雪と町のおとぎばなし
昔々、あるところに、小さな町がありました。
町の人々は、みんなが不幸。
泥のように濁った道の上を、誰もが俯いたまま歩いていました。
黒くて、暗くて、怖くて。
こんな町なんて大嫌いだと、みんなが思っておりました。
あるとき、町に雪が降りました。
白く、白く、どこまでも白い雪。
綺麗に澄んだ白銀の結晶は、みるみるうちに町を覆い尽くしました。
雪は屋根に積もり、道に積もり。
町のみんなが大嫌いな、黒くて暗くて怖い場所を、みんな覆い隠してくれました。
町のみんなは喜びました。
ああ、わたしたちが嫌いなものはもうないんだ。
嫌なものは、みんな隠れてしまったんだ。
人々は、幸せに暮らし始めました。
幸せに暮らし始めました。
本当に、幸せでした。
ですから、町の人々は変わってしまいました。
不幸を忘れた人々は、少しの不幸でも嘆くようになりました。
街の人々は、簡単なことで挫けました。
簡単なことで諦めました。
ですから、みんなはやっぱり不幸になりました。
雪が降る前よりも、ずっと、ずっと。
町の人々は気づいていなかったのです。
雪が覆い隠してしまったのは、苦しみだけではなかったことを。
雪は、町にあった幸せまでもを覆い隠してしまったのです。
けれど、町の人々は気がつきません。
気がつかずに、苦しみ続けます。
誰かの心の温かさが、いつか雪を溶かすまでは、永遠に――。
そしてその時が来たら、町の人々は泣き叫ぶでしょう。悲鳴を上げるでしょう。
わたしたちに不幸を戻さないでくれ、と。
けれど。
本当に不幸なのは、どちらでしょう。
本当に悲しいのは、どちらでしょう。
どちらの世界が、悲劇なのでしょう。