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28.愚か者の叫び

<愚か者の叫び>


 その日、ソルマントの地に訪れる闇は深く濃く、黒雲に覆われた空に星ひとつ探し出すことも、月明かりを垣間見ることもできない。

 ソルマント教会の講堂の扉が微かに音をたてて開かれる。闇に揺れる紫煙が、煌々とたかれる松明の光の中で揺れた。

 キッチョムは講堂の扉を開けそこに立ちすくんだ。恐ろしい勢いで松明の炎が吹き飛んでいく。揺れる鉄の曲線がまるで生きているかのように松明を砕き、吹き飛ばしていた。一瞬のうちに行動は闇に飲みこまれ、キッチョムの鼻先に不快な、硫黄のような、なにかが腐食しているにおいがかすめた。

 そして歪んだ声が響いた。

「キッチョム……、どこへやった……」

その声を背後に聞き、キッチョムはそこへ眼を向けようとする。

「おっと、振り向くなよ、自分でも驚くくらいひでえ面だからな……」

 スタンの喉元から荒い呼吸が漏れ出ていく音が響き、喉が不快な音をたてている。

「スタン……。起き上っちゃだめだ……。デスダストは効き始めたばかりなんだから」

「だろうな……、おれにもわかるぜ。体中が悲鳴をあげてるんだ、だがこの悲鳴は恐ろしい勢いで死んだ肉体が再生してる証拠だ。ククク……、悪い気はしない……。さて、俺の質問はどうしたんだ?」

「質問……?」

「……レクイエムソードだ……、どこへやった?」

「レクイエムソード……?さあ、わからないけど君が持っていたものならそこのテーブルに全部あったはずだ……」キッチョムが講堂のテーブルを指し示した。

 スタンはテーブルに歩み寄りながら口を開いた。

「ああ、服やなんかは確かにここにあったさ……おれが聞いているのは……」

「レクイエムソードなんて知らない、それがなんなのかも僕は知らないんだ!」

「……レクイエムソードは不死を断つ剣だ。まだ完成してはいないが、スプリング・ヒールド・ジャックのもっているカスパーハウザーの魂を手に入れるのさ。そうすればツルギは完成する……俺にとっちゃ、自分の命より大切なものさ……。」

「スタン、君はもう死んでるんだ、命なんてとっくに……」

 スタンは振り向きその焼けただれ肉の削ぎ落ちた半面をキッチョムへ向けた。丸い目玉が暗い穴の中で蠢いている。その目玉は微かに怒りに震えていた。

「そのとおりだ……、命なんてとっくに捨てた。俺には自らの命を捨ててもやらなければならないことがあるんだからな!!」

「君はソルマントの死人だ、ソルマントを出ちゃいけないんだ!それに君は免罪符ももっていない、君がソルマントにいることが知れ渡ったら……」

「だからなんだっていうだ?俺は俺だ!自分の人生の目的を果たしてなにが悪い!それに俺はお前がひどい目にあわされて黙ってられるほどお人好しじゃないんだよ!!」

「いい加減にしてくれ!君はこのソルマントを抜け出し町へ行った!ハカモリの姿をして!……僕のためだとでも!?僕の仇を取ろうとしたとでもいいたいのか!?」

「だったらどうした……?」

「……知ったことか……、僕は君とは違うからな!君に同情なんてしない!町でひどい目にあったからって、そんな姿になったからって、僕には関係ない。グレスデンなんて放っておけばいいんだ!どうせハカモリなんて嫌われ者なんだから!君たちは自分の人生を生きてここに来たんだ!じゅうぶん自分の人生を楽しむことができたろ!?生まれながらにここにいて、君たちの世話をして……嫌われて……、自分の人生を無駄にしてる僕の身にもなれよ!!」

 キッチョムはスタンを睨み付けていた。歯を食いしばり、震える指先を押し隠すように拳を握りしめた。

 スタンはなにも言わず、キッチョムに背を向け、テーブルに手を置いた。

「……言いたいことはそれだけか……?」スタンの力ない声が講堂に響くと静寂が辺りを支配した。


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