「お? リプルじゃん」
振り向くとそこにはあの三人組のカーネル、ローゼ、タッペイが視界に入る。
「あれ、アリアネさんは?」
ローゼが首を傾げて訪ねてくる。
「まだ中で長老と話してるよ」
「てことはおまえ今ひまなのか?」
「まぁ、暇といえば暇だね。これから帰るところだし」
そう答えると、カーネルは何かを考える素振りを見せる。
「……よし、おまえちょっとつきあえ」
「なに? 告白? ごめんね、その気持ちには応えられない」
「ちげーよ! 今からいこうとおもってるとこがあるんだよ」
「ほー。なんかいいね、そういうの。ついてくわ」
それを聞いたカーネルは「よしきた!」と言わんばかりの笑顔に。ローゼは不安そうな顔に。タッペイは特にこれといった変わらない表情になった。
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