28.愚か者の叫び-2-
腕をテーブルにのせじっと押し黙るスタンの肩が弾けるように動いた。
「そうだ……、ロシュフォールだ。あいつが……」そういうとスタンはキッチョムに向き直り、その眼を見返した「そこをどけよ……」
「いやだ……、君をここから出すわけにはいかないんだ……。その体で町にいってなにができるのさ、あの化け物は……」
「わかってる……」スタンは腕を持ち上げ拳を強く握る。腕の皮膚から激しく紫煙が吹き出し、蘇生する肉片が激しく音をたてた。
「デスダストを持ってきてくれ、これっぽっちのデスダストじゃ、元に戻る頃には陽が登っちまう……」
「じゅうぶんだろ……、朝には元通りになるんだから……」
「悪いな、こればっかりはゆずれない。俺は町に行くんだ……さあ、デスダストを持ってこいよ……」
「デ……デスダストは、もうないんだ……」
その言葉を聞くとスタンはいぶかしげにキッチョムを見つめ、笑い声をあげた。
「……ハハハ、おい、キッチョム、嘘をつくんだったらもう少しましな嘘をつくんだな!」
「うそじゃない……君に使ったデスダストが最後だ……。もうデスダストはないんだ……」
眼を伏せ、消え入るようなキッチョムの声をその耳に聞きながらスタンはキッチョムを見つめた。その眼に怒りの色が現れ、笑みは消えきつく唇をかみしめている。
「嘘をつくな……デスダストがないだって……?」
キッチョムは力なくうなづき、スタンをまともに見ることができないでいた。
「くだらない嘘をつくな!!そこをどけろ!!」
スタンはキッチョムを押しのけると講堂の扉を開き外へ飛び出した。キッチョムは壁に叩きつけられながらも、スタンを追いかけていく。
暗い夜の中にたたずむ墓守の小屋のドアをスタンは乱暴に蹴り開ける。その体はまるで石のように固まってしまった。デスダストが置かれている棚には大きな空の大瓶が三つ並んでいるだけだった。
その背後にはばかれるようにキッチョムは近づき、スタンの肩に震える手を伸ばし、よわよわしい声を発した。
「ス、スタン……」
その声にスタンは肩を震わせた。怒りの眼をキッチョムに向けた。キッチョムの襟首を掴みあげ、ねじあげる。
「……どういうことだ!!デスダストはどうした!?どこへやったんだ!?」
「……ないんだ……、僕は……、デスダストを……作らな……っ!」
キッチョムの言葉を打ち消すようにスタンの拳がキッチョムの顔面をとらえていた。キッチョムは地面にたたきつけられ、這いつくばり、血と唾を吐き出した。